9日の金曜ロードショー(後9時)は、先週に続きスタジオジブリ作品を放送。「紅の豚」(1992年)がノーカットで登場する。

金ローへの登場は、2022年1月以来、3年4か月ぶり。私事で恐縮だが、その時のコラムにも書いたように、記者が最もお気に入りのジブリ作品だ。

 物語の舞台は1920年代のアドリア海。かつてイタリア空軍のエースパイロットだった男ポルコ・ロッソは、軍の方針に従わうのをよしとせず、自分に魔法をかけて豚の姿となり、現在は海賊ならぬ”空賊”を討伐する賞金稼ぎとなっていた。

 ポルコに手を焼いていた空賊たちは、米国人パイロットのカーチスを雇い、対抗しようとする。そんな中でポルコとカーチスはアドリア海に浮かぶ島でホテルを営むジーナ、ポルコの飛行艇の修理を請け負ったフィオを巻き込み、対決をすることになる―。

 ジブリ作品としては高畑勲監督の「おもひでぽろぽろ」(91年)の後に製作された本作は、元々は短編、しかも航空機での機内上映が想定されていた。製作委員会の中に日本航空が入っているのも、それが理由(写真のクレジットの中にある「NN」のうち、一つは「日本航空」。もう一つは「日本テレビ」)。だが、製作の過程で短編では収まりきらないということになり、途中から路線変更。劇場版の長編作品として作られることが決まった。

 収まらなくなった理由は2つあるという。

一つは「ポルコはなぜ豚なのか?」「なぜ、自分に魔法をかけようとしたのか?」という疑問に、劇中で「答え」を入れようとしたため。完成した作品にも、その答えはハッキリとセリフとして書かれていないが、見ていれば自ずから分かるのではないだろうか。

 そしてもう一つは、当時の世界情勢。本作の製作中、海の向こうでは湾岸戦争が勃発した。10年に出版された「スタジオジブリ物語」によると、宮﨑監督は世界が大変な状況となっている中で、脳天気な冒険活劇を描くことに疑問を感じていたという。そのままの形で作品を作り上げることができないとなり、ポルコの背景が膨らんでいく形で、最終的に93分の作品となった。

 ところで、今回の放送は、先週の「君たちはどう生きるか」(23年)の初放送がまず決まり、同時に「どのジブリ作品を一緒に放送するか?」と考える中で選ばれたと思われるが、そこには理由があると考えている。それは、両作とも宮﨑監督が主人公に自分自身を重ね合わせているというところだ。

 かつて、宮﨑監督は本作について「子どものためではない、中年のための映画。自分の作りたいものを作った」と話している。その主人公ポルコは、キャッチコピーの「カッコイイとは、こういうことさ。」にあるように、宮﨑監督自身が目指す男。一方で、「君たち―」の主人公・眞人も、宮﨑監督自身を投影しているという共通点があると思う。

それだけに、本作でカーチスとの戦いの前夜、布団に入ったフィオがポルコと交わすセリフは、公開当時に見た時よりも心にしみてきた。(高柳 哲人)

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