女優・寺島しのぶが出演する舞台「リンス・リピート」(ドミニカ・フェロー脚本、稲葉賀恵演出)が、おもしろい。京都駅ビル内の京都劇場で10、11日に2日間(全3公演)だけの上演。

先の東京公演を見たが、「おもしろい」といっても、単純に楽しめるリフレッシュ系のエンターテインメントとは、ちょっと違う。

 重い摂食障害の治療で、施設にいた多感な大学生・レイチェル(吉柳咲良)が、4か月ぶりに家に帰ってくるところから物語は始まる。母親・ジョーン(寺島)は忙しい弁護士。どこかいつもピリついた雰囲気をまとった女性だ。父親・ピーター(松尾貴史)は家事に積極的で、温厚そうに見える。今作は2019年、現代に「潜む」家族問題を描き、オフ・ブロードウェーで話題になったという。この「潜む」がひとつのキーワードになっているように思う。

 戻ってきた娘を迎えてのだんらん。楽しく和やかな場であるはずが、ここから、ゾッとするこわさが漂う。家族間で交わされるセリフ、表情に注視してほしい。発せられるどの言葉も、本心とは違うような印象だ。それぞれに別の気持ちが「潜む」状態でのだんらん。

そして場面は移り、話が進むにつれ、じわじわ家族それぞれの感情があらわになっていく。後半は特に衝撃的だ。この空間を生み出せるのも、巧みな役者陣の連携とバームクーヘンのような重層構造の芝居によるもの。

 味わったことのないような余韻を残す。東京公演を見て約3週間たつが、不思議な感覚がまだ消えない。真剣に見ていると消耗度も激しい。見終わると空腹感に襲われ、定食屋さんに駆け込んだ。かきフライ定食をほおばりながら、無心で食べられることの幸せをかみしめた。(記者コラム)

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