女優の常盤貴子が10日、大阪・中之島の「大阪中之島美術館」で開催中の展覧会「生誕150年記念 上村松園」の特別トークイベントに登壇。女性として初めて文化勲章を受章した京都出身の日本画家への思いを語りつつ、若い頃に遭遇した女優人生のピンチから脱出するため、自ら編み出したという“儀式”の存在を明かした。

 京都テレビ、TOKYO MX、BS11共同制作の教養番組「京都画報」に出演して5年目。番組でも松園を取り上げたことがある。月あるいは人を待つ女性の後ろ姿を描いた「待月(たいげつ)」について「私は『愛する人が去ってしまう。その後ろ姿を見届ける女性の心理なのかな』と思っていたんですが、後から解説をしていただいた方に聞くと逆だった。恥ずかしい!」と印象に残った様子だった。

 そして話は30年前にさかのぼる。平均視聴率21・3%(関東)を記録して社会現象になったTBS系ドラマ「愛していると言ってくれ」(95年7~9月)に、豊川悦司とともにW主演していた時のことだ。

 「ラッキーなことに、仕事を始めて間もない時に『愛している―』だったり、どっぷり(役に)浸(つ)かってしまう作品に出合うことができました。自分の細胞にも染み渡っていくイメージで、良くもあるけど悪くもあると思うんです。そのおかげで、役柄を抜かなければいけない大切さも知って。別の役ができなくなっちゃうからです」

 「愛している―」で女優の卵・水野紘子を好演。だが、その演技が鮮烈だっただけに、次作への影響も心配された。

常盤自らも

 「一生、紘子を背負って生きてしまう恐れもある」

 と危機感を覚えていたほどだ。

 「それは俳優としてもったいないこと。俳優だったら別のこともやっていきたいのに、どこかで紘子が残ってしまうのは残念ですから」

 次作は、早くも次クールだった。フジテレビ系の月9ドラマ「まだ恋は始まらない」(95年10~12月)。小泉今日子と中井貴一のW主演作で、常盤は主演ではないものの、弁護士という重要な役どころを務めた。

 「そんな大きな役でないことから、ファンの方に批判を受けました。『私たちの紘子を汚さないでくれ』って。それが私にとって大きな体験になったんです。その声を受け止めて、水野紘子て役を心の中に大切にとどめていたら、私はそこから抜けることができなかったと思います。先輩方のドラマに出させていただいたことで『前の役は前の役。これからは新たな役をやっていくんだ』という風に切り替えができた。新たな一歩を踏み出せたのはそのドラマのおかげです」

 では具体的に、いかにして紘子の呪縛から逃れられたのか。

 「割と(女優キャリアの)早い時期に“抜く”って言う作業を独学で編み出しまして…」

 常盤はいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 「次の作品まで、基本的には1週間(の休暇を)いただきたかった。どうしてもだめな場合は3日間くださいと。そして旅行に行くんです。陸路じゃなく飛行機。役を羽田空港なら羽田空港に置いていくイメージで『サヨナラ今までの役!』って(笑)。目的地に降り立ったときは新たな自分に戻っているイメージ。『役抜き』って私は言ってるんですけど、私にとって必要な儀式です」

 自称「カフェおたく」「ホテルおたく」で、お気に入りの海外旅行先はパリだというが、当時は友人とビーチバカンスを楽しんだという。

 「海水に浸かると浄化できそうじゃないですか。ハワイも行ってましたし、東南アジア系も。ちゃぷちゃぷ浸かってました」

 自らの演技に影響されることなく、リセットを繰り返し「新たな自分」を取り戻している常盤。常にフレッシュな感性で新境地を切り開いている。

 〇…月1回放送される「京都画報」の5月放送回は、京都テレビでは6日に放送済み。TOKYO MXでは11日・前11時、BS11では14日・後8時から。BS11+の見逃し配信でも視聴できる。また、常盤自身で撮り下ろし、書き下ろしのフォトエッセー「小さな幸せで満たす日々」(主婦と生活社)は今月16日発売。

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