尾上菊之助改め8代目尾上菊五郎(47)、尾上丑之助改め6代目尾上菊之助(11)の襲名披露公演「團菊祭五月大歌舞伎」(27日千秋楽)が東京・歌舞伎座で連日、にぎわいを見せている。2日の初日から約10日。

新・菊五郎に開幕後の心境の変化とともに、「六月大歌舞伎」(歌舞伎座で2日初日)で続く襲名披露公演での「寺子屋」「連獅子」にかける思いを聞いた。今月の勢いそのままに、6月に向けた準備は、すでに始まっている。(内野 小百美)

 8代目菊五郎に話を聞いたのは7日夜。昼夜舞台に立ち、心身ともに疲労は相当のはず。しかし、幕が開いてからも、終演後にできる限り取材対応しているのだという。「一人でも多くの方においでいただきたい」の一心。この姿勢ひとつからも、責任感の強さがうかがえる。

 「襲名しての実感ですか。まだ言葉でうまく説明できませんが、着到板は『八代目菊五郎』となっているので、楽屋入りの時に、そうなんだな、と思います。舞台に立つ時の神聖な気持ちや役への集中は以前と変わることはありません。でも、特に実感するのは襲名披露口上の時でしょうか。その度に襲名の重みを感じますね」。

口上時に毎回起きる万雷の拍手が、無限の力を与えてくれる。

 開幕しても、安心の気持ちはない。息子、新・菊之助との欠かさない“日課”がある。「菊之助とはその日、良かったところも伝えながら。あそこはもう少し動きを少し合わせよう、とか。明日はこうしてみよう、とか。細かく話し合いながら、毎日舞台に上がるようにしています」。芸は、はかない。ましてや演じる際、自身を客観的に見るのは難しい。若ければなおさらだ。しかし、この親子は二度と戻ってこない、その日の舞台を、とことん顧みて未来につなげようとする。

 昼の部で菊五郎は「勧進帳」で富樫を演じ、その1時間半後に「京鹿子娘道成寺」の花子に挑んでいる。

立役(男役)の大役から、女形の大役へ。一体どのようにして切り替えているのか。「その場、その時になって(演目の)音が聞こえてくると、自然に役に入れている感じでしょうか」。さらっとそう答えるが、役の変貌(へんぼう)ぶりも見る醍醐(だいご)味のひとつだ。

 そして襲名披露2か月目となる6月。歌舞伎俳優がすごいのは、今やっている舞台と並行して次の準備を当然のように始めているところだ。まず昼の部「菅原伝授手習鑑」の「寺子屋」で、8代目は松王丸を演じる。菅丞相の子・菅秀才を救うため、自分の子を犠牲にする壮絶な話。昨年初めて演じ、今回2度目だ。この役は8代目の義父、中村吉右衛門さんの当たり役としても知られる。音羽屋型もあり、双方にゆかりがあることから、襲名演目に選ばれた。

 「岳父が存命なら私、息子の菊之助の襲名を皆さん同様にとても喜んでくれたと思います」といい、「岳父に捧(ささ)げる気持ちとともに、代々の音羽屋も大事にしてきましたので、先祖に捧げるつもりで勤めます」。

思い出す義父の言葉がある。「セリフ回し含め、全て教えていただきましたが、最終的に『役の気持ちでお客さまの心の中に飛び込んでいきなさい』と言われたことが、強く印象に残っています」

 夜の部は、菊之助との共演で2年ぶりとなる「連獅子」。ラストの豪快な毛振りで知られる人気の演目だ。過酷な試練を与える親、それに懸命に応えようとする子の姿を、菊五郎・菊之助親子に重ね合わせて見る人は多いだろう。

 「前回は、まだ菊之助の体もいっぱいいっぱいで千秋楽まで持つかな、という感じでした。2年たって襲名し、体力、精神面も成長させていただいたと思いますので。前回よりも親子の情愛、勇壮な毛振りをスケールアップしてお見せしたいと思っています」

 今月の「娘道成寺」は、早くも伝説になりそうな完成度の高さ。6月も、歌舞伎史に新たな歴史を刻むことになりそうだ。

 〇…8代目の父は、そのまま7代目菊五郎を名乗っているため、史上初の「2人菊五郎」が話題に。今月は口上とともに、夜の部「弁天娘女男白浪」の「滑川土橋の場」で7、8代目が並び立つ姿が見られた。7代目の圧倒的な空間支配力は健在だ。6月、7代目は口上のみの出演。

来月は昼の部で人間国宝・片岡仁左衛門が「お祭り」で花を添える。夜の部「暫」では今月に引き続き、市川團十郎も出演する。

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