市川由紀乃　卵巣がん乗り越え２度目の復活　病床でも抱き続けた「歌いたい」という思い (2025年5月18日)

歌手・市川由紀乃（４９）が、卵巣がんの闘病から復活し、１９日に埼玉・サンシティ越谷市民ホールで、復帰後初の単独コンサートを開催する。昨年６月に卵巣腫瘍の疑いで検査を受け、７月に手術。卵巣がんと診断され、計６回の抗がん剤治療を受けた。１２月に治療を終え、今年２月に歌手復帰を果たした。かつて燃え尽き症候群のため活動休止も経験。２度目の復活となる市川は「歌が好き。皆さんの前でもう一度、歌いたい」と何度も口にした。（増田 寛） マイクを握り、再びステージで歌える喜びが体を駆け巡った。市川はコンサートよりも一足早く、３月４日放送のＮＨＫ音楽番組「うたコン」（拡大版、後７時半）でテレビ復帰した。 「リハーサルから歌える喜びや、温かく迎えてくださる皆さんの言葉にボロボロ涙がこぼれました。闘病中も激励してくれた由紀さおり先輩もリハーサルから来てくれて、『本番は皆さんに泣かずに良い歌を届けなさい。元気になった姿を見せるのよ』と背中を押していただきました。プロとして泣かないことが恩返しだと。なんとか泣かずに歌い切りました」 ２０２４年６月に、病気の治療に専念するために歌手活動の休止を発表していた。約半年間の闘病生活を経て、「うたコン」で完全復活を印象づけた。闘病中には「一時は歌手活動を断念することも頭によぎった」と明かす市川が歌唱曲に選んだのは、「今の自分の思いと大きく重なる」という美空ひばりさんの代表曲「人生一路」だった。 「とにかく皆さんの前でまた歌いたい。その一心でした。『今まで支えてもらった皆さんに、歌で恩返しすることをあきらめてはいけない』『感謝を返さなければ、プロではない』と奮い立たせました」。胸に根性の炎を抱いて、ステージに帰ってくると決めた。意地を貫く人になった。 入院するような大病にかかったことはなく、かかりつけ医もいなかった。ただ、２３年ごろから生理不順、不正出血や腰痛、鼻血などの症状が表れ始めた。５０代を目前にし、ホルモンバランスの変化から来る不調だと思っていた。「周りの先輩方も『私もそういうことあったわ』とおっしゃるので、これは誰もが通る道だとあまり重く受け止めていませんでした」。ただ、由紀さおりにだけは「検査を受けなさい」と諭された。即座に由紀が信頼を置く病院の検査予約までしてくれた。 ５月下旬に受けた検査の結果はまさかの「卵巣腫瘍の疑い」だった。医師からはすぐに入院することを勧められた。念願だった俳優・松平健（７１）の座長公演の稽古に励んでいる最中のことだった。 「目の前が真っ暗になるというのは、まさにこのこと。言葉が出なくて。時が止まったようでした。母と一緒に診断を聞きに行ったのですが、母が一生懸命に『ここは病気を治そう』と励ましてくれて。いつも明るい母ですが、闘病中はより明るく振る舞ってくれました」 ５月下旬に受けた検査の結果はまさかの「卵巣腫瘍の疑い」だった。医師からはすぐに入院することを勧められた。念願だった俳優・松平健（７１）の座長公演の稽古に励んでいる最中のことだった。 「目の前が真っ暗になるというのは、まさにこのこと。言葉が出なくて。時が止まったようでした。母と一緒に診断を聞きに行ったのですが、母が一生懸命に『ここは病気を治そう』と励ましてくれて。いつも明るい母ですが、闘病中はより明るく振る舞ってくれました」 ７月には悪性腫瘍か診断するために開腹手術をした。その場で簡易検査され、悪性ならば卵巣と子宮、リンパ節、腹膜をその場で切除することになると医師に宣告された。女性として子を宿せなくなるが、摘出に迷いはなかった。 「『女性の大切な部分を失う』という思いより、『歌い続けたい』という気持ちが大きかったです。ファンの皆さまに『もうダメかな』と思ってもらいたくなくて。生きて歌を皆さんに届けたい。その一心だったので、躊躇（ちゅうちょ）はしなかったです」。結果は悪性。そのまま６時間かけて摘出手術が行われた。 切除後、さらなる精密検査の結果、「卵巣がんステージ１」も判明。８月から抗がん剤治療も行った。黒髪のロングヘアはごっそりと抜け落ちた。開腹手術だったため、腹筋に力を入れると傷口に痛みが走った。歩くことも歌うこともままならなかった。 覚悟はしていたが、闘病中は心も体もボロボロになった。音楽番組は見るのもつらかった。そんな市川を支えたのは、ファンからの千羽鶴や手紙、先輩たちの言葉だった。「由紀さんに『もう一度歌える日が来た時には、またご指導お願いします』とメールを送ったら、『必ずもう一度歌うの。何のために苦しみに耐えているの』と喝をいただきました。涙が止まりませんでした」 闘病中は演歌以外にも、気持ちを奮い立たせるために矢沢永吉（７５）の曲も聴いていた。「もちろんロックで気分も上がりましたし、何よりも永ちゃん語録には心を救われました。強い気持ちを保つことができました」 燃え尽き症候群のため、２００２年４月から約４年半、活動を休止したことがある。「あの経験がなければ、今私がこうやって戻ってはこられなかったと思います」と過去の経験を糧にした。 「あのときは自分で一度歌から離れる決断をしました。２０代の私は全てをゼロにしたかったのですね。でも、今回は歩みを止めたくなかったのに、止まらざるを得ない。気の持ちようは違いました。もし、２０代でこのような病気になり、歩みを止めるとなれば、復活はかなわなかったと思います。年齢を重ねて、強くなれました。一度目の休養を経験してなければ、復活はなかったとも思います」 闘病を経て生きる姿勢も変わった。「朝、目が覚めたら『今日も生きていられる』と思うようになりました。生の喜びを毎日感じてます。今までは朝起きてそんなに前向きになれなかったです。もちろん、歌に乗せたい思いも違います。昨年１２月にやっと歌えるようになったのですが、当時の感動は忘れられません」 １９日には復活コンサートが開催される。市川は早くも泣かないか心配なようだ。「１曲目、危ないですね。皆さんの顔を見たら、感情がこみ上げてくると思います。泣いてくださる方を見つけてしまったら、なおさらもらい泣きしてしまうでしょうね。でも、プロとして泣かずに歌うことが感謝の恩返しになるはずです」 コンサート翌日の２０日には復帰初の新曲「朧」（おぼろ）を発売する。「自分の思いと魂を込めた歌です。この歌で新たな歌手人生が始まります。私と同じく病気に悩んでいる方に元気とエールを届けられたら」。市川がまた新たな一歩を踏み出した。