フィギュアスケートで使用する音楽の著作権を巡り、日本スケート連盟が強化選手に対して権利許諾を得ることの徹底を求める通達を出していたことが17日、分かった。海外選手が無断使用を理由に訴訟されたトラブルを踏まえた対策。

国内では許諾申請などの手続き方法が整備されていないため、曲の利用許可が取れない事例も発生。来年2月にミラノ・コルティナ五輪が控える新シーズンを前に混乱が広がっている。

 日本フィギュアスケート界が混乱している。日本連盟はこの冬、注目度が集まる五輪シーズンを見据え「競技会に出場する際に、これまでよりも厳しく音楽の権利処理が問われることになる可能性がある」と通達で強調した。

 国際スケート連盟(ISU)の方針を受け、ISUと連携する企業を通じて権利処理を済ませるよう促しているが、関係者は「(同企業に)登録されていない曲は、許諾が取れるか分からない」という。曲の権利者や団体探しから始まるケースも多い一方で、指導者やマネジメント側は許諾申請におけるノウハウが希薄。「許可を得ている選手と、何も言わずに使っている選手がおり、温度差があると思う」と指摘する声もある。

 強化に影響も出ている。ミラノ五輪を目指すある選手は、新プログラムで使いたい曲の利用許諾を関係者を通じて申請したが、「しばらく音沙汰がない」状況。「許可が取れるか分からないから踊れない」。曲や振り付けを決め、プログラムを落とし込む作業は一朝一夕にはいかない。申請を却下されることもあり、「このままでは(シーズンに)間に合わない」と懸念。

申請費用も負担となっている。

 かつては著作権の保護期間を過ぎたクラシック音楽で滑る選手が多く、権利への意識が希薄で体制も整備されていなかった。14~15年シーズンにボーカル入りの楽曲使用が解禁されて以降、問題が顕在化。22年北京五輪の米国ペアや協会が訴訟に巻き込まれた。関係者によると、日本国内で演目の差し止めを求められた例もある。それだけに「今季は五輪シーズンでトラブルは許されない。クラシック音楽に回帰する流れになるかもしれない」と語る関係者もいる。

 複数の音源を編集したり長い曲を短くカットしたりする必要性が、問題を複雑化させている。フィギュアの14年ソチ五輪男子代表で著作権に詳しい国学院大の町田樹准教授(スポーツ科学)は「個人で複雑な権利処理を全てこなすのは実質不可能。日本連盟が一括して処理できるような環境を整える必要がある」と指摘した。

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