シンガー・ソングライターの杏里(年齢非公表)が40年以上前にリリースした「悲しみがとまらない」などが海外でブームとなっている。80年代以降の音楽界を引っ張り、いくつものヒット曲を送り続けてきた日本におけるシティーポップのパイオニア。

デビュー時代からの日々や、今後についてなどを語った。(松下 大樹)

 エネルギッシュという表現がぴったり当てはまる話しぶり。そこには、杏里の人柄がにじみ出ていた。

 「私、中途半端はダメなんですよね。やり遂げるまでやらないとダメな性格。周りにもよく迷惑かけちゃうんですけど」。質問に対する答えは単純明快。言葉の一つ一つに力強さを感じさせた。

 今、80年代の日本を彩ったシティーポップが、若い世代を中心に海外でブームとなっている。松原みきさんの「真夜中のドア~Stay With Me」や、竹内まりや(70)の「プラスティック・ラブ」など、往年の名曲が40年ほどたった今になって世界各地で聴かれている。

 杏里も83年にリリースした「悲しみがとまらない」などが世界中でトレンドになっており「2023年に米国でちょっとし ↓↓ たライブをやったら、オーディエンスのほとんどが20代。そのくらいの子たちが私たちの音楽を歌ってくれているんですよね」と目を丸くする。

「ライブもめちゃくちゃ盛り上がって、何をしゃべっても盛り上がる」と、うれしそうな表情を見せた。

 驚きを持ちつつ、この現象が起こることは、自身の中で感づいていたという。「80が何かしらの形で化けるっていうのは、直感としてあった。令和に昭和の音楽が世界に浸透していることは本当に不思議なんですけど、何となく自分の中で読めていた部分があったんですよね」。デジタル化が進んだこともあり、その直感は現実となった。

 1978年のデビューから45年以上。「悲しみ―」の他にも「オリビアを聴きながら」「CAT’S EYE」など、誰もが一度は耳にしたことがある名曲をいくつも生み出してきた。国内での活躍はもちろん、日本のポップスアーティストとして初めてハワイ公演を行うなど「音楽に関することは、とにかくいろんなことをしてきました」とうなずく。

 デビューからの数年、自身の原動力は「日本の芸能界を変えたい」だった。「みんな同じものを聴いてきて、芸能界の体制がずっと変わってなかった。日本の音楽のカルチャーを誰かが作っていかないといけない」。当時は演歌・歌謡曲が主流派。

親の影響で幼少期から洋楽に触れてきたこともあり、日本に新しい音楽をもたらそうと志した。

 デビュー曲「オリビアを聴きながら」は、当時所属していた事務所の意向により米ロサンゼルスの「A&M  Studio」で収録。「隣のスタジオでカーペンターズがレコーディングしていたんですよ。見ているだけでテンション上がりましたし、衝撃的でしたね」。懐かしそうに目を細めながら振り返る。

 最初こそ自分の意思ではなかったが、その後も「みんながやっていることと違うことをやろう」と海外でのレコーディングを続けた。「人間って環境によって変わる。米国の素晴らしい音楽家たちと音楽を作ると、自分がどんどん磨かれていく。日本で音楽やってる時の自分にないものが発見できました」。異国で触れたものを生かし、ダンスミュージックなど新ジャンルの音楽を作り上げたほか、ライブステージに海外のダンサーを呼ぶなど革新的な取り組みを編み出してきた。

 しかし、日本ではなじみのないスタイルに周囲のスタッフからは拒絶感を示されることも多かった。「誰も聴いたことないサウンドだったりするので『斬新なことしているな』と思われる。

反対も多かったですし、首を縦に振らせるのは大変でした」。幾度も逆風にさらされた。

 それでも、自身は“やり遂げるまでやらないとダメ”な性格。「夢を語るのであれば現実にしなきゃいけない。『夢』というのは私の中で死語なんですけど、やりたいことがあるんだったら、自分でそれをかなえる。努力して、みんなの力をお借りして、成長させていただきながら達成させる」。自分の信じる音楽をとことん突き詰めた。

 すると、83年に「CAT’S EYE」「悲しみがとまらない」が大ヒット。80年代後半にもテレビドラマやCMのテーマ曲として使用された「SUMMER CANDLES」「スノーフレイクの街角」などヒット作を連発した。シティーポップを一気にメジャー文化へと押し上げ「少しは日本の芸能界を変えるような影響を与えた気がします」と胸を張る。

 質の高い音楽を作り出してきたからこそ、40年がたった今も評価を受け続けているが「人としても、アーティストしてもまだまだ未完成。学びたいことがたくさんある」と言い放つ。

「やっぱり音楽ってすごい力を持ってるなと。自分が音楽に動かされている部分は相当ある。音楽をやめるつもりは微塵(みじん)もないですね」。どれだけキャリアを重ねても、音楽に対する熱が変わることはない。

 今はライブ活動に注力。「休まず曲を作ってきたから、まだまだ歌い切れてない曲がたくさんある。できるかは分かりませんけど、優先事項としては、披露していない歌を全部歌い切れたら良いなと思っています」。7月からは全国14か所を巡るツアーも開催。「音楽を続けていくことによって、まだまだ未完成な自分を育ててもらっている気がします」。飽くなき向上心を胸に完成されたアーティストに近づいていく。

 ◆杏里(あんり)神奈川県出身。1978年11月、「オリビアを聴きながら」でデビュー。

83年、「CAT’S EYE」「悲しみがとまらない」がヒット。同年、NHK紅白歌合戦に初出場。87年、初のハワイ公演を開催。2018年、デビュー40周年を記念したオリジナルアルバム「ANRI」をリリース。

 ◆全国ツアースケジュール

▼7月5日 ウエスタ川越

▼27日 茅ケ崎市民文化会館

▼9月6日 小牧市市民会館

▼13日 栃木県総合文化センター

▼15日 SG GROUPホールはちのへ

▼20日 高知県立県民文化ホール

▼27日 神戸国際会館こくさいホール

▼10月4日 豊後大野市総合文化センターエイトピアおおの

▼5日 宇佐市宇佐文化会館・ウサノピア

▼11日 箕面市立文化芸能劇場

▼13日 掛川市生涯学習センター

▼17日 東京国際フォーラム

▼26日 なら100年会館

▼11月9日 トークネットホール仙台

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