映画「国宝」(6日公開)の李相日監督がこのほど、スポーツ報知の単独インタビューに応じた。歌舞伎を題材にした吉田修一氏の同名小説を映画化。
「吉沢亮ありき」と言っても過言ではない。その真意について李監督は「喜久雄を演じられるのは彼しかいないと思った。外見の美しさはもちろん、俳優以外の人格が考えられないところに魅力を感じた。何を思考しているのか、何を求めているのか、見えづらい。フィルターが何枚も重なっている」と説明した。
喜久雄のライバルで、名門の御曹司・大垣俊介役には横浜流星を起用した。「吉沢くんはどこを見ているのか分からないけど、横浜くんは何かを必死に見ようとしている人。その温度感が全然違う。対極、対照的な2人」。共通する部分もあり「勢いだけで『やりたい』と言う2人じゃない。
安易に答えを提示せず、試行錯誤しながら、よりよい表現を導き出そうとする監督だ。「自分で見つけた答えは強いんです。方向性は伝えるけど、最終的な着地点は自分で踏まないと、自分のものにならない。映画って、そのシーンだけで終わるものじゃない。演じる役の人間性を映画1本分、つなげていかないといけない。監督としてイメージ通りに具現化するより、どれだけ突き抜けるのかを目指したい」と力を込めた。
2人は撮影期間を含めて1年半、基礎からみっちりと歌舞伎の稽古をして女形の芸を身につけた。「歌舞伎を習得するのは彼らの目標だったけど、映画としての目標はそれだけじゃない」とさらなる課題を突きつけた。「演じるキャラクターがどんな状況で、どんな感情で舞台に立っているのか、歌舞伎とは違う芝居で見せないといけない。彼らは歌舞伎をしっかり見せようと臨んでいたけど、もう一つ大事な仕事がある。混乱しながらも、そこにトライしていきました」
まるで舞台上にいるような臨場感のあるカメラアングルにもこだわった。
吉沢演じる喜久雄の養父で、横浜演じる俊介の実父である歌舞伎俳優・花井半二郎を渡辺謙が演じた。李監督にとっては「許されざる者」「怒り」でもタッグを組んだ盟友で「何を欲しているのか理解してくれて、頼りになる存在」と信頼を寄せる。自分の演技をしながら、少年時代の喜久雄を演じた黒川想矢を理想的なカメラアングルに誘導するなど、「現場で何が最善なのか、常に考えて動いてくれた」と感謝している。
上映時間は長尺の2時間55分。前後編やシリーズ化ではなく、1本の映画にこだわった。「壮大な一代記を描く上で、時代が飛ぶことがある。1本の映画にすることで、時空を超えて生まれる映画のリズム、躍動感が成立すると思ったんです」。試写会の鑑賞後には「全然、長さを感じなかった」という感想が多く聞かれている。
カンヌ国際映画祭でワールドプレミアを終えて地元紙に「絵画のような美しさ。2025年のカンヌで、最も美しい映画の一つだった」と紹介された。国内の試写会でも絶賛する声が多く、「今年の日本映画で最高の注目作」との呼び声もある。公開を目前に控えて李監督は「好評をいただいてますけど、あまり真に受けないようにしています」と平静を装っている。
◆李 相日(り・さんいる)1974年1月6日、新潟県生まれ。51歳。大学卒業後、日本映画学校で学び、卒業制作として監督した「青 chong」が2000年のぴあフィルムフェスティバルでグランプリなど4部門を受賞してデビュー。主な作品は「フラガール」(06年)、「悪人」(10年)、「許されざる者」(13年)、「怒り」(16年)、「流浪の月」(22年)など。
◆「国宝」 任侠の家に生まれながら、上方歌舞伎の大物俳優・花井半二郎(渡辺)に引き取られ、女形の花井東一郎として芸の道に人生をささげる立花喜久雄(吉沢)の壮大な一代記。喜久雄は半二郎の息子・花井半弥(大垣俊介=横浜)と切磋琢磨(せっさたくま)していく。血筋と才能、歓喜と絶望、信頼と裏切り、もがき苦しむ壮絶な人生の先にある感涙と熱狂を描く。2時間55分。