巨人の長嶋茂雄終身名誉監督=報知新聞社客員=の死去を受け3日、長嶋さんと30年以上親交があった俳優・京本政樹がスポーツ報知の電話取材に応じた。1995年9月29日、長嶋さんから依頼され、セ・リーグの天王山、巨人-ヤクルト戦に“勝利を呼ぶ男”として投入されたことなど、秘話を明かした。

 「覚悟はしていた」と話す京本だが、やはりミスターとの別れはつらい。「無念としか言いようがない。大きなともしびが消えてしまったよう」と声を落とした。

 京本が代表作のドラマ「高校教師」(93年)、「家なき子」(94年)に出演した頃、長嶋さんと出会い、急速に仲が良くなったという。「長嶋さんとはしょっちゅう連絡をしていました。球場にも『来る?』と言っていただいて、試合前には監督室にも通していただき、よくしてもらいました」。

 何度も巨人の試合に足を運んだが、忘れられない一戦があるという。

 1995年9月29日。長嶋さんに誘われ、全日空系列ホテルの中華料理屋でランチをした。巨人はこの日午後6時20分から、ヤクルト戦を控えていた。ヤクルトは、胴上げまであと1勝と迫り、巨人としては絶対に負けられない日だ。緊迫した空気が流れる中、長嶋さんは突然、「そういえば、京本君が球場に来てくれた試合は1回も負けてないよね。

今日の試合、来て」と言い始めたという。京本は「これから打ち合わせがあります」とやんわり断ったが、「それでも来て」と長嶋さんは食い下がり、京本は仕事をこなし、急いで神宮球場に駆けつけた。

 京本が到着した時、試合は1回裏。大きな打球の音と歓声の声が聞こえたが、ヤクルトが先制した。京本は長嶋さんが用意したチケットで席についたが、ヤクルト側の応援席。周囲はヤクルトファンばかりのアウェーだった。仕事帰りだったため、服装と髪形がバッチリきまった京本は目立ったのか、野球記者に囲まれた。長嶋さんから誘われた経緯を話したところ、記者から「京本さんを投入してまで、長嶋さんは勝ちにきたんですね」とも言われたという。

 京本が熱いまなざしをむける中、試合が動いた。7回表、松井秀喜が同点打、広沢克実が勝ち越しのタイムリー、原辰徳がとどめの2点二塁打で逆転勝ち。長嶋さんの狙い通り、“勝利の女神”京本の投入は大成功で幕を閉じた。

 劇的な勝利となり、長嶋さんから「今日はありがとう。

勝たせてもらったよ」とお礼の電話があったが、続けて「京本君、明日は?」と連戦での観戦をお願いされた。残念ながら京本のスケジュールは合わず、翌日の試合でヤクルトの優勝が決まった。京本は「試合を見ていたとき、ヤクルトのことが好きな人たちが『ヤクルト側だけど、長嶋さんが大好き』と言っていた。本当にみなさんから愛される人だったんだな、と思いました」としみじみ語った。

 京本と長嶋さんの間には、語りつくせないほど思い出がある。それでも「優しい、優しい笑顔しか覚えていないですね」と振り返り、「相当沈みました。光が消えたようです」。いつも温かいまなざしをむけてくれた長嶋さんとの別れに声を落とした。

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