◆「国宝」(李相日監督、6日公開)

 任(にんきょう)の一門に生まれながら歌舞伎俳優として生きる主人公(吉沢亮)と、そのライバル(横浜流星)の壮絶な人生。芥川賞作家・吉田修一氏の小説を映画化。

175分の上映時間が短く感じられるほど引き込まれる。歌舞伎担当記者としてもお勧めしたい。

 舞踊家・田中泯(80)の芝居が強烈過ぎて脳裏から離れない。小野川万菊という人間国宝で当代一の女形役。どのシーンも鮮明に記憶に残る。役の人物から放たれる、孤高に生きる者のみが持ちうる独特の怪しさ。圧倒的な存在感。カメラワークも秀逸だ。演技とは一体何だろうと改めて考えさせられる。

 先の京都・東寺での舞台あいさつで田中はこう言っている。「けた外れの門外漢。やってはいけないことをやっているような思いだった」。

撮影から約1年たつ今も「いまだに終わった気がしない」。それだけ役が体の奥深くに入り込んでいたということなのだろう。(内野小百美)

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