◆報知プレミアムボクシング ▷ニューヒーロー第2回 東洋太平洋フェザー級チャンピオン中野幹士

 世界を狙う有望株にスポットを当てる報知プレミアムボクシング「ニューヒーロー」第2回は、東洋太平洋フェザー級チャンピオンの中野幹士(29)=帝拳=。5月4日(日本時間5日)に米ラスベガスで井上尚弥(大橋)の前座でペドロ・マルケス(プエルトリコ)に圧巻の4回TKO勝ち。

13戦全勝12KOと90%以上のKO率を誇る。「鉄の拳」というニックネームからも分かるように、最大の持ち味は当てさえすれば倒れるパンチ力。強打を武器に世界王座奪取を狙っている。

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 初の海外での試合となった米ラスベガスのリング。ど派手なTKOを飾った中野は改めて勝利の喜びに浸った。「あの1勝は日本のリングでの1勝とは違いました。気持ちが高揚して、やってやったぞという感覚になった」という。普段は緊張しない性格だというが、「入場前に緊張しているのが分かった。足が地に着いていない感覚。ふわふわした感じで入場しましたから」。そんな不安を抱えてのスタートだったが、それも杞憂(きゆう)に終わる。

 まだダウン経験のない元WBO北米王者から2回に左で2度ダウンを奪う。

3回も同じく左、4回は連打で4度目。そして再開後にボディーで5度目のダウンを奪いフィニッシュ。目の肥えた本場のファンに十分すぎるほどの存在感を証明した。

 13戦全勝12KO。とにかく当たれば相手が倒れる。小学校時代から腕力には自信があった。校内の相撲大会では1年生から5年生まで準優勝が1回あるだけで、後はすべて優勝した。「相撲というより、手だけ。力だけで相手を投げていた」という腕力自慢。小学校5年の夏に父の仕事の都合で大阪から上京したのを機に、自宅近くのジムでボクシングを習い始めた。都立・竹台高でボクシング部に入部するが、部員は1人。先に入学していた1歳上の兄・勝治さんは、弟が高校でもボクシングを続けられるようにと、顧問の先生を見つけて一足早くボクシング部を創設。

中野が入学すると同時に大会への出場が可能となるようにすべてを整えてくれた。インターハイ、国体など遠征に行っても、部員が数十人いる強豪校とは対照的に竹台高は中野と顧問の先生の2人だけ。「顧問と部員の2人というのは、周りを見渡しても自分たちだけだった」と当時を懐かしむ。

 授業が終わってからの練習は帝拳ジムで行っていた。ただ、入門するまでには時間がかかった。当時、ジムは練習生を受け入れておらず「学校が終わって毎日、見学に行くんですが、まったく相手にしてもらえなかった」という状況の中、何があろうとジムに足を運び、無言で直訴した。2か月後、熱意が認められ入門が許された。そのかいあって部員1人の中、高校では3冠を達成した。

 しっかり当たれば相手は倒れる。中野は自身の「鉄の拳」をこう表現する。「パンチは鉄球をぶつけていくイメージで打っている。ぶつけるというか、貫くイメージ」。

同門のWBOアジアパシフィック・スーパーバンタム級王者・村田昴は10戦全勝全KOというパーフェクトレコードを誇る。2人のトレーナーでもある世界2階級制覇王者の粟生隆寛氏は、それぞれまったくパンチの質が異なると説明する。「物に例えるなら幹士(中野)はレンガ、昴(村田)は野球の硬球。昴のパンチはパカーンと抜けていく感じだが、幹士はズシッと残る」。確かに中野の場合、対戦相手が苦痛に顔をゆがめキャンバスに崩れ落ちるケースは多い。

 世界ランクは主要4団体ですべて10位以内。「世界(挑戦)はちょっとずつ見えてきたかな。でも、今絶対勝てるかと言われると『う~ん』。まだ勝てるというものが、確信にはなっていない」と本音を漏らす。自信が確信になった時、舞台は用意されるだろう。

(近藤 英一)

 

 ◆山中慎介の視点 ラスベガスでの試合が用意されたことでも分かるように、ジム側が大きな期待を寄せる存在であり、その期待にしっかり結果でこたえた。ニックネームは鉄の拳だが、対戦相手の倒れ方でもその破壊力が十分に伝わってくる。

スタイル的にはバランスが良く、見ていて安心できるボクサーだ。今、挑戦の話が来ても、チャンピオンと対等に戦える実力はあると思う。

 ◆中野 幹士(なかの・みきと) 1995年7月14日、大阪府大阪市出身。小学校5年生からボクシングを始め、竹台高校時代に高校3冠を達成。東農大に進学し「第4回台北市カップ国際ボクシングトーナメント」で優勝するなどアマ7冠。アマ戦績は68勝9敗。2018年10月6日のプロデビュー。2024年9に東洋太平洋フェザー級王座を獲得。プロ戦績は13戦全勝(12KO)。身長170センチの左ボクサーファイター。家族は両親と兄、弟、妹の6人。趣味は動画鑑賞。

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