日本代表コーチ、及びドイツ1部フランクフルトのU―21コーチをつとめる元日本代表MF長谷部誠氏(41)が11日、大阪・関西万博のドイツパビリオンでのイベントに出席した。23―24年シーズン限りでドイツブンデスリーガ・フランクフルトで現役を引退し、指導者へと転身。

2つのチームでコーチとして研さんを積む日々に「すばらしい環境、恵まれた環境の中でやれている。大変だと思うことはないし、やりがいしかないです」と充実した様子をにじませた。

 ドイツではフランクフルト、ニュルンベルク、ヴォルフスブルグと1部の3チームでプレーし、引退後もドイツに拠点を置いて指導者の道を歩み始めた。現在フランクフルトU―21では、16~19歳を中心とした選手たちの育成に携わっている。ドイツでは育成年代で最先端の指導を学ぶ中で、練習、試合の分析などでパソコンの前で過ごす時間も圧倒的に増えたという。一方でGPS機器などを利用し、選手の運動量や負荷を細かく計測しながら練習の強度を決めていく、データ重視とも言える現代の指導法に「サッカーはデータだけじゃなく、メンタリティーや勝負を分ける最後のところが大きいと思っている。それを植え付けるのもトレーニングだと思っているので、そのバランスを日々、学んでいる最中です」と話した。

 ドイツサッカーを誰よりも知る日本人として、唯一無二のキャリアをスタートしたが、様々な課題とも直面している。「ドイツの育成も、今は代表チームを見ればわかるように、厳しいと思います。ドイツの指導者ともよく話すのですが、一昔前にドイツの強みだったメンタリティーの部分を、この時代の育成年代にどう植え付けるのかは難しい。煮詰まっている部分はある、と現場では感じますね」。かつて“ゲルマン魂”と呼ばれたドイツ特有の勝負へのこだわりといった部分が、現代のライフスタイルにそぐわなくなってきたことで、指導が難しくなっているという課題も明かした。

今はコーチとして指導しているが、将来的には監督を目指しており「そういうところに立たないと、始まらないなと正直、感じています。この先を考えた時には、より責任感を持てるところ、というのは考えたい」とチームを率いる未来を見据えた。

 2つのチームで指導する多忙な日々だが「長くサッカー選手をやらせてもらって、晩年というか最後の5年くらいは、難しいと思う局面に当たらなかった。ただ指導者になって1年。全くうまくいかないことだらけ。それが新鮮で、すごくうれしいこと」と話した。また「(コーチは)寝る間を惜しんでやるのが普通だと思うし、森保さん(現日本代表監督)も(指導者になった)最初のころ、寝る間も惜しんでやっていて、新幹線の中で寝てしまって格納庫で起こされた、みたいな話もされていた。それが指導者1年目は当然のことだと思っています」とうなずいた。

 さらに「大きな満足とともにスパイクを脱ぐことができたので、選手に対する未練とか、選手たちを見てうらやましい、とかそういう感情はないんです」とも明かした長谷部氏。一方で「今は選手の時に感じていたやりがいとか、それ以上のものを探す途中。それに到達できたときに、(指導者としての)やりがい、生きがいみたいなところが出てくるのかな、と思っています。今は模索中です」と語り、指導者としてのさらなる成長を見据えていた。

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