スペインでプレーする元日本代表DF丹羽大輝は、2024―2025年シーズン、アレナス・ゲチョの一員として4部相当リーグでリーグ優勝を果たした。自身の出場はわずか5試合。

それでも「最高の1年でした」と振り返る。日本ではG大阪、徳島、大宮、福岡、広島、FC東京でプレーし、新たな挑戦を求めて飛び込んだスペインの地。4年目にして直面したのは、サッカー人生初の“戦力外扱い”だった。そんな状況にあらがい、戦い、そして覆した1年間を振り返った。(全4回の4回目 取材・構成 金川誉)

 戦力外の扱いから、シーズン終盤にはスタメンでピッチに立ち、優勝に貢献した今シーズン。毎日が戦い、と言える日々を支えてきた存在が家族だった。その中でも、スペインの地でプロサッカー選手を目指す息子・大心(だいご)から、丹羽は大きな刺激を受けていた。

 「この年齢で戦っている姿を彼に見せたい、というのはある。こんなに息子から力もらえるって本当に思ってなかったので、すごいモチベーションにはなっていますね」

 丹羽の移籍とともにスペインに移住した家族の中で、長男の大心は地元クラブでめきめきと頭角を表し、今年1月には日本人で初めてバスク代表U―14に選出された。バスク代表は、独自の文化を持つバスク地方出身の選手で構成されるチームで、同地方の誇りを象徴する存在。異国の地、しかも独自の文化を持つ同地で日本人がプレーすることの難しさは、同じサッカー選手として誰よりもわかっている。

 「バスクはスペインの中でも異色な地域で、さまざまな歴史がある。

それも含めて、彼は乗り越えようとしている。彼は僕と同じで、めっちゃポジティブなタイプ。だから弱音を吐いている時は、本当に苦しい時。でも彼の中のことを、僕らがわかってあげられる範囲はそんなに多くはないし、差別的なことなども含め、彼が乗り越えていくべきものはめちゃくちゃある。大心が戦っている姿は、やっぱり大きいですね」

 毎朝ふたりで行うトレーニングから1日をはじめ、午後に行われる息子の練習にも足繁く通う。試合の映像を見て、プレー分析を行う“反省会”も、息子の希望で始まった。現在はラリーガの1部クラブへの練習参加も行い、父親が戦うプロへの世界を目指している。

 「朝の練習も、大心がやろうって言ってきたんです。もっとこういう練習したい、パパやろうやって言われて。付き合うよって。今は習慣のようにやっていますね。息子に言われたこと、こんなに嬉しいことはないんで。

試合の映像も、彼が(一緒に)見たいって言うから、それだったらやろうと。練習も、見に行ける日はほぼ行っています。練習が終わった後、バールでピンチョス(スペインで一般的に提供される軽食)を食べながら、今日の練習こうだった、ああだったと2人で分析しながら話しています。彼とそういった会話がどんどんできるようになってきているので、求めるのだったら、パパは全部大心に伝えるよとは言っています」

 スペインに渡り、家族と向き合う時間も増え、その中で息子の成長も実感する日々。現在39歳で、息子大心が14歳。スペインでは、1部クラブのセカンドチームが3部、4部に在籍している例も多く、数年後にはともにスペインの地でピッチに立つという可能性も、決して夢物語ではない。

 「気が付いたら、一緒に親子で戦っているので。妻には、いつまでも(現役を)やりそう、みたいな感じでは言われますけどね。でもね、結局は(自分自身が)プレーヤーなので、今はそこに没頭していますね」

 スペイン4部でのプレーが、日本に伝わる機会は決して多くはない。ただ決して、ひとりで戦っているわけではない。サッカー選手として、父親としての過ごす日々の大切さをかみしめて過ごした、プロ22年目のシーズンだった。そして今シーズン限りで、ゲチョからの退団が決まった。

来シーズンも、スペインで戦い続けることを見据えている丹羽。かつてない苦境を乗り越えてつかんだ自信と手応えを胸に、すでに新たな1年へ向けてすでに準備を進めている。(終わり)

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