プロボクシングWBC&IBF世界バンタム級統一王者・中谷潤人(27)=M・T=は今月8日、西田凌佑(28)=六島=に6回終了TKO勝ちを収め、2団体王座の統一を果たした。強烈なパンチを授けてくれたのが、KOZOジム会長だった石井広三さん(享年34)。
西田選手との王座統一戦は、最初から攻めていくと決めて、それをリング上で発揮できたことは、すごく自信になりました。攻めながらも、耐えているという相手の表情が読み取れていました。西田選手は打ち合いの心構えも、ある程度はあったでしょうが、それをも上回っていけたという感覚はありました。
あそこまで先に攻めると決めて実行したのは初めて。まずは相手を驚かせてペースを崩し、心の余裕を奪う―。初めての作戦なので、不安は練習の段階でもありましたが、やってきたことを信じ切ってパンチを出し続けました。
あの作戦は、西田選手に向けた戦いをイメージしたものですが、こういう戦い方もできるぞと、自分の幅が増えたことを示すことはできました。SNSではいろんなアクションがありましたが、刺激を与えられたかな? (来春東京ドームで)井上尚弥選手と戦うイメージ自体はまだ膨らんではいませんが、その試合が成立するという期待感とか、現実的に成立する流れになっているというのは大きくイメージできてきたかなと思います。
次戦は防衛戦か、階級を上げるかはまだ決まっていません。スーパーバンタム級に転向するという思いは大きくなってはいます。
スーパーバンタム級と言えば、僕にボクシングを教えてくれた石井広三会長の、選手時代の階級。3度の世界挑戦がある広三会長とは、西田選手に勝って31連勝となったことで、勝利数が並んだそうです。ボクシングのイロハを教えてくれた広三会長と勝ち星が一緒になったなんて…。それだけキャリアを積み重ねてきているんだと思うと同時に、会長に教えてもらった、ボクシングの楽しさや素晴らしさを知ってもらえるようなパフォーマンスをしたいと改めて強く思います。
三重県東員町生まれの僕は、隣の桑名市にある広三会長のジムでボクシングを始めました。小6の夏、ボクシング体験で教えてもらった時、ボクシングの形や動きを褒めてもらったのがすごくうれしかった。ジムに通い出してからは“皆勤賞”。風邪を引いても、試合前日でも、ジムが休みの日曜日以外は毎日、行きました。
今でこそ笑い話ですが、初めてバンデージを巻いた時、実は腕の血が止まっちゃったんです! 気合が入っていたんでしょうか。
パンチ一つ一つにこだわって、「この角度じゃダメ」「腕の角度はこうだ」など細かく教えてくれました。下半身の指導も多かったですね。体重の移動をすごく言われました。パンチ一つ一つに、これだけ時間をかけてきたと納得できたからこそ、その教えをずっと大事にしてきました。
広三会長からは、接近戦では「距離がないところで強く打つ」というのも教わりました。「相手との距離は10センチくらいあれば、パンチを効かせて倒せる」と言われて…。サンドバッグより10センチ離れたところからパンチを思いっきり打つ練習を繰り返しました。腕を引いてタメが作れないから体重が乗せにくいのでは?と思うでしょうが、だからこそ体重移動が大事なんだ、と。重心をうまく移動させて体重を乗せてパンチを打つんです。
指導は繊細でも、広三会長の現役時代の映像を見ると、闘志を表に出して、見る人の心を動かす熱いファイトだと思いました。
広三会長、僕は近い将来、スーパーバンタム級で戦います。「世界チャンピオンになる」という約束を果たせて、次は広三会長が「欲しい」と言ったWBCのリングを贈ることができたらいいなと思います。何回か防衛するともらえるそうで、会長は「俺にくれ」と、ちっちゃい僕に言っていました。広三会長と同じスーパーバンタム級で世界王者になって、WBCのリングをもらえるよう防衛を重ねていきます。感謝! 感謝!(WBC、IBF世界バンタム級統一王者)
◆中谷 潤人(なかたに・じゅんと)1998年1月2日、三重・東員町生まれ。27歳。中1からボクシングを始め、中学卒業後、米国で単身武者修行。2015年4月にプロデビュー。16年度全日本フライ級新人王。19年2月に日本同級王者、20年11月にWBO世界同級、23年5月にWBO世界スーパーフライ級、24年2月にWBC世界バンタム級王座獲得で3階級制覇を達成。
◆中谷―西田戦VTR(25年6月8日、東京・有明コロシアム) 開始早々、中谷が接近して右アッパー、左フックなど猛ラッシュ。ボディーなどで応戦する西田に対し、相手の動きを見ながら攻める戦法ではなく、いきなり打ち合いを仕掛ける作戦に出た中谷は、ガードの上からもパンチを打ち込んだ。西田は4回、接近戦からカウンターで反撃。それでも中谷の攻撃は止まらず、西田の右目は大きく腫れ上がった。6回終了後のインターバルで右肩脱臼を報告した西田の陣営が棄権を申し出て、中谷が6回終了TKO勝ち。WBC、IBFの2団体王座を統一した。
◆石井 広三(いしい・こうぞう)1977年8月15日、三重・桑名郡木曽岬町生まれ。天熊丸木ジムから95年7月、プロデビューし、99年8月に東洋太平洋スーパーバンタム級王座獲得。99年11月、WBA世界同級王者ネストール・ガルサ(メキシコ)に挑戦、12回TKO負けも年間最高試合に選ばれた。2000年11月のWBA世界同級暫定王座決定戦は11回TKO負け。