俳優の磯村勇斗(32)がフジテレビ・カンテレ系連続ドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」(月曜・後10時)で民放連続ドラマ初主演を飾っている。俳優業10年の節目での大役にも気負いはなく、日々楽しみながら撮影に励んでいる。
恒星はなぜ光るのか。磯村と話しながら、学生時代、理科の授業で習ったことをふと思い出した。中心部で水素原子の核融合反応が起こり、大きなエネルギーを発生して光や熱を放出する。そのプロセスはまるで、エンターテインメントに対する磯村自身の向き合い方のようだったからだ。
俳優業を始めてから約10年。満を持しての民放連ドラ初主演にも気負いはなく、ニュートラルに、それでいて熱い思いを内包する。2019年の同局系連続ドラマ「TWO WEEKS」の制作陣と再びタッグを組んだ。「僕は単純に今回のプロデューサーさんたちとやりたかった。ただ、以前ご一緒した時に『次やるときは主演でやりましょう』という約束をしていたので、それがついに、というワクワクが強かったです。このご時世、完全オリジナルのドラマを民放のこの枠でやれるという攻めたことを応援したいですし、僕自身も大きな一歩だと思っています」と背筋を正す。
「ぼくほし」で磯村が演じるのは独特の感性を持つ不器用な弁護士・白鳥健治。
高校生役のキャストのまぶしさ、みずみずしさを肌で感じながら、「ここで何かを得て先に進んでいってほしいなって思いが強い。背中を押したくなります」と大人としての目線も芽生えた。「僕らも先輩たちや違う世代の人たちからもいろいろ聞いてきた。自分たちの世代が咀嚼(そしゃく)して、僕たちなりのものをちゃんと作って、若い後輩たち…今回の生徒さんみたいな人たちに、ちゃんと受け継いでいかなきゃいけない世代なのかなという責任感は勝手にありますね」
さまざまな作品で多彩な表情を見せる実力派としてのキャリアを積み、同時に映像監督としての一面も持つ。さらに昨年11月には故郷・静岡県で初の「しずおか映画祭」を企画・プロデュース。ゲストのブッキングや作品選び、自治体との交渉など、発起人として奔走した。俳優の枠を飛び出して、エンタメ産業の未来を見つめている。
「地元の人たちからも、またやってほしいという声を頂いたり、映画を通していい思い出を作れたのは幸せなこと。僕らの最終目標としては、高校生までの学生の映画館料金を無償化にしたいんです。ひとまず県内だけの話ですが…」と熱い思いを明かす。「もし実現できたとして、その人たちが大人になった時の未来を想像するんです。
映画館をフレッシュなエネルギーが集う場所にすること。「子供の頃、父親に連れられて映画館に行って、よく分からない洋画とか一緒に見せられて、それでも『あの空間、面白かったな』みたいな記憶が残っている。映画館ってどうしてもお金がかかるし、いまは結局サブスクで何でも見ることができますよね。サブスクの良さもあるので、そこを否定をするつもりはないんですけど、いかに『今しか見られないんだ』っていうのを伝えられるだろうか、と思っていて…」
脳裏には学生時代の記憶が宿る。「例えばこの映画を見ないと周りから遅れちゃって、話題に乗っていけないっていうのが、学校に通っていた頃とかってよくあった。月9ドラマを見てないと友達の話についていけない現象って、いま学生さんにあるのかな? 今回は学生さんのドラマでもありますし、そういう環境をいかに作れるかが自分の一つの課題のような気がしています」
しなやかに、でも心は熱く貪欲に。「どういう自分でいられたらしっくりくるか、というものがあんまりないんです。若い頃はずっと『俺は役者一本で、死ぬまでやってやる』という精神で走ってきました。でも最近は、流れに身を任せる瞬間もあっていいと思う。30歳を超えて変わってきたのかもしれないですけど…。例えば休養して海外で過ごしてみるとか、表に出るのを少なくして、映画祭とかの方向に力を入れてもいいんじゃないかとか、バランスはいろいろ考えたりしていますね」
自分の人生を自分自身が納得して生き切ること。
◆磯村 勇斗(いそむら・はやと)1992年9月11日、静岡県生まれ。32歳。2015年、テレビ朝日系「仮面ライダーゴースト」で注目を集め、17年にNHK「ひよっこ」でヒロインの夫役を演じる。23年の映画「月」での演技で報知映画賞助演男優賞など、同年度の映画賞レースを席巻した。大のサウナ好きとしても知られる。