歌舞伎俳優の尾上松緑がこのほど、スポーツ報知の単独インタビューに応じ、50歳の節目を迎えた心境を語った。
今年は3月の「仮名手本忠臣蔵」、9月の「菅原伝授手習鑑」、10月の「義経千本桜」という歌舞伎3大名作でいずれも主要キャストに起用されるなど、目覚ましい活躍ぶり。
「仮名手本忠臣蔵」の高師直と大星由良之助、「菅原伝授手習鑑」の梅王丸と松王丸、「義経千本桜」のいがみの権太。いずれも立役屈指の大役だ。3月の開幕前、祖父(2代目松緑)、父(初代辰之助=3代目松緑追贈)の墓前に手を合わせ、「歌舞伎座で初めて由良之助をやらせていただきますと報告しました。僕にとって由良之助は立役の頂点。本当に2人のおかげで、今の自分がある」と感謝した。
歌舞伎の興行を取り仕切る松竹の創業130周年記念で上演される3大名作の通し狂言。主要キャストで起用されるのは名実ともに信頼されている証拠だ。「役者冥利(みょうり)に尽きます。その分、責任は重い。特に由良之助は初役ですけど、片岡仁左衛門のお兄さんに『松緑とダブルキャストで』と言っていただいたのが、うれしい。役者って不思議なもので、一度やると、次はこうしたいと考えるようになる。
「高師直は今後もやっていくベースができた。生々しさと時代物のおおらかさの融合には時間がかかるけど、自分の好きな役ですね」。老け役という意味では昨年、一昨年と2年連続で勤めた「吉野川」の大判事の経験を生かした。「大判事は中村萬壽のお兄さんに誘っていただいたんですけど、二度ほど『僕には無理です』と遠慮しました。それでも『お前がやらないで、誰がやるんだよ』と言ってくれたので、覚悟が決まりました。それを坂東玉三郎のお兄さんが見てくださって、2年連続で勤めることになりました」
父の初代辰之助は1987年、40歳の若さでこの日を去った。松緑が12歳の時だ。今でも、ふとした瞬間に父の面影を思い出す。「ずっと数えていたんです。父が生きていた日数と自分が生きてきた日数を。父が生きた日数を超えた日は、札幌のバーで一人で飲んでました。夜12時になり、日付が変わった瞬間、バーのママに『親父の日数を超えました』と言ったら、『あんた、くだらないこと数えているのね』って笑われました」
それからの10年間、めまぐるしく時が過ぎた。
今年は3大名作だけでなく、1月は時代物の名作「熊谷陣屋」、4月は自身が企画する講談シリーズの「無筆の出世」に出演している。歌舞伎界に必要不可欠な存在となっているが、「飛躍するタイプじゃないし、不器用だから、一歩一歩、歩いていくだけ。目線を落として、いま踏み出した一歩がちゃんと体重が乗って、踏み出せるようにする。それしか考えられない」と慢心は一切ない。
「他の役者が僕と同じ役をやっていたら『今年は充実してたね』と声をかけると思いますよ。でも、僕は目の前しか見られない。