東京六大学野球秋季リーグ戦最終週最終日▽早大3―0慶大(2日・神宮)

 あと1本、届かなかった。大学ラストゲームを終え、積み重ねたヒットは通算99安打。

閉会式を終えた早大のリードオフマン・尾瀬雄大外野手(4年=帝京)は悔しさを胸にしまい込み、爽やかな表情で言った。

 「あと1本届かなかったことに、何らかの意味があると思って、これからも頑張っていきます」

 WASEDAが誇るヒットメーカー。2年春からレギュラーに定着すると、3年春には48打数23安打の打率4割7分9厘をマークするなど、コンスタントに安打をマークしてきた。4年秋の開幕を前に、リーグ通算90安打。到達は時間の問題と思われた。

 だが「あと2本」に迫った10月6日の法大3回戦から、快音は止まった。正面を突く不運な打球もあった。実は右肘の状態が万全ではなかった。それでも言い訳せず、常に強い気持ちで立ち向かった。11月1日の慶大1回戦で安打を放ち「あと1本」に迫ったが、この日は3打数無安打1四球。チームが連勝したことで、自身の大学野球生活にも終止符が打たれた。

 10月23日のドラフト会議では指名漏れも経験した。

寮の部屋で一人、自身の名が呼ばれるのを待ったが、その瞬間は訪れなかった。尾瀬は言う。

 「自分が六大学の4年間で残してきた成績には自信があったので、絶対に呼ばれると自信を持って待っていたんですけど、呼ばれなくて。受け入れがたいというか、すごくショックでした」

 それでも前を向けた。大学ラストゲームは早慶戦。尾瀬にとって特別な一戦だった。試合前、こんな思いを明かしてくれた。

 「自分は早慶戦に憧れて、元々は高校で早実に行きたくて受けたんですけど、落ちてしまって。高校でも早慶戦に対する思いが強くなって、それで高校で頑張って、早稲田に入ったんです。早慶戦の舞台に立てるっていうのは、本当に幸せなこと。最後の早慶戦で、自分の最高のプレーをしたいと思っています」

 リーグ戦では41試合連続出塁、18試合連続安打と神宮の杜を沸かせたバットマン。惜しくも大台には届かなかったが、最高の仲間たちとひたむきに勝利を求め、連勝して学生野球生活を終えることができた。

卒業後は社会人野球でのさらなるレベルアップを希望している。

 野球の神様が尾瀬に課した「あと1本」の意味。次のステージでは必ず、これまでの全てを正解にしてみせる。(加藤 弘士)

 【記録メモ】

 尾瀬雄大(早大)は通算99安打。東京六大学リーグ35人目、早大では10人目の通算100安打に1本届かなかった。

 通算100安打に1本足りず、涙を呑んだのは珍しく、戦前の1934~38年に在籍。後に南海で選手、監督として黄金時代を築いた名将・鶴岡一人(法大)、82~85年に通算11本塁打をマーク、東京ガスでもスラッガーとして活躍した仲沢伸一(慶大)と3人目。

 昨年は春23安打、秋19安打で年間42安打をマーク。年間40安打以上は今年、藤森康淳(法大)45安打(春18、秋27安打)、山形球道(立大)44安打(春24、秋20安打)と2人が記録したが、早大では1949年石井藤吉郎46安打(春25、秋21安打)、2024年尾瀬雄大42安打(春23、秋19安打)、1968年荒川堯41安打(春20、秋21安打)、1968年谷沢健一40安打(春秋各20安打)の4人だけ。

 「関白さん」こと、伝説の強打者・石井藤吉郎に次ぐチーム歴代2位の記録を打ち立てた。

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