最後まで深々と、応援席に頭を下げた。杏林大の主将・鈴木悠太外野手(4年=修徳)は、あふれる涙を何度もぬぐった。

第56回明治神宮大会準々決勝。創部40年目。初の全国大会は延長10回、名城大に2-3でサヨナラ負け。会見場では気丈に振る舞ったが、チームへの思いを語ると言葉に詰まり、泣いた。4年間、青春を完全燃焼できた証だった。

 「勝ちたかったです。全国で勝つ難しさ、1球の重みを知りました。監督さんを始め、同級生に支えられ、ここまで来ることができました。感謝しています」

 東京の強豪・修徳でもキャプテン。「東京球児の聖地」神宮球場は、近くて遠い場所だった。3年夏は東東京で4強入りしたが、2021年は東京五輪が開催されたため、資材置き場となった神宮球場が使用できず、準決勝の舞台は東京ドームだった。「神宮球場でプレーするのは、初めてでした。

幸せでした」。最後を憧れの地で迎えることができた。奮闘した若者への、野球の神様からの粋な贈り物だった。

 杏林大に進学が決まると、指導者に言われた。「大学でもキャプテンをやって、杏林大の歴史を変えろ」。創価大に共栄大、東京国際大に流通経大とハイレベルに栄冠を争う東京新大学野球リーグ。何とか頂点に立ちたいと、自身にも仲間にも、厳しさを求めた。立大を大学日本一に導いた溝口智成監督が昨年1月に就任すると、社会人や強豪大学など、対戦相手のレベルも上がり、ナインの目指すべき境地も高くなった。今秋リーグ戦は初優勝。続く横浜市長杯では頂点に輝き、神宮切符を勝ち取った。「悔しいですが…約束を果たせました」と胸を張った。

 プレーヤーとしてはこの日で引退し、来春からは母校・修徳でコーチを務める。

「勝つ喜び、負ける悔しさを伝えていける指導者になりたい。勝つことで得られることは多いので、勝てる組織を作っていきたい」。4年間の汗と涙で得た学びを、後輩たちに伝えていく決意だ。

 同世代にはドラフト会議で指名され、プロの世界に飛び込む選手もいる。何とか打たせまいと対策に心血を注いだ阪神のドラフト1位・創価大の立石正広内野手(4年=高川学園)も、その一人だ。「もう、立石のことをタダでは見られませんね…」。涙は乾き、笑顔で夢舞台を後にした。(加藤 弘士)

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