「冬季五輪の花」と評されるフィギュアスケート。銀盤を彩る選手の衣装には、どのような職人技が詰め込まれているのか。

選手の高度な技術と人々の心を打つ演技、そして華麗な衣装と三位一体となって作り出される「氷上の芸術」。衣装デザイナーの伊藤聡美さんは、男子でミラノ・コルティナ五輪(2月6日)代表の三浦佳生(20)=オリエンタルバイオ・明大=らの衣装を手がけ、国内外で活躍する。製作の過程と込める思いに迫る。(取材・構成=大谷 翔太)

 フィギュアスケートの舞に華を添えるのが、選手のまとう衣装だ。曲や振り付けと共に、演技の世界観を演出する。ミラノ五輪の男子代表で四大陸選手権(25日閉幕)を制した三浦佳生は、フリーでミュージカル映画「シェルブールの雨傘」を演じる。青いシャツにベストという、スタイリッシュな装いだ。

 「映画の物語や振付師さんから送られてくるイメージを見て、シャツとベスト、パンツという衣装になりました。三浦選手のスタイルを綺麗に見せ、左ポケットにはバラに見えるチーフを入れています」

 シンプルだが、襟元やまくった袖など、細部にもこだわりが。受注からは2~3か月ほどで仕上げる。

 「意識としては、いかに綺麗に見えるか。フィッティングの際に、腕が半分ほど見えていた方がかっこいいなど、相談しながら製作しました。

仕上がりには『スタイルがよく見える』と喜んでくれました」 

 五輪金メダル候補のマリニンの衣装は、ショートプログラム、フリーを共に手がける。選手の声に耳を傾け、イメージをスケッチに写す。

 「マリニン選手は、今季のショートプログラムにゲームの音楽を使っていて、その主人公をイメージした衣装になっています。春先に届いたのは、露出が多い上半身に革製のベルトをまとっているキャラクターのイメージでした。肌色に近いベージュ基調の素材に、ベルトの装飾をすることで力強さやエスニックな雰囲気も表現しました」

 芸術性がありながら、ジャンプやステップ、スピンをこなすスポーツでもあるフィギュアスケート。衣装にも、その特徴が表れる。

 「動きやすさや機能性を考えつつ、芸術的なデザイン面も取り入れないといけない難しさはあります。選手によっては振り付けの動画を送ってくれて、それを見ながらイメージを膨らませます。意見を聞きながら2、3枚書いた画からデザインを選んでもらい、仮縫いの製作。そこから微修正をして、本縫いと装飾に移ります」

 衣装の生地は主に、ダンス衣装などに使われる伸縮性のあるもの。形となった衣装にはスパンコールが彩られ、色合いにも職人の技が光る。

 「装飾は、石を1個ずつ強力ボンドでつけていきます。

現在はスタッフとの共働ですが、色をつけるエアブラシなどは今でも、私が行います。色つけは、衣装が仕上がった後に行うことが多く、失敗ができません。一発勝負の責任感がありますが、グラデーションが入ることで氷上ではとても綺麗に見えます。大事な行程です」

 フィギュアスケートファンだった伊藤さんは専門学校を卒業後、バレエ用品などを扱う会社に就職。2013年からフィギュアの衣装を担当した。15年に独立し、五輪2連覇の羽生結弦さんなど様々なトップスケーターとタッグ。18年平昌五輪、羽生さんが2連覇を決めたフリー「SEIMEI」で着た衣装にも、頂点への強い思いが込められていた。

 「普段、装飾の石のアクセントとしてグレーや暗めの色の物を使うことが多いですが、羽生さんの衣装では使いませんでした。金は、はっきりと分かる金色。シルバーに見える色は使用せず、真っ黒のストーンを選んでいました。色へのこだわりは強く、例えば同じ『緑』でも、数種類の緑色から選んでもらっていました。競技はもちろん、アイスショーの衣装もこだわりを持って作りました」

 多くのスケーターから支持される技術はどのようにして身につけたのか。

独立当初は、手探りから始まっていた。

 「専門学校では、フィギュアスケートの衣装を作るプログラムはありません。フィギュアの衣装は通常の服よりも体にフィットするよう作られるため、パターン(型紙)や使うミシンが違います。独立後は、勉強のために安い衣装を買って一度ほどき、どういうパターンになっているかを学んで、もう一度作り直したりしていました」

 当時は、受注から制作までを1人で担当。春からシーズンに入る夏頃までに、60着に及ぶ衣装を作った年もあったという。

 「1つの衣装に集中すれば2週間から1か月ほどで作れますが、色々な作業を並行して行うと製作には最低でも3か月ほどかかります。トップ選手だけではなく学生スケーターの衣装なども作るため、当時は連日のように徹夜していた記憶があります。ただやはり、その衣装で選手が表彰台に上がってくれると嬉しいです。単純ですが、頑張ってよかったな、と思います」

 最近では、フィギュアスケート以外でも大相撲の幕内・熱海富士(伊勢ケ浜)の染め抜きを手がけた。9月には、パリでのファッションショーに参加予定で、活躍の場を広げている。そしていつか、フィギュアスケート選手らと「ワンチーム」での衣装作りを夢見ているという。

 「選手と一緒にプログラムを作ることができる衣装屋さんになりたいという思いがあります。

選手、コーチ、振付師、衣装屋が、その場で皆でコミュニケーションを取りながら一緒に作り上げる環境に憧れます。衣装を見て、『この衣装であればこういう音楽がいいかもね』と言われるような衣装も作ってみたい。プログラムを作る一員として関わってみたいな、という思いがあります」

 2月、選手は“勝負服”で4年に一度の大舞台に挑む。伊藤さんはただ、健闘を祈っている。

 「今年は、オリンピックシーズンですので、悔いのないプログラムを。皆さんに、悔いのない演技をして欲しいなと思います」

 ◆伊藤聡美さんが直近に手がけた主なスケーター 浅田真央さん、羽生結弦さん、宇野昌磨さん、本田真凜さん、イリア・マリニン(米国)、ボーヤン・ジン(中国)、三原舞依、樋口新葉、河辺愛菜、三浦佳生、中田璃士

 ◆伊藤 聡美(いとう・さとみ)ファッション専門学校の「エスモードジャポン」を卒業。2008年に神戸ファッションコンテストで特選を受賞し、イギリス・ノッティンガム芸術大へ留学。帰国後、バレエやダンス衣装を手がける「チャコット」に入社し、フィギュアスケートの衣装を担当。15年に独立した。

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