2月のミラノ・コルティナ冬季五輪で、フィギュアスケート日本勢は金を含む史上最多6個のメダルを獲得した。ペアでは三浦璃来(24)、木原龍一(33)組=木下グループ=が、史上初の金メダルを獲得。

成功の背景には、黎明期から日本のカップル種目強化を支えた「木下グループ」の存在があった。このほど、同グループの木下直哉代表と、木下アカデミーでゼネラルマネジャー(GM)を務める浜田美栄コーチが特別対談。日本フィギュア界の発展と未来を熱く語った。(取材・構成=大谷翔太)

 2月の冬季五輪では“りくりゅう”がペアで日本史上初の金メダルを獲得し、吉田唄菜、森田真沙也組の“うたまさ”もアイスダンスで日本の団体銀メダルに貢献するなど、所属選手とアカデミーから複数のメダリストが誕生した。強化を支援する木下代表と選手を指導する浜田GMは、一定の手応えを感じつつ率直な思いも語った。

 木下代表(以下、木下)「いつか(りくりゅうが)金を取る可能性があるとは思っていましたが、自分が生きているうちに取れるとは思っていませんでした。ただ、シングルでメダルを取っておらず、決して満足はしていません」

 浜田GM(以下、浜田)「私も、まだ途中経過だと思っています。(千葉百音が4位で)メダルまでもう一歩のところでした。そして、りくりゅうの金メダルを見ていて『やはり、五輪の金は別格だな』と。次の4年間に向けて、アカデミーとしても、そこを目指していきたいです」

 2006年5月、ジャパンオープンへの協賛からフィギュアスケートと関わる木下グループ。14年ソチ五輪から採用された団体種目でメダルを取るべく、日本スケート連盟はカップル競技の強化に着手した。そこで支援を打診された木下代表が、一肌脱いだ。

 木下「当時、シングルは浅田真央選手らが活躍し盛り上がっていましたが、カップル競技は人気がありませんでした。しかし、実際に試合会場で観戦してみると、楽しく、素晴らしい競技だと感じました。その魅力が世の中に広まってほしいという思いがきっかけで、支援を始めました」

 09年にアイスダンスのキャシー・リード、クリス・リード組の支援からスタート。13年からペア選手として所属する木原には、当初は指導者としての将来に期待していたという。長い目で見た育成、選手の人生を預かる思いだった。

 木下「キャシーもそうですが、引退後のセカンドキャリアをどうするか、というところから話をします。龍一君は、優しくて丁寧で、教えるのが上手。当初は引退して指導者となって、彼が教えた選手が花開く、というイメージを持っていましたが『りくりゅう』として花開きました。2022年の北京五輪後は、指導者になってほしいな、とも思っていましたが、今は現役を続けてほしい。本人たちが楽しそうにやっているし、2人を見て多くの人がカップル競技を目指すと思います。(指導者転向は)今ではないかなと思っています」

 浜田「将来的には木原選手たちが帰ってきて『ゆなすみ』の指導をしてくれたらありがたいです。日本でペアを指導してくれるコーチがいたら、という願いは持っています」

 木下「もともとそういうふうに、セカンドキャリアについて話していました。

いずれ、日本で指導してくれると思います」

 20年には木下アカデミーが発足。京都・宇治市の通年リンクで十分な練習環境を整えた。浜田氏はGMとして選手を見極め、カップル競技の素質を見抜く。「向いている選手がやらないといけない」と世界のトップだけを見据えている。

 浜田「昨年からアイスダンスで島田高志郎選手と組む櫛田育良選手は、日本人離れした長身とスタイルで、踊ることもすごく好きな選手です。島田選手も、シングルでは有利に働かない手足の長さが、ダンスでは武器になります」

 木下「昔は、ジャンプが苦手な選手がダンスに行くという傾向でしたよね」

 浜田「はい。ただ今の世界のレベルは、それでは戦えません。氷の上で速く複雑な動きをするには、3回転ジャンプを跳べるくらいの運動能力が必要。その能力と、踊る素質を持った2人には、アイスダンスを強く勧めました」

 木下グループとして見据える未来がある。

 木下「2年ほど前に、木下財団という公益財団法人を立ち上げ、私がいなくなった後でもアカデミーを運営できる体制を整えました。やり始めたら、最後までやらないといけない。30年、50年先を考えています。

練習環境、そして選手もずっとつながっていかなければいけません」

 浜田「選手には、感謝の思いを持って頑張ってほしいです。私もコーチとして、選手のために感謝の心を持つ教育もしっかりとしていきます。安心して頑張れる環境がある、応援してもらっていることへの自覚を持って選手には頑張ってほしいです」

 次回の冬季五輪は、2030年フランス・アルプス地方で開催。木下代表は複数種目での金メダル獲得に期待を込める。

 木下「4年後は、ロシアも出場する可能性があります。ロシア勢に勝ってのメダルに期待したいです。団体、ペア、アイスダンスとシングル、いくつかの金メダルを取りたいですね」

 浜田「私たちの目標には、金メダルしかありません。やっぱり、金メダルを取りにいきたいです」

来月アイスショーで三浦 尼崎凱旋

 木下グループ主催のアイスショー、第5回「ブルーム・オン・アイス」(https://www.kinoshita-group.co.jp/bloom-on-ice-2026/)が、5月1、2日に兵庫・尼崎市の「尼崎スポーツの森」で開催される。“チーム木下”のスケーターが2年ぶりに大集合し、りくりゅうペアの三浦にとっては、地元凱旋となる。千葉百音、長岡柚奈・森口澄士組(ペア)や吉田唄菜・森田真沙也組(アイスダンス)ら五輪代表も出演。世界ジュニア選手権で前人未到の4連覇を達成した島田麻央も登場する。チケットの一般販売は14日から。

 ◆木下 直哉(きのした・なおや)1965年生まれ、福岡県出身。90年に木下グループの前身にあたるエム・シー・コーポレーションを設立。04年に木下工務店へのM&Aを行い、代表に就任する。11年にグループの映画製作・配給事業部門として独立したキノフィルムズの代表にも就任。Tリーグのたちあげに携わるなど幅広い競技の支援も行い、23年にはスポーツ・芸術文化振興を通じた社会貢献を目指し公益財団法人木下財団を設立。

 ◆浜田 美栄(はまだ・みえ)1959年生まれ、京都市出身。競技者を経て、同志社大卒業後にコーチに転向。関西圏を拠点に指導。2024年、日本人初の国際スケート連盟(ISU)スケーティングアワードで最優秀コーチ賞受賞。主な教え子に、太田由希奈、本田真凜、宮原知子、河辺愛菜、紀平梨花、島田麻央、千葉百音、吉田陽菜、ヴィンセント・ジョウなど(敬称略)。

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