劇団新派の女優・水谷八重子(みずたに・やえこ、本名・松野好重=まつの・よしえ)さんが8月28日午後0時18分、都内で肺炎のため亡くなった。松竹が31日、発表した。

87歳だった。葬儀は近親者で執り行う。テレビで「あなたとよしえ」「若い季節」などに出演して人気となり、ジャズ歌手としても活躍。新派の舞台を支える存在だった。後日お別れの会を開く予定。

 八重子さんの声が好きだった。ハスキーがかった特徴ある声。第一声で八重子登場と分かった。

 10年ほど前、「初めて母をテーマにするステージだから」と六本木の喫茶店で会った。母親の初代・水谷八重子は新派の大黒柱として大正・昭和の演劇界に貢献した大女優。「反発して何ひとつ学ぼうとしなかったけれど、母より長生きし、母を伝えたい」が目的だった。母との比較に苦しんだだろうが、13歳も長生きしたのは親孝行だ。

 「何ひとつ学ばなかった」はウソだ。母が言っていた話として「劇場空間を舞台と客席に分けず、演じている舞台が客席後方まで一面に続いていると思って役になれ」を挙げた。これを自分にも言い聞かせているのだと語っていた。

 新派の名作だけでなく、山田洋次監督が脚本・演出した「東京物語」「家族はつらいよ」も印象深い。舞台「犬神家の一族」では琴の師匠を演じ、映画版を凌駕(りょうが)する存在感を発揮した。かつて市川雷蔵さんとも共演し、「雷ちゃん」と呼ぶ仲だった。1958年から4年連続で歌手としてNHK紅白歌合戦にも出演。天性の音感、リズム感も演技力を支えた。

 関西出身の記者は、江戸の風情を残す新派を理解するのは容易でない。「焦らずに。新派は名作であることを振りかざさない。新聞の三面記事に出てくる下世話な話も。

小さな“あるある探し”をして。今に通じる人間の感情の機微が深みを持って描かれているから」と優しかった。あの声が、もう聞けないのが寂しい。(内野 小百美)

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