気候変動の影響で、災害が頻繁に発生しているなか、「地域マイクログリッド」が注目されています。これは「既設の送配電ネットワークを活用して電気を調達し、非常時にはネットワークから切り離して電気の自給自足をする柔軟な運用が可能なエネルギーシステム」(資源エネルギー庁「地域マイクログリッド構築のてびき」より)のことで、現在各地域に導入推進をしています。

一体どのような仕組みなのか、資源エネルギー庁の担当者にお話を聞きました。

エネルギーは中央集権型から分散型へ

2018年の北海道胆振東部地震や2019年に発生した台風15号の被害により大規模停電被害が発生し、“インフラ断絶“が大きな課題になったことは、多くの人にとって記憶に新しいと思います。これは、エネルギーのシステムが中央集権型システムで、電気が一括供給されていることが原因でした。通常、電力は各地域の大手電力発電所で大量につくられ、そして送電線からその地域の施設や住宅に供給されます。この中央の送電システムが断絶すると、一気に全体のライフラインが絶たれてしまいます。

災害時の大停電、切り札は「地域マイクログリッド」。電気の地産地消は進むか?

(写真/PIXTA)

災害時の大停電、切り札は「地域マイクログリッド」。電気の地産地消は進むか?

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そこで着目されたのが、リスク分散が期待できる分散型エネルギー。従来の大規模・集中型エネルギーとは違い、集中型エネルギーを使いつつも、各地域の特徴も踏まえ、小規模かつさまざまな方法や地域からの分散型エネルギーも上手に活用することで、「電力レジリエンス強化」をすることができるのです。

「レジリエンス(resilience」とは、「弾力」「回復力」「強靭」といった意味で使われ、防災分野においては、災害発時にその影響を強くしなやかに乗り越え、速やかに回復できる状態を指しています。

災害時の大停電、切り札は「地域マイクログリッド」。電気の地産地消は進むか?

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災害時の大停電、切り札は「地域マイクログリッド」。電気の地産地消は進むか?

中央集権型から分散型への変化。多様な環境と供給方法に対応することができる(資料/資源エネルギー庁「総合資源エネルギー調査会 長期エネルギー需給見通し小委員会(第6回会合) 資料1」)

分散型エネルギーの好活用「地域マイクログリッド」

さらに分散型エネルギーは、地域のエネルギーをその地域で消費することによる省エネ効果を見込むことも。そのために国が推進しているのが「地域マイクログリッド」です。

「地域マイクログリッドは、平常時は下位系統の潮流を把握し、災害等による大規模停電時には自立して電力を供給できるエネルギーシステムです。平常時は地域の再生可能エネルギーを有効活用しつつ、電力会社などとつながっている送配電ネットワークを通じて電力供給を受けますが、非常時には事故復旧の一手段として送配電ネットワークから切り離され、その地域内の再生可能エネルギー電源をメインに、他の分散型エネルギーと組み合わせて自立的に電力供給可能なシステムです」(担当者)

このモデルは、都市部・郊外・離島では、送配電ネットワークの密集度や非常時に期待される役割がそれぞれ異なるため、対象エリアの特性に合わせ、その仕組みも最適化していきます。

経済産業省 資源エネルギー庁が2021年4月に公表した「地域マイクログリッド 構築のてびき」によると、地域におけるマイクログリッドのシステムモデル例が次のように示されています。

災害時の大停電、切り札は「地域マイクログリッド」。電気の地産地消は進むか?

地域マイクログリッドの仕組み例。非常時に断絶されても、リスクヘッジできる仕組みになっている(資料/資源エネルギー庁「地域マイクログリッド 構築のてびき」)

このモデル図では、平常時と非常時の電気の流れが異なることを示しています。非常時には大型の発電所との送配電ネットワークを切り離し、再エネ電源等から直接の送電を受けることで、生活復旧に必要最低限の電力が確保できるようになっているのです。

なぜ今マイクログリッドなのか?

なぜ今、マイクログリッドが注目されているのでしょうか? それはマイクログリッドによって「分散型電源」である再生可能エネルギーを効率よく活用できるからです。そもそも、電力はエネルギーの状態で貯めておくことはできない上に、送電の間にその一部が失われる「送電ロス」があります。電力を生み出すところと使うところが離れるほどそのロスは大きく、本来地域で電力を作って地域内で消費する分散型モデルの方が無駄なく使えるのです。近年、太陽光発電など再生可能エネルギーを普及させる取り組みが進み、分散型電源を活用しやすいマイクログリッドというエネルギーシステムが注目を集め始めました。

そうしたなか、国は地域マイクログリッドの構築を後押しするために、補助事業も行っています。2018年度と2020年度には、それぞれ10組を超える民間企業や地方自治体などが参画したマスタープランが採択されました。これから徐々に取り入れようとしている企業や団体も増えてきているようです。

災害時の大停電、切り札は「地域マイクログリッド」。電気の地産地消は進むか?

(写真/PIXTA)

災害時の大停電、切り札は「地域マイクログリッド」。電気の地産地消は進むか?

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地域マイクログリッドでプラン採択された団体は多くありますが、事業完成という実例はまだない状況です。一方で、自営線を活用する事例としては、宮城県大衡村の第二仙台北部中核工業団地にある『F-グリッド』(2015年開始)が挙げられます。

災害時の大停電、切り札は「地域マイクログリッド」。電気の地産地消は進むか?

宮城県仙台市大衡村の、第二仙台中核工業団地にある「F-グリッド」(資料/経済産業省『地域マイクログリッド構築の手引き』)

「F-グリッド」が導入された地域内では、日頃から蓄積しているエネルギーをF-グリッド内各工場へのエネルギー供給のみならず、余剰電力は東北電力を通じて近隣の地域防災拠点である大衡村役場などへ供給し、さらにはプラグインハイブリッド車と、充放電システムを拠点に配置をしているため、有事の際にすぐに災害支援活動ができる体制を備えています。

その一方で、「地域マイクログリッド」の構築には技術的にもクリアしなければならない点やビジネスモデルとして収益を確立することに課題点があり、これをクリアすることが普及の鍵となるようです。

あらゆる地域で安定稼働するまで、まだ少し時間がかかりそうですが、地域にこうした安心材料が一つでも増えると、市民にとってはとても嬉しいですね。

また補助事業とは別の制度を利用する形で、マイクログリッドの仕組みを導入している事例もあります。千葉県木更津市にある、広さ30ヘクタールの農場で食や農業体験ができるサステナブルファーム&パーク「クルックフィールズ」では、2021年2月に蓄電池システムを導入しました。「クルックフィールズ」では、2019年9月の台風15号による停電を経験して、長期停電時でも家畜のいる牛舎等への電力の安定供給や、地域住民の避難所として電力供給を自前で行えるようにしたいと思い導入に踏み切ったとのこと。自立したライフラインだけではなく、何かあったときには地域との人たちと助け合える、今後こうした施設は増えていきそうです。

災害時の大停電、切り札は「地域マイクログリッド」。電気の地産地消は進むか?

太陽光発電設備を導入後に蓄電池施設も導入し、マイクログリッドの仕組みを作っている(写真提供/クルックフィールズ)

地域マイクログリッドによる期待と効果とは?

地域マイクログリッドは、対象エリアの分散型エネルギーを活用します。こうした分散型エネルギーの活用によって、災害時や非常時のレジリエンス強化だけではないメリットがあると期待されています。それは環境負荷削減と、エネルギーの高効率での地産地消ということです。地域マイクログリッドに取組むことそのものが地域に新たな産業振興をもたらす可能性もあります。エネルギー課題と街づくりを一体化して取組むことで、地域の活性化につながるかもしれません。
こうした災害や非常時に強い、そして自分たちだけで自立した暮らしを営むことができる街づくりというのは、生活する人としては安心感があり、住みやすいのではないでしょうか。

今後住まいを選ぶ一つのキーワードとして、マイクログリッドを取り入れるエリアは、注目ポイントになりそうです!

●取材協力
・資源エネルギー庁
・(株)KURKKU FIELDS