●年間700杯以上を食べ歩く“ラーメン官僚”こと田中一明氏が、日本全国のローカル・ラーメンの最新事情&行く価値のある名店をご紹介します。今回は長野県のラーメンです。
広大な長野県は「北信」「東信」「中信」「南信」の4つのエリアに大別され、それぞれに代表都市が存在する。「北信」の長野市、「東信」の上田市・佐久市、「中信」の松本市・安曇野市、「南信」の飯田市といった具合に、各エリアに大都市が満遍なく分散する“多極分散型”の構造が成立している。つまり同県のラーメンシーンを理解するには、4エリア全ての店舗を濃淡なく丁寧に巡り歩く必要がある。
長野のラーメンシーンのもう一つの特徴として、認知度が高いご当地ラーメンがほぼ存在しないことが挙げられる(※)。ご当地麺が皆無に近いということは、逆に言えば型にはまっていないということであり、各エリアを代表する実力店の存在意義が極めて高い“店舗主義”的傾向が強いのが、長野ラーメンシーンの実相だ。
以下、エリア別の主要優良店の一部をご紹介しよう。
・北信:『気むずかし家』、『麺道 麒麟児』、『らぁめんみそ家』、『拉麺阿吽』、『そうげんラーメン』、『つけめん丸長』、『ゆいが』、『大黒食堂』、『ホームラン亭』
・東信:『拉麺酒房熊人』、『日昌亭』、『おおぼし』、『スープ研究処ぶいよん』、『麺道千鶏』、『麺道金獅子』、『かじかや』、『こうや』、『麺匠文蔵』
・中信:『凌駕』、『らあめん寸八』、『麺匠佐蔵』、『麦一粒』、『つけ蕎麦中華蕎麦尚念』、『きまぐれ八兵衛』、『月の兎影』、『小麦そば池』
・南信:『ハルピンラーメン』、『麺屋蔵人』、『新京亭』、『上海楼』
以上、30軒挙げてみたが、私自身の経験上、長野のラーメンシーンの大要を掴み取るために必要な要訪問店舗数は、30程度では全く足りず、100は超えるのではないかと感じている。考えてみれば、広大な県土に満遍なく優良店が点在しているのだから、これくらいの軒数になるのは当然といえば当然かもしれない。
今回は筆者が最近、食べ歩いた中から、北陸新幹線で手軽にアクセスできる「北信」と「東信」の2エリアにある、特にオススメできる4軒を紹介しよう。まずはこの4軒から足を運んでいただき、長野ラーメンの多様性と奥深さを、自らの五感で確かめてもらいたい。
(※)佐久市を中心に、味噌ダレに同市の名産『安養寺みそ』を80%以上使用することを条件とした『安養寺ら~めん』を提供する店舗が分布するが、全国的な知名度を獲得するには至っていない。
『中華蕎麦 麓-ROKU-』(飯山市)
4軒のトップバッターを飾るのは、2025年にオープンした『中華蕎麦 麓-ROKU-(ろく)』。店の場所は、戸狩野沢温泉駅(JR東日本飯山線)から約2km。
店主・高柳氏は、「長野市などラーメン店が星の数ほどあるエリアは、競争が激しいですから」と謙遜するが、同氏は、洋食、イタリアン、フレンチ等で修業を重ねた後、ラーメン職人へと転身。長野ラーメン史にその名を刻むレジェンド『麺道麒麟児』の星代表から薫陶を受けた有力職人だ。経歴が語るとおり、同氏の手腕には揺るぎのない説得力がある。
「ラーメンに対する真摯な姿勢は、まず外観に現れる」。ラーメン好きの間で、半ば公然の事実として語られる格言だが、『麓-ROKU-』も例外ではない。千曲川を間近に望む木目の質感を活かした瀟洒な外観は、地方ロードサイド店のステレオタイプとは一線を画し、良店のオーラに満ち溢れている。
レギュラー麺メニューは「中華そば」と「塩そば」の2種類。特にお薦めなのが、海の魚でなく川魚である「鮎」を大胆に主役へと据えた「塩そば」だ。
深いコクを湛えた鶏出汁の合間を縫うように、静謐な滋味を宿す鮎が遊泳する構成。スープを舌上で転がせば、鼻腔になびく「和」の息吹に陶然となる。
スープに野沢温泉村の清冽な名水を、麺に長野市の名門製麺所『酒井製麺』のストレート麺を用いるなど、アイテムチョイスにも一切の妥協なし。しなやかな細麺をすすり上げれば、スープの魅力がより一層克明に味蕾へと伝わってきた。他では味わえない独創的な味づくりに挑む、飯山の異才。新店離れした1杯が世の注目を浴びる日が来るのも、そう遠い未来の話ではない。
●SHOP INFO
中華蕎麦 麓-ROKU-
住:長野県飯山市常盤3921-57
営:11:00~14:30(14時LO)
休:毎週月曜、第1、3日曜
『小布施中華蕎麦 たか野』(小布施町)
次にご紹介するのは、小布施町の『小布施中華蕎麦たか野』。オープンは、2025年5月20日。店舗の場所は、小布施駅(長野電鉄長野線)から約1km。
店主・髙野氏は、長野市の名店『麺道 麒麟児』で店長を務め、星代表の6番目の弟子。満を持して今般、小布施の地に『たか野』を開業した。小布施町と言えば栗菓子で有名だが、そんな同地に、またひとつ新名所が加わった形だ。
店舗は、フラワーショップの跡地。およそラーメン店だとは思えないほど小洒落た外観に、入店する前から、否応なく気分が高揚する。
券売機には「黒毛和牛まぶし御膳」、「炙り地鶏まぶし御膳」など、食欲と好奇心をそそるご飯ものもあるが、ラーメン好きがまず注文すべきは麺メニュー。レギュラー麺メニューは、「醤油そば」、「塩そば」、「つけそば」の3種。初訪であれば、券売機の一列目を占拠する「醤油そば」がお薦め。腹具合に余裕があれば、ご飯ものとのセットがあるので、そちらをオーダーすれば良いだろう。
食券を購入しさらに歩を進めれば、眼前に広がるのは、パーソナルスペースをしっかりと確保した日本料理店にも通じる広大な空間。注文の品が卓上に供されるまでの所要時間も5分弱と、新店とは思えないほど、オペレーションは良好だ。
丸鶏・モミジ・ウィングチップ・ネックなど、鶏の各種部位の味わいの特性を深く研究し、知識を自家薬籠中のものとした店主が紡ぎ出す「醤油そば」の出汁は、キレ・コク・風味の三者がせめぎ合いながらも、やがて一点に収斂。五感の深部を揺り動かす滋味の重なりは、我を忘れてすすりに没頭してしまうほどの立体感と深みを持ち合わせる。
凛と背を伸ばし舌上で瑞々しく跳ね躍る、硬質な『酒井製麺』のストレート麺も、起爆剤として、食味の多幸感を一段階上の高みへと押し上げる役割を全う。
「今は、美味しかったという言葉よりも、具体的な改善提案をいただいた方がはるかに有難い。
●SHOP INFO
小布施中華蕎麦 たか野
住:長野県上高井郡小布施町小布施880-8
営:火~木11:00~14:00(L.O.)
金11:00~14:00(L.O.)、17:00~19:00(L.O.)
土日祝11:00~14:30(L.O.)、17:00~19:00(L.O.)
休:月
『RAMEN LILY』(長野市)
続いてご紹介するのは、2025年1月30日にオープンした『RAMEN LILY』。
店の場所は、長野市の中心市街地・権堂。権堂は、かつては市内随一の歓楽街として名を馳せていたが、近年、観光インフラや若年向けショップが続々と建設・開設され、新世代に対する誘引力が急伸している注目エリア。ラーメン店に関しても、市内屈指の激戦区としての地位を確たるものとしつつある。
『RAMEN LILY』は、そんな権堂エリアの一角に店舗を構える。最寄り駅は、権堂駅(長野電鉄長野線)。同駅から約200mという立地は、同エリアに所在するラーメン店の中でも至便な部類だ。
同店を切り盛りするのは、河島店主。長野市内の実力店で修業し、この度、満を持して一国一城の主となった新進気鋭。
提供する麺メニューは、「塩らぁ麺」、「塩つけ麺」、「醤油らぁ麺」など。
出汁を構成する素材は、豚骨、香味野菜、鯖節、2種類の鰹、羅臼昆布等であるが、特に、舌上から喉元への移ろいさえ知覚できるほど分厚く明瞭な羅臼昆布の滋味には、数多くの「塩」を食してきた私も驚嘆せざるを得なかった。
ゲランドの塩に白醤油、純米酒を合わせた塩ダレも秀逸。立ち上る香気からは、そこはかとない色気が漂い、流星のごとく長く尾を引く余韻は、ふくよかさを演出する素材の乗算のたまものだ。
中盤以降、次第に頭をもたげる豚骨のコクも、味わいに奥行きを与え、滑らかな平打ち麺にしっくりと馴染む。
トッピングに香ばしく焼いたセミドライトマトをあしらい、「洋」の趣をさりげなく添えるギミックも、「分かる」食べ手には刺さるに違いない。塩ラーメンの優良店が比較的少ない長野のラーメンシーンにおいては、貴重な「塩」の名品。権堂へと足を運ばれた際には、この1杯を見逃す手はない。
●SHOP INFO
RAMEN LILY
長野県長野市鶴賀緑町2212−21 日之出ビル1F
営:11:00~14:30、17:00~20:00
※日曜、祝は昼のみ営業
休:月
『中華そば三昧軒』(上田市)
締めを飾るのは、2024年11月8日にオープンした『中華そば三昧軒』。店舗のロケーションは、上田駅(JR東日本・しなの鉄道・上田電鉄別所線)から約500m。
同店は、長野県を中心に複数のラーメン店を展開する『凌駕グループ』の系列店。人気店『らあめんひばりや』を引き継ぐ形で営業を開始。
提供するのは、「中華そば」と「つけそば」の2種類。特に「中華そば」は750円と、上田の地においても異例の低価格。そして、同メニュー(「中華そば」)は、長野が誇る天才ラーメン職人・赤羽氏が長年の研究の末に商品化に漕ぎ着けた“ちゃん系”インスパイアだ。
“ちゃん系”とは、現在、一都三県を席巻している、クラシックとモダンを絶妙に調和させたノスタルジック中華そば。赤羽氏は、その“ちゃん系”の味をベースに長野県民の嗜好に合うよう調整を重ね、『三昧軒』の「中華そば」を完成させた。まさに、スープ、麺からトッピングに至るまで、天才の創意が余白なく盛り込まれた最強の1杯だ。
「つけそば」の完成度も極めて高いが、イチ押しは、やはり「中華そば」。
口を付ける前から宙を舞うスープの香気が「燎原の風」のごとく鼻腔にそよぎ、否応なく食欲を掻き立てる。
レンゲを丼へと滑らせれば、豚骨の重厚なコクと滋味が、舌上でふわりと重なり合い、波紋の如く口内全体へと拡散。
このスープに合わせるストレート麺はモッチリと歯を押し返すような弾力を有し、すする度に食べ手に確かな手応えをもたらす。「チャーシューメン」を頼まずとも約10枚のチャーシューが搭載される点も、特筆に値する。
すすりを重ねるにつれて、右肩上がりに深まりゆく余韻。追加トッピングで購入した「スライス茹でたまご」を箸休めとして摘まみながら、海のように広がるスープの滋味に身を委ねている内に、気が付けば丼を空けてしまっていた。
空っぽの丼を前に、胸の奥から抗いがたき歓喜がこみ上げた。上田のラーメン食べ歩きにおいて、同店を積み残すのは痛恨の極みだろう。万難を排して狙いに行くべき必食の1杯だ。
●SHOP INFO
中華そば 三昧軒
住:長野県上田市大手1-10-5
営:10:00~15:30、17:30~21:00
休:無休
●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。









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