一部でプロ級の舌を持つと噂のタクシー運転手・荒川治さんに教えてもらう「東京B級グルメ案内」。今回は、荒川さんが「東京で本場の博多ラーメンを食べるならココしか行かない」と言う東高円寺の『ばりこて』。
今回ご案内するお店、東京・東高円寺にある博多ラーメン『ばりこて』は、実は、メディアの取材にほとんど応じない「取材NG」のお店です。今回、なぜ私がご紹介できるのかというと、10年以上も通い続けていることに加え、こちらのオーナーの高巣さんは友人でもあり、ご本人にお願いしたら「荒川さんなら紹介していいよ」と言ってくれたからです。
だからちょっと緊張しますが、いつもどおり、私が食べているメニューを紹介します。ちなみに、こちらの店は、本場・博多同様、豚骨スープの匂いが充満するお店です。

「懐かしい」と言われる博多ラーメンの味とは?

メニューは、「博多ラーメン」650円を基本に、煮玉子入りの「玉子ラーメン」760円、博多の万能ネギが丼を埋め尽くすほど入っている「ねぎラーメン」780円、チャーシューが花びらのように入っている「チャーシューメン」860円などがあります。私はいつもそうした具材が全部増し増しの「全部入り」1,100円を注文します。また、麺は「なま」、スープは「味薄め」と付け加えます。
麺の固さは「なま、ばりかた、かた、ふつう、やわ」があります。「なま」をお願いするのは、小麦の香りがよく、食感も好きだからです。「なま」と言っても、熱湯に2~3秒ほどくぐらせます。ちなみに麺の固さの好みは人それぞれで、「“やわ”は表面が柔らかいので、麺に絡むスープの量が多くなっていい」と言う方も結構います。

私がスープを「薄め」にするのは、“薄味”が好みでもあるのですが、もう1つの理由として、豚骨スープの真髄ともいうべき中枢にある旨みをしっかり感じたいからなんです。

着丼までものの数十秒。とにかく『ばりこて』さんは手際が良くて仕事が早い! これも本場博多の屋台ラーメンの流儀です。
そしてここのラーメンの美味しさは、文字で読んだり、私の言葉で聞いたりするのではなく、一度食べてみて、とにかく舌で感じてもらわないと伝わらないと思います。麺の旨み、スープの深いコク、バラチャーシュー脂の甘み…。丼の中の具材とスープと麺の絡みも絶妙で、博多の万能ネギもめちゃくちゃ美味しくて、私にとってはパーフェクトな博多ラーメンです。

さて、先ほどもお話したように、私の場合、替え玉を2回お願いします。最初はそのままで、2杯目は卓上の紅生姜を入れ、3杯目に特製の辛子高菜を入れて、といった具合に少しずつ味変を楽しみます。実は、この食べ方も博多流なんですよ。
美味しいより懐かしい味にこだわり続けて

博多出身の人が「懐かしい味」と口を揃える『ばりこて』。ご主人の高巣さんは福岡県出身で、博多ラーメンを食べて育ったと言ってました。
2000年暮れに東高円寺に店をオープンし、最初の頃はなかなか人が入らなかった時期もあったようです。

「僕は料理人じゃなくてスープしか作れない、いわばスープ人です。でも、美味しいスープを作り続けることを目標にしてきたというより、僕が懐かしいと思う味を守り続けてきた」と、高巣さんは言っていました。そして、現在、東高円寺本店を任されているのは店長の内藤さん。彼に味を引き継いだそうです。
その内藤さん曰く「スープ作りって言葉がないんです。濃すぎてもダメ、薄すぎてもダメ、その絶妙な味を作らなくてはいけないんですが、これだけ煮たらこうなるという答えがなくて、今も修業しているような気持ち。正直、ブレもあるんです」と言います。

スープ作りを高巣さんから教わっていた時も、二人だけにわかる感覚的な用語を作って、「今日のスープはパフッてるね」なんていう風に、他人が聞いたらちんぷんかんぷんな言語で指導されたと言っていました。
“スープのブレ”。

ぜひ、『ばりこて』さんの博多ラーメンを食べて感じてみてください。たった数十秒で出てくる1杯に感動すると思います。あと1つだけ、実はこちらの水餃子も大好きなんです。もし良かったら、食べてみてください。

(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO

店名:博多ラーメン ばりこて 東高円寺本店
住:東京都杉並区高円寺南1-30-15
TEL:03-5378-0326
営:11:30~15:00、17:30~2:00(日~23:00)
休:月
●プロフィール
荒川治
東京都内在住のタクシー運転手。B級グルメ好きが高じて、現職に就き、お客さんを乗車させつつ、美味い店探しで車を回している。中年になってメタボ率300%だが、「死神に肩をたたかれても、美味いものを喰らって笑顔で死んでやる」が信条。写真検索で美味しそうなモノを選び、食べに行って気に入ればとことん通い倒す。でもじつは、自分で料理を作ることも好きで、かなりの腕と評判。