一部でプロ級の舌を持つと噂のタクシー運転手・荒川治さんに教えてもらう「東京B級グルメ案内」。今回は、荒川さんがハマりまくったという讃岐うどん「ひやあつ」を食べさせてくれる東京北区十条にある『いわい』まで、さっそく道案内をお願いしましょう。
「ひやあつ」というメニューをご存知ですか? 讃岐うどん好きの方はご存知かもしれませんが、冷たいうどんに温かいつゆをかけて食べる、本場・香川発祥の食べ方です。結果、少しぬるめのつゆになるので、猫舌の私にとってはありがたいのですが、それだけではありません。讃岐うどんのコシ、出汁の風味を存分に味わえる、素晴らしい食べ方なんです。
ちなみにこの食べ方を考案したのは、香川の超名店『宮武うどん』の宮武一郎さん。残念ながら2009年にお店を閉めてしまったそうですが、長年にわたり、弟子を多く輩出したおかげで他府県にも数々の讃岐うどんの名店が誕生し、“讃岐うどんのブーム”を作ったレジェンドともいえる人なんです。

この話は、今回ご紹介する東京・北区上十条にある『讃岐うどん いわい』のご主人・岩井さんから教えていただきました。岩井さんも『宮武』で修業をした一人なんです。それでは、さっそく、『いわい』さんの「ひやあつ」をご紹介しましょう。

うどんのコシ、出汁の風味を味わえる「ひやあつ」


「ひやあつ」を注文すると、ご主人が手打ちのうどんを茹で、流水でしっかり締めた後に、熱々のつゆをかけて、さっと出してくれます。私の場合、麺量は大600g(500円)。ちなみに小は200g(300円)、中は400g(400円)です。

うどんは太く、重量感があって、表面はツルツル。噛むと歯に粘り強いしっかりしたコシを感じます。

また、うどんつゆは、東京のしょうゆの真っ黒なつゆとは違い、黄金色に輝き、透き通っています。ひと口いただけば丁寧に出汁をとったことがわかる魚介系の澄んだ香りと味わいが広がります。
実は、関東に育った私は、こうした関西風の薄口つゆを20代前半まで知りませんでした。20数年ほど前に大阪で初めて食べて以来、この透き通ったつゆが大好きになり、うどん屋さんに行く時も関西風の店を探したり、また、自分で作る時もこの薄口つゆ派になりました。

そして、4年ほど前に初めて『いわい』さんを訪れた時に、この「ひやあつ」の存在を知り、この食べ方が最も出汁の旨みを感じられ、さらにうどんのコシもしっかり味わえる、素晴らしいアイデアだと感激したんです。
ちなみに、こちらの出汁は、小鍋で本古節、片口鰯、昆布などのエキスを抽出し、それを何度も繰り返して大きな寸胴で合わせるそう。これもレジェンドの『宮武』さんと同じ手法なんです。

「一気に大鍋で炊いてしまうと楽なんでしょうが、やってみると味が全然違うんです。味が濁ってしまう。だから手間がかかっても小鍋で少量ずつやっています」と岩井さんが言っていました。
揚げたてのとり天も旨い!

『いわい』さんでうどんと共にぜひ注文して欲しいのが、天ぷらです。

チェーン系のうどん店では、天ぷらがずらりと並んでいて、好みのものを選ぶことができて、あれはあれで私も大好きですが、
「香川でもあのスタイルはたくさんあります。でも、天ぷらはやっぱり揚げたてが一番美味しい。だからどうしても注文が来てから揚げるスタイルになっちゃいました」
と、ご主人が言うように、やっぱり、揚げたては全然違うんです。薄付きの衣がカラッとしていて、素材がイキイキしていてふわふわ。だから、うどんのつゆに入れても、にじみ出てくる油の量が少なくて、くどくならないんです。

1杯300円~というリーズナブルさも本場・香川のうどん文化にならい、「十条は学生さんが多い街なので、彼らがファーストフード感覚で食べられるようにと思っているんですよ」と言います。そんな店内は、平日でも学生さんやご年配の方などのお客さんでいつもいっぱい。讃岐うどんの伝統の味と心を受け継ぐ「ひやあつ」、ぜひ味わってみてください。
(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO

店名:讃岐うどん いわい
住:東京都北区上十条3-28-7
TEL:不掲載
営:10:30~14:30、17:30~21:00 日祝10:00~15:00
月は11:00~14:00は『ぶっかけや かよ』として営業
休:無
●プロフィール
荒川治
東京都内在住のタクシー運転手。