中国を代表する都市、上海。星の数ほど酒場があり、ネオンが煌々と輝く、まさに眠らない街です。
そしてその条件をすべて満たす新世代のBARの先駆けともいえる名店が、世界で活躍する日本人トップバーテンダー後閑信吾さんのお店『Speak Low』。
2016年に「Asia’s 50 Best Bars」でTop2にランクインするやいなや、その名は世界に知れ渡り大人気店に。独創的カクテルスタイルは上海でカクテルブームを巻き起こし、今や世界中からBARとカクテルを愛する酒飲みたちが訪れる聖地となっています。そんな上海の、いや世界の最先端を行くバー『Speak Low』へ、カクテルの進化を探りに足を運んでみました。
アメリカ禁酒法時代のスピークイージーにタイムスリップ

プラタナス並木の緑が気持ちいい、おしゃれな洋館が立ち並ぶストリート、復興中路を歩きながらお店を目指します。住所の場所にはバーの看板はありません。代わりに、バー用品を扱う『OCHO』というお店があります。
注意していないと通り過ぎちゃうほどの小さなお店なのですが、どんどん人が吸い込まれていきます。おそるおそるお店に入り、店員さんに「バーに行きたいんだけど…」と問いかけると「はいどうぞ、ただしお店への入り方は自分で見つけてください」と言われます。えええっ。

あきらかに目の前の本棚が怪しいな…と思いつつ見つめていると、店員さんがうなずき「試してみて」と。本棚が動き秘密の扉が開きます。

本棚が動くと、暗い地下室にも続くような秘密の通路が登場。コンセプトは禁酒法時代のもぐりの酒場「スピークイージー」をイメージしてつくられているとのこと。まるでスパイ映画のようです。暗い階段の先には何があるのか、いやがうえにもテンションが上がります。
2階で気さくな店員さんに「今なら3階に入れますよ。日本人ですよね、3階はジャパニーズスタイルのカクテルがあるんですよ、行くなら3階でしょう!」と言われ、3階に向かいます。店員さんは皆さん流暢な英語です。上質な対応の中にちょっとフランクな感じの距離感が、すごく居心地がよいです。

この日は早い時間に行ったため3階が空いていましたが、平日でも夜7時には3階は席待ち状態になるとのこと。本当にラッキーでした。8時過ぎで2階はもうこの状態。

3階にもまた遊び心が。
味の想像がまったくできない!
斬新な組み合わせの新感覚カクテル

ゆっくりと扉が開くと小さな秘密の空間にはいろんな国籍のお客さんたちがそれぞれお酒と会話を楽しんでいます。外からは想像もできないほどの賑わいです。立ち居振る舞いの美しい店員さんたちが大忙しで働いている姿がかっこよく、店内は活気であふれています。

さっそく注文しましょう。メニューにも楽しい工夫が。「甜SWEET」「辛SPICY」「楽FUN」「煙SMOKE」などわかりやすいカテゴリーに分かれたカクテルがそれぞれ3つずつ用意されていて、何が使われているかも詳しく書かれています。カクテルの知識がなくても誰でも簡単に注文できます。よくある、メニューのないちょっと敷居の高いバーのイメージとは全然違います。
最初に「旨UMAMI」カテゴリーから「WING VALLEY PARK」をオーダーしてみます。

目の前に出てきたカクテルはなんと急須で登場! 思わず「お茶!?」と突っ込んでしまいました。店員さんが茶杯に注いでくれます。お味はと言うと…和風のダシのような風味の中に、酸味、甘味、渋味などが様々に感じられる複雑なフレーバー。カクテルの土瓶蒸しとでも言いましょうか…でもこれがすごく美味しいんです。今まで経験したことのない、まさに日本の「UMAMI」がつまったカクテルでした。

続いて「煙SMOKE」カテゴリーから選んだのは「SMOKE GETS IN YOUR EYES」。グラスの中にスモークが充満した状態で登場。いかにもスモークに合いそうなバーボン、シェリー、ベルモットなどがミックスされたカクテルです。
すべての酒好きのためのBAR

そんなこんなで、とにかくすべてのカクテルに楽しい仕掛けがあるんです。隣のお客さんが頼んだカクテルが登場するだけで、そのサプライズの演出についつい店内のみんなが笑顔になってしまう。そんな和気あいあいとした雰囲気がとても居心地いい空間。肩肘張らずにカジュアルに、でも本格的で本物の美味しいお酒が楽しめる。アメリカの昔ながらのバー文化に中国の大胆さと日本の繊細さが掛け合わさった、そんな場所にも思えてきます。

流行りもの好きの若い女子も、本格的なモルトファンも、バー初心者も平等。共通するのは「酒好き」ということだけ。そんな左党たちが集まる場所『Speak Low』。今までのカクテルのイメージの枠を超えて、無限に広がる楽しい組み合わせのカクテルの世界、そして国境のない空間が広がっているのを感じました。
次回は2階のメニューを楽しみにまた近々来よう、と思いながらお店から出ると、路上でバーらしきお店が見つからなくて迷っている欧米人観光客に遭遇。「ここはSpeak Lowですか?」と聞かれ、にこりとうなずきました。
(取材・文◎花椒公子)
●SHOP INFO

店名:Speak Low 彼楼
住:上海市復興中路579号
TEL:021-6416-0133
営:平日18:00~1:30
土日18:00~2:30