東京・京成高砂にあるイタリア料理店『トラットリアた喜ち』。リーズナブルな価格帯である一方、筆者の舌感覚では本国イタリアの料理店を凌駕するメニューもあり、かなりオススメのお店です。
こちらのお店では、特に新鮮な魚を使ったイタリア料理が人気で、常連客の一人である筆者もその日ごとに入荷された魚のメニューをいただくことが多いです。いずれもオーナーシェフ・須堯泰彦(すぎょうやすひこ)さんによる卓越した調理によって、魚の味を引き出したものばかりで、ワインがグングン進みます。
魚は、イタリア料理・和食双方で多く使われる食材ですが、特に「鯛」は日本国内での流通量が多く、年間通して入手しやすく、調理の幅も広い魚種です。

今回は恐れ多くもこの鯛を丸ごと一匹使い、どれだけのイタリア料理に転じられるかを『トラットリアた喜ち』の須堯シェフに教えを請い、家庭でも簡単にできるレシピを教えていただき実践してみることにしました。
イタリア料理も和食も「旨い!」と思える料理には素材の良さが重要!

須堯シェフは調理をする際、特に魚料理に関しては、素材を見てその都度微妙な味変えをして顧客に出すため、厳密には「レシピ」というものを保管していないのだそうです。
「最初に私が、各メニューに対して味決めをした配合などを、口頭でスタッフに伝えてそれをメモしてもらうようにはしてはいるのですが、厳密には『当店のレシピ』というものがありません。私自身の経験からベースの味を基本に、素材、特に魚などは素材を見てその都度味を変えながらお出ししているので、やはり厳密なレシピとして他の人に伝えることはなかなか難しいです」(須堯シェフ)
とはいえ、そこは優しい須堯シェフ。「鯛丸ごと一匹からできるイタリア料理」のレシピを、家庭用にザックリ教えてくださいました。
「イタリア料理・和食などに限らず、『これは旨い!』と思えるものって、やはり素材が良いんです。この点、特に魚は顕著だと思います。仮に鯛を丸ごと一匹使って、いくつかの料理をするのであれば、できるだけ鮮度の良い鯛を使ってください。料理が不慣れな方でも素材さえ良ければ、美味しくできると思いますよ」(須堯シェフ)
というわけで、須堯シェフに教わった「鯛一匹から作ることができるイタリア料理・5品」を、筆者も実際に調理してみることにしました。
【その1】「鯛のカルパッチョ」

◎材料(2人分)
・鯛の切り身(生)……適量
・ベビーリーフなど……適量
・塩……適量
・胡椒……適量
<カルパッチョドレッシング>
・(A)マジックソルト……5g
・(A)酢……40cc
・(A)オリーブオイル……50cc
・(A)サラダ油……170cc
・(A)塩……少々
・(A)はちみつ……少々
◎作り方
1.鯛の切り身(生)を食べやすい大きさにカット。冷蔵庫で冷やす。
2.(A)の材料をボウルに入れよく混ぜ合わせておく
3.皿に鯛の切り身(生)とベビーリーフなどを盛り付け、軽く塩・胡椒を振った後、(A)をかけて完成
「ベビーリーフがなくても、お好みで万能ねぎ、みょうがなどを乗せても美味しくできると思います。当店ではさらにとびっこなどをパラパラと乗せてお出しすることもありますね。簡単で美味しくできるはずですので、是非やってみていただきたいメニューの一つです」(須堯シェフ)
【その2】「鯛の兜焼き」

◎材料(2人分)
・鯛の頭……一尾分
・塩……適量
・オリーブオイル……適量
<ケッパーソース>
・(A)オリーブオイル……20cc
・(A)すりおろしにんにく……少々
・(A)ケッパー……30g
・(A)バルサミコ……30cc
・(A)麺つゆ……5cc
◎作り方
1.鯛をおろした後、鯛の頭からエラをハサミなどで取り除き、綺麗に洗う。洗った後、口の部分から包丁を入れ二つに切る
2.熱したフライパンにオリーブオイルを敷き、二つに切った鯛の頭を両面焼き、塩を適量振る
3.別のフライパンでオリーブオイルを熱し、中火ですりおろしにんにく、ケッパーを炒める。焦げる寸前のところで火を止め、バルサミコ、麺つゆを加えてよく混ぜ合わせる。これが兜焼きにつけるソースになる(A)
4.鯛の兜焼きを皿に盛り付け、(A)のソースをつけて完成

兜焼きはそのまま塩だけでも美味しくいただけますが、須堯シェフ直伝のケッパーソースをつけていただくことで、イタリアンな風合いになります。甘味、酸味、香ばしさが入り組んだケッパーソースと兜焼きの香ばしさがベストマッチ! 実に美味しい逸品になります。
「ケッパーソースを作るのが少々面倒ですが、これを兜焼きにつけて召し上がっていただくことで、より美味しく食べられると思いますよ」(須堯シェフ)
【その3】「鯛のアクアパッツァ」

◎材料(2~3人分)
・鯛の身……半身分
・にんにく……1カケ
・オリーブオイル……適量
・塩……適量
・胡椒……適量
・ムール貝……約70g
・あさり……約70g
・オリーブ……適量
・ケッパー……適量
・プチトマト……適量
・美味しい水……700c
・白ワイン……100cc
・ローズマリー……適量
◎作り方
1.おろした鯛の半身分に軽く塩をふり、10分ほど置いておく。にんにくはみじんぎりにし、プチトマトを半分に切る
2.1の鯛の身の水分をペーパータオルで拭き取った後、熱したフライパンにオリーブオイルを敷き、鯛の身を中火で両面焼く
3.弱火にしてにんにくを加え、香りたったところで、ムール貝、あさり、おいしい水、白ワインを加え、中火にする。次にオリーブ、ケッパーを加え沸騰したら蓋をし、弱火で5分ほど蒸す
4.塩・胡椒を適量振り、味を調整して、最後にローズマリーを乗せて完成
鯛は身だけでなく出汁も美味しいことで知られている通り、出汁の旨みを楽しむアクアパッツァも、鯛×イタリアンでは、欠かすことがでないメニュー。今回はムール貝、あさりなども加えてみましたが、須堯シェフによれば、海老やイカなどを加えても良いとのこと。
「スーパーで売られている冷凍のシーフードミックスと一緒に炊いても良いかもしれません。ただ、一つだけこだわっていただきたいのが『水』です。アクアパッツァは水がソースになるので、水道水ではなく、必ず美味しい水を使ってください」(須堯シェフ)
【その4】「鯛のリゾット」

◎材料(2人分)
・(A)鯛のアラ(骨)……適量
・(A)水……500cc
・(B)鯛の身……60g
・(B)オリーブオイル……適量
・(B)塩……適量
・(B)胡椒……適量
・無洗米……1合
・オリーブオイル……適量
・玉ねぎ……6分の1
・無塩バター……10g
・チーズ……適量
・塩……適量
・胡椒……適量
・白ワイン……適量
◎作り方
1.鯛のアラ(骨)を綺麗に洗う。同時に鍋に水を張り、強火にかけ沸騰したところで、鯛のアラ(骨)を入れ弱火にする。
2.フライパンにオリーブオイルを熱し、鯛の身を両面焼く。軽く塩胡椒をする(B)
3.玉ねぎをみじんぎりにする。フライパンを熱し、中火で無塩バターを敷き、みじんぎりにした玉ねぎ、無洗米と一緒に焦がさないように炒めていく
4.途中、(A)の鯛のスープ、白ワインなどを少量ずつ加えていく。10~15分ほどで米が良い固さに炊き上がったところで、チーズ、塩・胡椒を適量和える
5.皿に盛り、リゾットの上に(B)のソテーを乗せて完成
「リゾット風のものは、炊き上がった白いご飯などでもできますが、やはり炊いていない状態からフライパンで少しずつ旨みを加え炊いていくほうが美味しくできるはずです。また、今回は鯛のスープを炊き上げていくようなレシピにしましたが、旨みが足りない場合は、コンソメなどをちょっと足してみると良いと思いますよ」(須堯シェフ)
【その5】「鯛のペペロンチーノ」

◎材料(2人分)
・鯛の崩れた身……適量
・輪切り唐辛子……小さじ1
・にんにく……1カケ
・オリーブオイル(鯛炒め用)……適量
・オリーブオイル(ソース用)……大さじ2
・白ワイン……大さじ3
・パスタ……160g
・塩……適量
・胡椒……適量
・イタリアンパセリ……適量
・パルミジャーノ・レジャーノ……適量
◎作り方
1.フライパンでオリーブオイルを熱し、鯛の崩れた身を適宜焼き、取り出しておく
2.イタリアンパセリをみじん切りにする。パルミジャーノ・レジャーノをすり下ろす。にんにくをみじん切りにする
3.フライパンを熱し、大さじ2のオリーブオイルを入れ、ニンニクを軽く炒める。さらに輪切り唐辛子を加え、香りが立ってきたところでいったん火を止める
4.大きめの鍋にお湯を沸かし、パスタを茹でる。パッケージに記載されている1分強早めの時間まで茹でる
5.パスタの水気をしっかり切った後、(3)のパスタソースのフライパンを再び中火で加熱。パスタとソース、塩・胡椒適量を和え、皿に盛り付ける
6.(1)の鯛の身、(2)のイタリアンパセリ、パルミジャーノ・レジャーノを乗せて完成
「鯛のくずれた身を使ってのパスタは、ペペロンチーノだけでなく、クリームソースにも合うと思います。トマトソースだと、せっかくの鯛の味が消えてしまうので、これはもったいないかもしれませんが、普段作られているパスタメニューに、鯛の崩れた身を活用していただければ、普段のパスタよりもさらに美味しい一品に仕上がると思いますよ」(須堯シェフ)
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鯛一匹から5品のイタリアンを作ることができました。同時に、イタリア料理はシンプルな調理が多いと思われる人もいるかもしれませんが、その世界は実に奥が深く、相当な技術がないとお店のレベルにはたどり着けないことも、思い知った筆者。
(撮影・文◎松田義人)
●SHOP INFO

店名:トラットリアた喜ち
住:東京都葛飾区高砂5-46-3 スカイコート高砂第3 1F
TEL:03-6658-5765
営:11:30~15:00(L.O.14:00)、17:30~23:00(L.O.22:00)
休:水曜