最近、映画の大ヒット作品が話題になる一方で、“あえて音のない映画”が注目されています。実は今、都心部を中心に無声映画の上映イベントがじわじわ増えていて、東京都内ではほぼ毎日、どこかで無声映画が上映されているんです!

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無声映画上映の様子/無声映画振興会 提供

無声映画は、言葉の通り「音がない」のですが、台詞や場面の状況を語る「活動写真弁士」や楽器の演奏などが加わって映画に音を、色を付けます。

無声映画の上映、増え始めたワケ

なぜ今100年前の無声映画を・・・?上映活動が増えている背景について、マツダ映画社の松戸誠さんに伺いました。

株式会社マツダ映画社/松戸誠さん

例えば10年前とか20年前とかですと、フィルムでないと上映会ってできなかったんですけど、今はデジタル化されて、上映する場所も小さなカフェだとか、そういうスペースなんかでもできるようになったし、機材もそういう意味では非常に気軽にというか 小スペースで少人数でできるようになっているので、回数自体は多分相当増えたと思います。戦前まではある程度見る機会っていうのはかなりあったと思いますね。ただ特にやっぱり戦争があったり震災があったりしたので、当時作られたものからすると本当にもう数パーセントしか残されていないっていうのが現実ですから、それは非常にやはり貴重なものですよね。

デジタル化されて上映が増えて、それがSNSでも広がって若い世代が知る機会も増えたそうです。上映会の情報は、マツダ映画社、無声映画振興会などのHPでチェックできますよ!

声が語る映画の世界 無声映画と活動写真弁士に注目
屋外での上映会も/無声映画振興会 提供

無声映画は会場で生の楽器演奏をつける上映スタイル。これが「ライブエンタメ」として、幅広い世代に新鮮に映っているんです。

活動写真弁士に聞く、「活弁」の面白さ

ライブ要素という点では、活動弁士の臨場感あふれる「語り」も欠かせません。「語り」で観客を魅了する活動弁士に、お話を聞いてきました!関西を中心に活動されている大森くみこさんのお話です。

活動写真弁士/大森くみこさん

基本的にはセリフやナレーションをつけるということなんですけれども、もう一つ弁士はとても大事な仕事がありまして、そこが弁士の大変なところなんですが、当時から基本、自分の台本は自分で書くというのが習わしなんですね。セリフは字幕で入ってくるんですけれども、それ以外の、作品についての背景とか解説を間に入れることもありますし、全て弁士が自分で考えてしゃべるということなので、台本を書くというのが非常に大きな仕事の一つでもあります。最初の頃にできた映画って字幕も入っていなかったりとか、舞台をそのまま撮ってるような作品なんかもあるんですね。そういう作品になってくると、本当に弁士の台本次第という感じで、時にはあらすじも少々違えば、結末も違うというようなことがあり得るということですね。

なんとまあ、結末が変わってしまう事もあるとは・・・!(笑)活動弁士が変われば、同じ作品でも何度も何度も楽しむことができますよね。

声が語る映画の世界 無声映画と活動写真弁士に注目
大森さんの語りを聞く小学生/無声映画振興会 提供

無声映画全盛期の時代は活動弁士は花形職業。今でいう、会いに行けるアイドル!それぞれの「推し」を見つけて楽しむという点では、今と通じる部分があるようですね。

大森さんは、弁士の語りが良かったと言ってもらえることも嬉しいが、やはり「映画が面白かった」と言ってもらいたい。そのために作品選びから始まり、台本作りなど作品そのものを楽しんでもらえる工夫をしていると話していました。

作品のジャンルも、コメディだけでなく、邦画やアニメなんかも!どの作品を見るか、どの弁士で見るか、選ぶ楽しみが無声映画にはありますね。

誰にとっても新しい「無声映画」

そんな弁士の語りと無声映画を実際に体験した方はどう感じたのでしょうか。先日、東京の調布市で「ラ・ボエーム」という、1926年公開のアメリカの無声映画の上映会があったので、観に来た方にお話を伺いました!

すべて弁士さんが語るわけじゃないじゃないですか。逆に想像と共に情感が伝わるような気がしました。

とにかく作品が貴重なものが多い。古くて見られないものも多々ある中で上映されているものですので、ずっと見ていこうと思います。

この映画って戦争前、あるいは戦中みたいな時代が多いじゃないですか。だから親父が生まれたようなそういう時代のことが見られて面白かったですね。

10代の頃親が見ていたのかな、懐かしいなあと思って。画面の俳優がほんとに話しているように、もう感激して・・・涙が浮かんじゃいました。

感慨深げですね~。この上映会は調布市のせんがわ劇場というところで行われたのですが、満員御礼!

平日の昼間の上映だったので50代~80代くらいの方が多かったのですが、夜の部は20代、30代の方もいらっしゃるようです。100年前の上映スタイルなので、もはや全世代にとって「新しい」感覚に近いのかもしれません。

声が語る映画の世界 無声映画と活動写真弁士に注目

私も鑑賞したのですが、観客席から起こる歓声や笑い声など、普段の映画館では味わえない一体感が無声映画にはあるなと感じました。

かつて映画館は賑やかで活気がある場所でした。その楽しさを、今、無声映画と活動弁士によって思い出したり、改めて知ったりするきっかけになるかもしれません。


TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:糸山仁恵)

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