先日の台風22号、23号は東京・八丈島で大きな被害をもたらしました。こうした災害時、停電や断水でもっとも心配なのは、やはりトイレが使えなくなること。
土に埋めて土にかえる携帯トイレ
そんな中、ある意味、究極の携帯トイレがある、という情報を聞き、取材しました。どんな携帯トイレなのか?開発した、株式会社キガ、専務の森野剛さんのお話です。
株式会社キガ専務取締役 森野剛さん
「通常の携帯トイレですと、袋に接用を足して凝固剤と呼ばれる、高吸水性ポリマーですね、で固めて縛って燃えるゴミというのが一般的なんですけれども、こちらのコンポストトイレというのは、おがくずを主に使って、天然資源のみを使いまして、さらに袋の部分も生分解性樹脂フィルムを採用しておりまして、使った後に土に埋めますと、袋ごと土の微生物が分解してくれる、つまり、燃えるゴミに出さずとも、自分たちでたい肥化させることが出来るという商品になっております。
私どもが、仮設トイレのレンタル業者でして、東日本大震災のときに、私ども1400棟の仮設トイレを持っているんですけども、一日で全部出庫したんですね、でも現場まではなかなか届かなかったんです。なので、携帯トイレを自分たちで開発をしようと。
もちろん、使った後、燃えるゴミで出すというのが一般的ではあるんですけれども、災害の時というのは、ゴミ収集通常通りに来るかというと、必ずしもそうでないんですね。それであれば、そういった緊急の時は自分たちでたい肥化して処理しようと、で、それで開発したという流れです。」
従来品の多くは、石油由来のポリエチレンの袋と高吸水性ポリマーが使われているため、もちろん燃えるゴミに出さなけれななりません。しかし、こちらの「コンポストイレ」は、おがくず、木質系のセルロース、そして、消石灰を混ぜた処理剤を使い、袋そのものも生分解性樹脂フィルムという、微生物が分解してくれるものを使用しているので、土に埋めることができますし、埋めた後は土にかえる、ということなのです。
ちなみに、おがくずは消臭力が高く、消石灰には消毒抗菌効果あるので、埋める場所が無い場合も、一定期間保管しやすいそうです。
<「コンポストイレ」 処理剤と生分解性樹脂フィルムの袋、水溶性のティッシュがセットになっています。20回分で9900円(税込)>埋めた所にカブトムシの幼虫が!土が順調にたい肥化してる証拠!
森野さんたちが、土にかえる携帯トイレを作りたい!と思い、相談したのが、土にかえる生分解性樹脂フィルムを長年研究している宇都宮大学名誉教授の木村隆夫先生。木村先生と共同で、開発を進めることとなりましたが、木村先生が大変だった、と話すのが、どのフィルムで袋を作るか。
土に埋めたら、ちゃんと分解されなくてはいけないけれど、水で溶けてはいけないし、使う前の保管の段階で劣化してもダメ。
そして、ついに出来上がった土にかえる携帯トイレ。本当に土にかえるのか?の検証は、木村先生自ら、自宅の庭で行ったそうです。結果はどうだったのか、伺いました。
宇都宮大学名誉教授で株式会社キガ顧問 木村隆夫先生
「スコップで40~50センチくらいの深さに掘って、そこに埋めるわけですよね。で、半年後に取り出してみると、恐る恐る見てみるとですね、袋はもう大部分が分解が進んでる。排せつ物はもう見当たりません。トイレットペーパー類もありません。おがくずっていうのはもともと1~2年かけてゆっくりと菌によって分解されて土にかえっていく仕組みですので、これは残っていてもおかしくないな、と。
で、この半年後に面白かった現象というか、観察して、そこにいなかった、カブトムシの幼虫が元気に成長してるんですよ。これ、いわゆる、土が順調にたい肥化してるということの証拠だと思います。カブトムシの幼虫がそこでちゃんと生息してるということは非常に心強いなと思いながら、ただ、袋は、結び目の団子結びしてるところっていうのは、土と触れる部分が限られます。
でも触ってみるとボロボロという形になります。これ非常に順調だな、と思いつつ、もう一度埋め直して、ここからまた半年様子を見ることにしました。」
半年後、どうなったのか?袋のボディの部分は無くなって、排せつ物も、トイレットペーパーもナシ!ただ、袋の結び目はまだ、見分けられます。
ということで、これらをもう一度埋めて、半年後には、おがくずも見つけられませんが結び目はまたある。
そこで、さらにそこから一年様子をみて、最初に埋めてから二年。ついに、すべてが土だ、すべてのモノが消えている、という状況になりました!
しかも、カブトムシの幼虫がいたことからも分かるように、良い土になっている。これで、バッチリ!
災害用備蓄以外でも、活躍の場が!!
かくして、世に出た「コンポストイレ」。反響はどうなのか?再び森野さんのお話です。
株式会社キガ専務取締役 森野剛さん
「実際に世に出してから、私どもが思った以上に興味をもっていただいて。で、ビックリしたのは、災害用の備蓄用として作ったんですけども、実際には水洗トイレが無いところで用を足されてる方々って結構いらっしゃるんだなってよく分かりました。例えば、山で鉄塔作業をされるような業者さんですとか、あるいは測量会社さんとか、もうコンビニも無いような山の中で(仕事を)やられたりとかですね、あとは農家の方でも、家のトイレを使うのにいちいち土を落としてトイレに行くのは大変だと。
また、仮説トイレに関しましても、例えば農家の方、個人の方ですと、汲み取りが必要だったり、清掃の問題とかで、なかなか個人で全部完璧にするのは大変なので、そうするとこういったものというのが、災害以外の場でも喜ばれるっていうのは、今回、逆にびっくりした反応で、ありがたいなと思いました。」
もちろん、昨年1月の能登半島地震の後には、石川県の内灘町に1000回分寄付して、避難所だけでなく、自宅避難の方々からも喜ばれました。
また、発売以来、災害用備蓄として、自治体からの問い合わせや大手企業からの大口注文、個人での購入が続いているのですが、日常の中でも活躍の場が多そうで、驚いていました。
ただ、都心だと、土が・・・埋める場所がない、という問題がありますよね。新築でこれからマンションなどを作る際に、「コンポストイレ」を埋める場所としても使える花壇をあえて大きめに作って、埋める場所を確保した上で備蓄として購入してくれるところもある、というお話もありました。
被災者にも環境にも良いものだけに、埋める場所の確保には、ぜひ自治体の協力も期待したいな、と思いました。
(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』より抜粋)

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