今年、ノーベル賞は日本人の研究者が二人も受賞しましたが、それに続いてイグ・ノーベル賞の生物学賞でも日本人が受賞しました。受賞したのは「牛にシマウマのようなシマ模様を描くと、血を吸うサシバエなどの虫が寄りつきにくくなる」という研究です。

黒い牛にスプレーで白いシマシマを描いて、虫が半分に!

この研究は、農業・食品産業技術研究機構の任期付き研究員の兒嶋朋貴さんが、愛知県農業総合試験場に所属していた時に国際科学誌に発表したものなのですが、その研究内容について、兒嶋さんにお話を伺いました。

農業・食品産業技術研究機構 任期付き研究員・兒嶋朋貴さん

「シマウマのシマ模様の機能仮説というのはいくつかありまして、その中の一つが、吸血昆虫を忌避する、避けるっていう機能があるんじゃないかって言われています。で、それをですね、牛も吸血昆虫に苦しめられるところがあるもんですから、それの対策になるんじゃないかということでやってみたところ、やはりシマ模様にしてやると、付着する吸血昆虫の数が減って、その虫を嫌がって避ける行動がいくつかあるんですけど、それの数も減ったよ、ということですね。

今回は、一般的に黒毛和牛と言われる、黒毛和種の牛を使っています。元が黒いので、白色でストライプを描いていけば白黒のシマ模様になるもんですから、実際に使ったのはスプレーのラッカーなんですけれども、それでシューっと描いていくっていう形ですね。

そうですね、試験のあと放牧地に返していくわけですが、翌朝、エサをあげに行くと、そのシマ模様の牛が走って来るので、もうホントに、牛が来たんだかシマウマが来たんだかよく分かんないなっていうような形にもなっていましたね。」

黒い牛に、スプレーで白いシマシマを描いたんです!シマウマ柄の牛はものすごく不思議な感じです。この牛が向こうから走って来たら、確かに何が来たのか分からないかも・・・(笑)!

実験では、何もしていない牛、白いシマシマを描いた牛、そして、スプレーの匂いなどで虫が来ないのかもしれないので、その確認のために黒いシマシマを描いた牛という三種類で試しました。

祝!イグ・ノーベル賞 牛にシマ模様で虫よけ効果!?の画像はこちら >>

<模様ナシの牛>

祝!イグ・ノーベル賞 牛にシマ模様で虫よけ効果!?

<黒いシマシマを描いた牛 模様、見えます??>

祝!イグ・ノーベル賞 牛にシマ模様で虫よけ効果!?

<白いシマシマを描いた牛>

その結果、白黒のストライプの牛は、他の二種類の牛に比べてハエの数は半分になりました!そして虫を嫌がる行動は4分の3ほどに減る、という結果になりました。

サシバエやアブに刺されると牛も痛い。しかも刺された後は痛痒いから、不快でイヤなので虫を追い払う行動をとります。(しっぽを振り回す、首を振る、足踏みするなど)

しかし、そうした行動をすることで、食べるのも、ゆっくり休んで反芻するのも邪魔されるので、生産上良くない、とされています。そもそも牛にとってはストレスにもなりますしね。

画期的な虫よけ対策!ただ、シマ模様がどのくらい持つのか・・・

そしてサシバエを避けたい最も大きな理由、それはサシバエによって伝播する伝染病なのです。埼玉県所沢市で唯一の牛畜産農家、見澤牧場の見澤孝仁さんにお話を伺いました。

見澤牧場 見澤孝仁さん

「和牛だけじゃないですけど、牛にとって一番おっかないのは、牛の白血病ってあって、屠場で屠畜された後に検査で分かるんですよ。そうすると、肥育で仕上がった牛を出した時、それ全部廃棄になっちゃうんですよ。だから0円です。保証も何もないんで、えれえ損害になっちゃうんすよ。

発症しないんすよ、外目で見られないんすよ。見られるのもあるんだけど、それごく少量で、まず屠場に行ってからじゃないと分からないです。割合はものすごく低いですけどね。低いんだけど、出ると経済損失100%なんで、ちょっとおっかない病気なんすよね。

そうですよね、あんま薬ってオレも使いたくないんで、なんか画期的な方法、あんまり害にならない、そういう方法が発見できればな~と。だからホントにいいなとは思うんだけど、いや、どうしても放牧じゃないけど、放してあると、捕まえるのがなぁ~出来ないなぁ~ってね。一頭一頭捕まえなきゃいけないんで。それとあと、一回やれば夏の期間全部大丈夫だって言うんだったら、無くはないかもしれないけど、そのペンキってたぶん落ちちゃうんじゃないかなって感じなんすよね。」

育てているときは分からない、屠場に持って行って初めて分かる病気。

牛の白血病。今は牛の伝染性リンパ腫と名前が変わっています。発生の割合は低いですが、出たらすべて廃棄になり、経済損失が非常に大きい病気で、見澤さんたち農家の方々は、非常に警戒しているんです。

殺虫剤などで対応するしかなかったので、薬をあまり使わずに育てたい見澤さんにとって、今回のシマシマ作戦は実に画期的で魅力的!と。しかし、牛を繋いで飼うスタイルではないため、一頭一頭捕まえて、落ち着かせて、体にシマシマを描く、というのはなかなかの労力で現実的ではないかな・・・しかも、シマシマが消えるたびに、それをするのはちょっと難しそうだなあ・・・と。

簡単で安くて長持ちするシマ模様の付け方を求む!!

そこで、この、まさに現場の声を兒嶋さんにぶつけてみました。

農業・食品産業技術研究機構 任期付き研究員・兒嶋朋貴さん

「そこが、この方法の今後の課題になってくるところで、治験では水性のラッカーを使ったんですけど、それは治験上の都合で早く落ちてもらわなきゃ困るっていうのがあったので、じゃあ油性のラッカーにしたからいいのかと言われると、それでも持って一週間くらいになっちゃうもんですから、普及に向けては、やっぱり簡単に低コストで、長期間維持できる方法っていうのは重要かな、やっぱそこが無いと広まっていかないのかなっていう風に思いますので。

まあ今回ありがたいことに、こうやって賞をいただいて、みなさんに知っていただく機会がふえましたので、いろんな産業界の方にも知っていただけるチャンスがありましたので、ぜひ、そこのところを、簡単にシマに出来て、長期間維持できるような方法が開発されてくると、非常にありがたいなあと思いますし、何かアイデアがあれば取り組んでいただくか、こんなんあるけど、どう?とか、そういうのがあれば、言っていただけると助かるかなという風に思います。」

油性のラッカーでも一週間しか持たない!これでは見澤さんたちが取り入れるにはハードルが高い。なんとしても、簡単に、低コストでシマシマを作れて、しかも長期間維持できる方法を編み出したいと話していました。

ちなみに、秋田県で治験してもらった時には、ブリーチ(脱色)で、白というよりは金髪のような色のシマ模様にしたこともあるそうですが、効果はちゃんとあり、シマ模様は半年キープできたそうで、今のところこれが一番良い方法かなと兒嶋さん。ただ、人間もブリーチって結構時間もかかるし大変なので、手間が課題かなと思いました。

受賞でこの虫対策が広く知られて、新しい知恵が集まって、ぜひ見澤さんたち生産者を助けてほしいですね。

TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』より抜粋)

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