育て方を変える挑戦　農業の新しい選択肢

今年は、猛暑や天候不順の影響で思うように作物が育たず、様々な野菜や果物が高いというニュースが多くありました。

工場でメロン？広がり始めた新しい動き

そうした中、福井県で、これまで農業とは無縁だったメーカーが、会社の一角を使って、まったく新しい栽培に挑戦しています。自動車関連の部品メーカー、有限会社サンワ技研の代表 岸塚健志さんです。

有限会社サンワ技研　代表　岸塚健志さん

うちは機械を製造している会社ですが、景気が悪くなりそうということで、水耕栽培の野菜を始めようとなりまして。福井県でやってるとこがなかったので珍しいことの方がいいかなと思いまして、メロンにしました。水耕栽培は、土作りとか、今までのノウハウがすごく要るものではないので、最初の設備投資さえうまくいけば、手を出しやすいんじゃないかなと思います。タンクがあって、メロンの根っこが張る水槽があるんですけど、水を溜めているタンクの中に栄養のある養分を常に供給している形ですね。そこにメロンが生えてるような状態ですね。　　　　　　　　　　

育てているのは、土を使わない水耕栽培のメロンです。

会社の一角のビニールハウスで、根っこを水に浸し、栄養を与えて育てる仕組みなので、土づくりの経験や長年の勘がなくても、設備と管理方法があれば、取り組みやすいのが特徴です。サンワ技研では、景気の先行きを見据えて、会社の空きスペースでこの栽培を始め、今シーズンは、メロン40個の収穫を目指しています。メロンの水耕栽培は珍しいですが、実はメリットもあります。土を使わないので「病気のリスクが低い」旬をずらしてメロンを出荷できるので「市場に少ない時期にも対応できる」そのため、洋菓子店など「今ほしい」という需要にも応えられます。将来的には、このメロンを地域の特産品に育てたいと話していました。

室内で育つ 小さな稲

実は、こうした育て方の工夫は、メロンだけではありません。コメでは今、室内で育つ稲が注目され始めています。

未来食研究開発センター　研究開発部　山本真生さん

京のゆめという品種になりまして、一番の特徴は背丈が20センチほどというところです。通常の稲と比べて5から6分の1ほどのサイズで、小さいという利点を活かして屋内にいて多段栽培をすることが可能となっております。また、背が低いことによって生育期間も短く、生育期間は3ヶ月から4ヶ月ほどとなっておりまして、室内にて、一定の環境で育てた場合は、1年で3回から4回、つまり3期作4期作と稲を収穫することができるようなものとなっております。　　　　　　　　　　　

この稲の名前は「京のゆめ」。背丈は、わずか20センチほど。一般的な稲の、5分の1ほどしかありません。遺伝子操作ではなく、もともと田んぼにあった「小さすぎて使われなかった稲」に注目し、品種として登録しました。農家にとっては、小さすぎて機械が使えず、これまで捨てられてきた存在ででしたが、それを活用しました。LEDの光を当て、温度や環境を一定に保つことで、3～4か月で収穫が可能。天候に左右されず、1年に3回、4回と育てられます。

棚を積み重ねて広がる 新しい稲作

ただ、気になるのは「そんなに小さくて、ちゃんとお米が採れるのか？」という点です。

未来食研究開発センター　研究開発部　山本真生さん

1株当たりの収量はやはり通常の稲と比較しても10分の1程度には落ちてしまう。その代わり一つあたりの植えられる個数、株数というのも非常に多くなっており、通常の1株植えれる面積で10株程度植えることが可能になっているので、その分収量もまかなえるというのも特徴のひとつ。弊社では棚で栽培しており、4段で1段当たり6コンテナで育てると、1年で3回栽培が可能になると、通常の2倍以上の単位面積当たりの収量が見込めるかなと試算はできております。　　　　　　　　

1株あたりの収穫量は少なくなりますが、背が低い分、同じスペースにたくさん植えられることができる。通常1株の場所に、およそ10株。さらに棚を使って上下に重ねることで、面積あたりの収量は、一般的な稲を上回る可能性もあるといいます。ただし一方で、課題もあります。照明や空調にかかる「電気代」、背の低い稲に対応した「収穫機械がない」こと。そういった部分をカバーするためにも、再生可能エネルギーとの組み合わせや、新たな仕組みづくりが、今後のカギになりそうです。

（TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』より抜粋）