今日は「クマの冬眠」のお話です。本来なら11月下旬には冬眠に入るはずのクマ。

ところが「今年のクマは冬眠しない」というニュースを見た方も多いと思います。

餌があれば冬眠しない

本当に冬眠しないのか?岩手県にある森林総合研究所(しょ)の東北支所、大西尚樹さんに伺いました。

森林総合研究所・東北支所 大西尚樹さん

日本には冬眠をしないクマはいません。ヒグマとツキノワグマ、すべての個体は、冬眠をします。今年はむしろ餌が少なくて、多くの個体が例年よりも早く冬眠しています。山の中ではもう多くの個体が冬眠を始めています。

ですが、実際にまだ人里に出てきている個体もあります。冬眠のきっかけは、寒さや雪ではなくて、「餌がない」ことが冬眠を始めるきっかけになります。でも、今実際に人里に出ている個体は、その個体単体でいくと「良い餌場」を押さえてるんですね。なので、その個体に関しては「まだ餌があるからなかなか冬眠してくれない」。

いやー、さすがに 12月中にはみんな冬眠してくれるとは思うんですが、もしかしたら年越すのが若干いるかもしれないですね。

クマは冬眠しない?実は人類を救う「冬眠研究」最前線の画像はこちら >>
<クマ(イメージ)>

そもそもクマは、11月下旬から翌年の4月ごろまで、およそ4~5ヶ月間冬眠するそうです。今年は、クマの餌となるドングリなどが凶作の年でした。

なので、山の中で暮らしているクマはそもそも餌が少ない。だから、むしろ例年よりも冬眠に入るのが早かったようです。

一方で問題なのが、人里に降りてきたクマたち。彼らは柿の木など豊富な餌を見つけてしまった。だから、冬眠が遅れているそうです。

ちなみに、今年は親グマの駆除が相次いだため、子グマが冬眠のやり方を教わる機会を失ってしまったケースも多いそうです。どこで冬眠すればいいかわからず、人里に残されている子グマもいるかもしれないということでした。

冬眠中のクマは「省エネモード」で筋肉がほぼ衰えない

ということで、今年はもう少しクマの話題が続きそうですが、今日はこの「クマの冬眠」に注目しました。数か月も飲まず食わず。それなのに春になったら元気に動き回れる。この能力を医療に応用できないかと考えている研究者がいます。広島大学大学院准教授の宮崎充功さんに伺いました。

広島大学大学院医系科学研究科・准教授 宮崎充功さん

我々がやった研究の一つが、クマさんから筋肉を直接、ちょっと手術をしていただいてくる。

それを夏場の活動期の筋肉をとってくるのと、冬場の冬眠真っ最中の筋肉を同じクマさんから取り出してきて、それを分析するという研究をやってみたんですけれども。冬場の冬眠中の筋肉の場合は、エネルギーをできるだけ使わないような状態の筋肉に変わっているっていうことが分かりました。

人間の時に筋肉って、使わないとどんどん衰える。ただし、クマさんの筋力測定をしてみたら、その低下が2割ぐらいで済んみました。ありえないぐらい保たれている意味になりますね。

宮崎さんが話していた「クマの筋肉は2割しか減らない」というのは、2001年の科学誌「ネイチャー」に載った研究結果。冬眠期間を130日(4ヵ月ちょっと)として調べたところ、クマの筋肉量は2割しか減らなかった。一方、人間は1日あたり0.5~1%ずつ筋肉が減っていくそうなので、7割も減ってしまうというのが、以前から明らかになって痛そうです(ちなみに、クマ以外にもリスやゴールデンハムスターなども冬眠するそうですが、体温を高いまま維持して冬眠するのは、クマだけ)。

では、なぜクマは衰えないのか?

宮崎さんは、夏と冬の筋肉内のたんぱく質の働きを比べたり、クマの血液の中にも秘密が隠されているんじゃないかと考えて、北海道大学などと連携して様々な研究を続けているそうです。

「飲むだけで筋力が落ちない薬」、実現はもう少し先だが…

では、この仕組みを解明できればどんな可能性があるのか。再び宮崎さんに聞きました。

広島大学大学院医系科学研究科・准教授 宮崎充功さん

例えば骨粗しょう症のお薬なんていうのはだいぶ一般化されて、骨の衰えを抑える薬として骨粗しょう症のお薬ってあるんですけれども。

筋肉にも同じようなことを実現して、「筋肉の衰えを止めるお薬」ができる可能性っていうのは十分あると思います。

僕のもともとのバックグラウンドが理学療法士っていうリハビリの仕事。寝たきりになった、おじいちゃん、おばあちゃんに、体にいいから筋トレを頑張ろうねって言ってもなかなか難しい。「運動以外の方法でこの人たちの体の機能を保つことができないのかな」と考えていました。

クマさんが生活しているところがバッティングしてしまっている状態なので残念ではあるが、クマさんが持っている秘密は、人間に応用できる可能性はすごく高い。できるだけ近い将来に実現できるように頑張りたいと思っていますけども…。

宮崎さんはもともと理学療法士で、リハビリの現場に立っていたそうです。

クマの冬眠の仕組みが解明できれば、「飲むだけで筋力が落ちない薬」が作れるかもしれない。リハビリや、宇宙飛行士の健康維持などに役立つ可能性があるということです。

「冬眠しないのでは?」という疑問から始まりましたが、その冬眠の仕組みが、多くの可能性を秘めていたことがわかりました。

(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』より抜粋)

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