揺れるウナギ市場　完全養殖への道

今月、ウナギをめぐって、世界的に大きな動きがありました。絶滅のおそれがある生き物の国際取引を話し合う「ワシントン条約」の会議で、ニホンウナギを含むすべてのウナギの取引を規制しようという案が話し合われました。

国際会議、その結果をどう見るか

今回の会議の結果について、ウナギの生態に詳しい、中央大学　海部　健三さんにお話を聞きました。

中央大学　海部　健三さん

今回、アフリカの大多数の国々がEUの提案に対して反対に回ったというのは多少の驚きがあります。例えばEUなどの提案国が本腰を入れて、外交をしてきたら、今回と同じような結果ではないだろうと思います。今回、付属書掲載提案とともに、決議というものがあり、ウナギの仲間を取引や消費だけでなく、環境なども含めて包括的に守りましょう　というものですが、それは採択されてます。その決議がほとんど履行されてないということになれば、再提案の動きが加速する可能性があると思います。私、過去3年間に公開された、タイトルに「ニホンウナギ」という言葉を含んでいる英文の論文を調べました。全部で150くらい。そのうちの58本の論文は「資源は減少している」、または「絶滅危惧種に分類されている」ということを述べています。

「今回は大丈夫だった」で終わる話ではありません。会議では、取引規制とは別に、ウナギの環境を守ろうという決議は採択されています。これが各国でどこまで実行されるかによって、将来、もう一度、規制の話が持ち上がる可能性もある、ということです。

赤ちゃんウナギの難しさ

こうしたウナギに関する議論が進む中で、日本国内では、自然のウナギに頼らず、卵から育てる「完全養殖」の研究が進んでいます。養殖ができるようになれば、ウナギをめぐる環境は大きく変わることになりますが、ただ、養殖には大きな壁があります。

水産研究・教育機構シラスウナギ生産部　須藤竜介さん

1日5回餌をあげる非常に労力がかかる飼育法ということと、餌のあげ方がかなり特殊。ウナギの餌ですが、ドロドロした餌を水槽の底面に撒いて食べさせます。餌場が底面に限られていて、なおかつドロドロした特殊な餌で育てなくてはいけないということで、通常の魚だと大規模にできるような方法が一切適用できないという、特殊な飼育法であることも難しくしている。仔魚を飼育する作業が、非常に長い期間、１年近くしないとシラスウナギにならないことも、非常に手間がかかる。結果が出るのに、250日とか平気でかかってしまうので限られた試行回数で着実に成果を上げなくちゃいけないっていうところは難しいかなというふうに思います。

赤ちゃんウナギの飼育は、「1日に何度もエサをあげる」「エサの形も、食べさせ方も特殊」と、とにかく手間がかかります。しかも、育て始めてから結果が出るまで、半年以上、場合によっては1年近くかかる。さらに、ウナギは自然界でどう暮らしているのか、まだ分かっていないことが多い魚なので、「どんな環境を再現すればいいのか」手探りの中で、少しずつ条件を変えながら研究が続けられてきました。

提供：国立研究開発法人水産研究・教育機構

研究の流れを変えた　新しい「水槽」

そうした中で、餌に関して改良が進められていますが、今年、大きな前進があったのが。「水槽」。赤ちゃんウナギをより安定して育てられる新しい水槽が開発され、今年7月に特許を取得したんです。

水産研究・教育機構シラスウナギ生産部　須藤竜介さん

ウナギの仔魚で使う水槽は基本的に茶筒を横倒しにしたような水槽ですが、今回開発した水槽は直径40センチ、長さ150センチの大きな茶筒を作ったような感じですね。飼育してみたところ、非常に順調に飼育できて、細かい点を改良して、さらに水槽の底面はご飯食べるところなので、底面を少しつぶして四角い部分を用意してあげて、底面積広げてあげると取り組みをして、細かい工夫を重ねて結果出来た水槽で、長期の飼育をした結果、かなり生産コストを圧縮できたということになりました。従来20リットル規模で大体100尾ぐらい、マックスできるってされてるんですけどもこれが200リットルぐらいになってるのが新型水槽で1000尾なんでちょうど10倍ぐらいですね。

提供：国立研究開発法人水産研究・教育機構

提供：国立研究開発法人水産研究・教育機構

新しく開発された水槽。ポイントは、餌を食べる底のスペースを広くしたこと。太さや長さの違う水槽で何度も試した結果、太くしすぎると成長に影響が出る一方、横に長くする形には問題が少ないことがわかりました。その結果、1つの水槽で育てられる数は、これまでのおよそ100尾から、およそ1000尾に。10倍です。コストも大きく下げられるようになり、完全養殖に少しずつ近づいているようです。

（TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』より抜粋）