きょうは天体観測のお話。最近、星空を撮影する人たちの間で、ある異変が話題になっています。

カメラを夜空に向けると、無数の「光の筋」が画面を横切るようになってきたというんです。

体写真に映り込む「光の筋」の正体

いったいどういうことなのか、国立天文台の平松 正顕さんに伺いました。

国立天文台・周波数資源保護室 講師 平松 正顕さん

スターリンク名前のという衛星でして、イーロン・マスクが立ち上げましたスペースXという会社がですね、今すでに「1万機以上の人工衛星」を打ち上げていますので、これが見えているケースが多いですね。

空をスーッと点滅せずに動いていく光の点でして、1つのこともあれば、20個ぐらいの点が連なって動いていくので、初めて見る方はびっくりするんじゃないか。

天文学者が望遠鏡で天体写真を撮るときにはですね、長い時間シャッターを開けっぱなしにしておくんですね。その望遠鏡の視野の中に人工衛星が入ってくると、光の筋がこう何本も入って見える。特に衛星が明るいとですね、この写真全体がぼんやり明るくなってしまって、研究に使えなくなってしまうんですね。そうするとさらに観測を繰り返す必要が出てしまう。

これまで人類が打ち上げた人工衛星の半分以上はスターリンク衛星になってますので、もう桁違いの数ですね。

便利さと引き換えに失われる星空 急増する人工衛星の画像はこちら >>
<スターリンクトレイン>

飛行機は点滅しながら動いていきますが、スターリンク衛星は点滅しません。スターリンクは、アメリカの「スペースX」が打ち上げている人工衛星で、すでに1万機以上が上空500キロほどの低軌道を飛んでいて、太陽の光を反射して地上からは明るく見えてしまいます。普段は1つずつバラバラに飛んでいるんですが、打ち上げ直後だけは特別で、1回のロケットで20機ほどまとめて打ち上げるため、しばらくの間、10個、20個と連なってスーッと動いていく様子が見えます。これが通称「スターリンクトレイン」と呼ばれていて、SNSで「何これ!」と話題になることもあるんでうす。

ただ、この衛星が天体写真の邪魔になっています。例えば、国立天文台の「すばる望遠鏡」は年間予算がおよそ15億円ほどで、単純計算すると1晩の観測に数百万円かかっているため、撮影し直しの損失は大きいものです。さらに深刻なのが、彗星や超新星爆発など「一期一会」の天体現象で、そのタイミングに衛星が映り込んでしまうと二度と同じ観測はできず、人類にとって貴重なデータを失ってしまうことになります。

「圏外」がなくなる スマホと衛星の直接通信

このように、天文学の世界で注目を集めているスターリンクですが、では改めて、このスターリンクとはそもそも何なのか、ジャーナリストの石川 温さんに聞きました。

ジャーナリスト 石川 温さん

「空が見えるところであれば、繋がる」という仕組みになっていて、スターリンクは地球をぐるぐる回っているので、例えば山の奥ですとか、海の上ですとかそういったところに行っても、衛星からの電波を「スマホ」が直接つかんで、データ通信ができる。去年からauがそのサービスを提供するようになった。

年末年始、北海道に行ったんですけど、高速とか一般道を走ってると結構圏外になる。ただそういう時でもメッセージを送るとか、ちょっと地図見るとか。今年、ドコモとソフトバンクもスターリンクとやるという話があるらしいので、3社でスマホで直接、衛星と繋がるようになるという風に言われています。

いや、スターリンクに追いつくのはもう無理だなってみんな言ってるというか、諦めムードとういか。やっぱり飛んでる数が桁違いに多いので、全国どこでも圏外がなくなるのは画期的なので出来たらいいよねとずっと思われていたましたけど、まさか本当にできるとは…。

スターリンクのサービスが始まったのは2019年で、もともとは専用のアンテナが必要でしたが、去年からはスマホ1台でOKになりました。実際、石川さんも山奥で試してみたところ、圏外の場所でスマホを見ると「au」の表示が「衛星」という文字に切り替わってパッとつながったそうです。

日本では、auが去年から「スターリンクダイレクト」というプランを始めていて、今年はドコモやソフトバンクも参入予定で、登山や災害時の連絡手段として画期的だと期待されています。

ただ一方で、海外では様々な形で使われていて、ウクライナでは戦争の通信インフラとして使われていたり、先日のイランでは政府によるネット遮断が起きた時にも使えたというニュースがありました。イーロン・マスク、つまり一民間企業の判断で国の安全保障が左右されてしまうという側面もあります。「便利な技術ですが、手放しには喜べない側面もある」と石川さんは話していましたが、気になるのが今後の見通しです。

中国の20万機計画 さらに広がる懸念

冒頭の天文学者の平松さんによれば、人工衛星はさらに増えていくだろうということです。

国立天文台・周波数資源保護室 講師 平松 正顕さん

例えばアマゾンもですね、あの通販のアマゾンの会社が、3000機以上の人工衛星を打ち上げる計画を持っていますし、さらに中国もつい先日20万機の衛星を打ち上げる新しい計画が報道された。これは人工衛星って必ず地球と通信しないといけないんですね。電波を使って通信しますので、他の人工衛星、あるいは他の計画と、周波数が重なってしまうと混信してしまってうまく働かなくなってしまいますので、その混信を防ぐために、人工衛星は「国際電気通信連合」に登録して、それが認められてから実際に打ち上げられる。

なので、ある意味「早い者勝ち」な…とりあえず登録しておくと。ですので、国際天文学連合や国連の下でですね、天文学者や人工衛星の事業者が対策を議論したり、現状を共有したりするワークショップみたいなものも行われているんですね。じゃあお互いに共存できるためにはどういう方策があるだろうか、というのを実際に議論し始めています。

中国は「20万機」という、スターリンクの現在のおよそ20倍の規模の計画を発表しました。

さらに国や企業レベルでどんどん打ち上げの申請が進んでいて、「2030年代には、夜空に光っている星の10個に1個が動いている人工衛星」というような空になるとも言われています。

現在、世界中の天文学者と衛星事業者が対話を進めていて、例えば衛星にフィルムを貼って反射を抑える技術も導入されているそうですが、衛星の数が増えるスピードに対策が追いついていないのが現状…。便利な世の中になる代わりに、昔のような星空が見えなくなる時代が来ようとしています。

(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』より抜粋)

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