TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
8月25日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、スポーツキャスターの長島三奈さんをお迎えして、今年の夏も熱戦に次ぐ熱戦のうちに幕を閉じた高校野球の魅力をたっぷりお聞きしました。
長島三奈さんは1968年、東京都生まれ。父は言わずと知れた読売ジャイアンツの終身名誉監督・長嶋茂雄さん。長島さんは1991年に日本大学を卒業し、テレビ朝日に入社。
スポーツをやることも観ることも好きだった長島さんは、プロスポーツからアマチュアスポーツまで幅広く取り上げていたテレビ朝日を希望したそうです。その入社のいきさつについて、久米さんからこんなフェイクニュースが…。
「これは伝説になってるんですけど、三奈さんがテレビ朝日に出した履歴書で父親の職業を書く欄に『監督』って書いたというのはほんとですか?」(久米さん)
「書いてません! もうやめてください、そんなばかじゃないですよ」(長島さん)
「テレビ朝日の面接官が『監督っていうのは高校野球の監督か映画監督ですか』って聞いたら、映画でもないし高校野球でもないと。それじゃあ何の監督ですかってまた聞いたら、三奈さんが『プロ野球の監督です』って」(久米さん)
「聞かれてません(笑)。どんな話ですか。久米さん今、作りました?」(長島さん)
「作ってない、これは昔から伝説です。ぼくも聞いてるんです。それでテレ朝の人が少し考えて『どこのチームですか』って聞いたら、『読売ジャイアンツ』って(笑)。そこで『長島』という苗字を見て、テレ朝の面接官の血の気が引いたって(笑)」(久米さん)
この話、長島さんによるとまったくウソだそうです。
ともかく、テレビ朝日に入った長島さんはスポーツ局の記者となり、1996年から久米さんの『ニュースステーション』でスポーツコーナーを担当。そして1998年、夏の高校野球のダイジェスト番組『熱闘甲子園』のメインキャスターに抜擢され、2013年まで15年間番組を担当。
その間、テレビ朝日を2000年に退社し、契約社員を経て、2014年からフリーに。そして、現在まで20年に渡って高校球児の取材を続けていて、その長年の功績から2017年、第99回の夏の全国高校野球で始球式を務めました。実は今年(2018年)の第100回大会の決勝戦、久米さんは甲子園で観戦してきました。もちろん長島さんもスタンドで観てきました。
「高校野球の取材を20年やっていると、得るものは大きいよね」(久米さん)
「正直、わたしの中では、気づいたら20年という感じです。今も甲子園に行くと、気持ちだけは取材を始めた当時の31歳、32歳に戻っちゃうので」(長島さん)
「ぼく、今回が生まれて初めての甲子園、高校野球なんです。でも地方大会にこそ真実があるような気がして。甲子園は、たまたま出てきた晴れ舞台で、本当はそこに来るまでにたくさんのドラマがあって、それこそが本物なんだって。それが好きなんでしょ、あなたは」(久米さん)
「私も初めは甲子園で負けた選手や泣いている選手にインタビューするのは辛かったんですけど、年々見ていると、甲子園球場で泣くことができるって素晴らしいことだなって思っていて。いま15万人ぐらい高校球児がいて、その中の数百人だけが甲子園の土の上でプレーすることができる。
今回、史上初の「2度目の春夏連覇」を果たした大阪桐蔭のように全国各地から有力選手が集まってくる強豪もあれば、決勝で敗れた秋田・金足農業のように地元の選手だけで戦った学校もあります。そして、地元の生徒すら満足に集まらない学校は、同じような境遇の学校と連合チームを作って、地方予選に臨んでいるそうです。全国にはいろいろなチームがあるのです。それこそが高校野球の魅力だと長島さんは言います。
「年々、どこの地方大会に行っても連合チームが多くて、前は2校の連合だったのが、いまは5校が集まった連合とか。部員が3人、2人、1人というチームとか。だから、甲子園出場の前にまず夏の地方大会に出ることを目標にしているチームもあれば、地方大会の1回戦突破が目標というチームもありますし、15万人の球児がいたら15万人分の思いがあります」(長島さん)
「甲子園まで全然行けないんだけど魅力的なチームってあります?」(久米さん)
「はい、あります! もう全国に。だから久米さん、来年は全国一緒に回りましょう!」(長島さん)
そんな長島さんですから忘れられないチームもたくさんあるそうですが、なかでも特に印象深いのが長野県の「東部高校」(現・東御清翔高校)という公立高校だそうです。ここの野球部は、2001年の長野県大会1回戦で下諏訪向陽に「63対0」という大差でコールド負けを喫しました。
そして、翌2002年の夏も1回戦で敗退。3年生が引退すると野球部員は5人(2年生3人、1年生2人)になってしまい、翌年の地方大会出場が危うい状況になってしまいました。
さっそく秋に取材に行ってみると、普通なら遠くから大勢の選手たちの声が聞こえてくるのに、東部高校のグラウンドは驚くほど静か。5人しかいないのでまず準備をすることが大変で、なかなか練習に入れないのです。かけ声がないはずです。
春、野球部の5人はそれぞれ進級し、3年生が3人、2年生が2人となりました。入学式でキャプテンは、地方大会に出るためにもぜひ野球部に入ってくださいと、新入生たちにアピールしました。すると5人の1年生が集まりました。見るからに野球経験はなさそうです。でもキャプテンは明るい声で言いました。「とにかく楽しんでやりましょう!」。
夏が近づいてきたころ、長島さんはまた東部高校に向かいました。すると遠くから選手たちの声が聞こえてきたのです。
そして3人の3年生にとって最後の夏。長野県大会の1回戦。長島さんが見守る前で、東部高校はその年も5回コールド負けでした。でも…。
「コールドで負けてしまったんですけど、初めて公式戦で1点を取ったんですよ。スクイズで」(長島さん)
「1点取った?! よくランナーが3塁まで行ったね」(久米さん)
「キャプテンが塁に出たんです。
「野球部に入ってくれてね」(久米さん)
「そうなんです。1年生が入ってくれたおかげでぼくたち3年生は試合に出られた。本当にありがとうって、キャプテンが挨拶して。そしてその隣の子も、勝ちたいって初めて思わせてくれてありがとうって言って。ああ、高校野球の原点てこれだなって思いました。あの松坂投手がいた横浜高校も取材させてもらって春夏連覇もありましたけど、どんな強豪校も初めはここからスタートしているわけじゃないですか。部員が集まらないというところから始まって、紅白戦もできない、ノックもできない、練習もまともにできない、準備も片付けも時間もかかる。たぶんスタートってみんなそういうところから始まって、初めて公式戦で1点を取って。だから、印象に残っているチームはどこですかって聞かれると、わたしは長野の東部高校です」(長島さん)。
あっという間に30分が終わったという感じでした。つい生放送ということを忘れてしまいました。ちょっとしゃべりすぎちゃいましたか?
久米さんのことを「コメさん」と言ってしまって、すみませんでした。「高校野球」と「久米さん」がくっついちゃって。今まで一度も言ったことないのに…。
久米さんがもし高校野球に関心を持ってくださったのなら、わたしも嬉しいです。高校野球はひとりの球児、ひとりの人間の姿が見ている人の心を動かすんだと思うんです。これから甲子園を見てみたいという人が増えるといいなと思います。きょうはありがとうございました。
◆8月25日放送分より 番組名:「久米宏 ラジオなんですけど」
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