TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
9月1日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、千葉県市川市で梨農園と直売所「梨屋 与佐ヱ門(よざえもん)を経営する田中総吉(たなか・そうきち)さんをお迎えしました。

いま収穫シーズンまっただ中で本当は畑を離れられないのですが、ちょうど次の品種に切り替わる端境期(はざかいき)ということで、東京・赤坂のスタジオまでお越しいただきました。

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田中さんは1972年生まれ。千葉県市川市で200年続く古い農家の8代目。梨をつくり始めたのはおじいさんの代からで、いまから60年ほど前。跡を継いだ父・彬行(よしゆき)さんは良質の梨を育て、いくつも賞を受けました。その父の希望もあって田中さんは東京農業大学に進みますが、実は農業が嫌いで嫌いでしょうがなかったそうです。姉と弟は両親の仕事を手伝っていたのに、田中さんは農園から戻ってくるトラクターの音が聞こえてくるとすぐ逃げ出して、一切手伝わなかったそうです。農業大学に入っても農園を継ぐ気はなく、農薬メーカーに就職して営業マンとして働いていました。ところが4年後の1999年、母親が倒れたことでついに覚悟を決め、会社を辞めて梨農園に入りました。

田中さんは「どうせやるなら、おやじとは違う色を出そう」と、それまで父が守ってきた「田中果樹園」の看板を「梨屋 与佐ヱ門」と改めました。「与佐ヱ門」は田中さんの家の屋号「與左衛門」(初代の名前が「田中與左衛門」だったそうです)からとりました。ところが父は大反対。

2人は何度も衝突したそうです。

“梨”が年末年始まで楽しめる?!「梨屋 与佐ヱ門」

「当時、ITの分野で起業する人がたくさん世の中に出てきたので、そういう異業種の同年代から刺激を受けて、ぼくも何か新しいことをやってみたいと考えたんです。それでカッコいい横文字の名前も考えたんですけど、うちのお客様は年配の方多いですし、やっぱり梨農園に横文字は似合わないと思いました。それなら、うちには屋号というものがあるし、地元ではいまも屋号で呼び合っていますから、そのほうが年配の方も呼びやすい、来やすいんじゃないかと。でも父は怒りましたね」(田中さん)。

おまけに、畑に入ると話し相手がいないことも田中さんには苦痛でした。営業マン時代は毎日いろんな人と話していたので、しゃべりたくてしょうがない。悶々として仕事にも身が入らず、初めの頃は携帯電話で株の売買をやりながら作業するようなありさまだったそうです。

“梨”が年末年始まで楽しめる?!「梨屋 与佐ヱ門」

「それがどうして農業が面白くなってきたんですか?」(久米さん)

「ぼくが家の仕事に入ってから立て続けに災害に遭ったんです。2002年に大きな雹(ひょう)で梨の実が壊滅的な被害を受けて、その2年後にはすごく強い台風が来てまた畑がめちゃめちゃ。そういうことを繰り返し経験するなかで、パートさんやお客様から『頑張んなよ』って温かい言葉をかけていただいたんです。それで、自分1人でやってるんじゃないんだ、この梨を待ってくれている人がいるんだってことを少しずつ肌で感じるようになってから、少しずつ、一生懸命やろうかなと思うようになりました」(田中さん)。

“梨”が年末年始まで楽しめる?!「梨屋 与佐ヱ門」

梨農園を継いで11年経った2010年、田中さんは「千葉県なし味自慢コンテスト」で農林水産大臣賞を受賞。〝梨王国〟の千葉県でその梨づくりが認められたのです。

“梨”が年末年始まで楽しめる?!「梨屋 与佐ヱ門」

現在、「梨屋 与佐ヱ門」が2つの農場(市川と富里)で栽培しているのは、「幸水(こうすい)」「豊水(ほうすい)」「新高(にいたか)」「あきづき」「かおり」「王秋(おうしゅう)」の6品種。

「幸水」は栽培面積・生産量とも全国一。甘みとシャリシャリとした食感が絶妙のバランスで、いまの梨の人気ナンバーワン。田中さんの農園ではちょうど先週までで収穫が終わったそうです。

「豊水」は幸水と並ぶ人気品種。田中さんの農園ではちょうど今週から収穫が始まりました。これは幸水よりも肉質が少しやわらかめで、ほのかな酸味と深みのある甘味が特徴。果物の「通」の方に特に好まれているそうです。スタジオでは、この日の朝、田中さんが農場で収穫したばかりの超ビッグサイズの豊水を試食! ラジオで試食をさせたら日本一の堀井さんがひとかじり。最高にジューシーな音が伝わったでしょうか?!

豊水に続いて出てくるのが「あきづき」(例年だと9月上旬から)。

あまり聞きなれない品種かもしれませんが、実はこの梨、いま人気が急上昇しているんです。上品な甘さが口の中にさわやかに残る感じ。なによりも肉質がバツグンにいい。食べたときのシャリシャリ感がとてもきめが細かいんです。そしてルックスのよさも人気のポイント。その名の通り中秋の名月のようにきれいなまん丸で、とにかく形がきれいな。見て喜ばれ、食べて喜ばれる梨ということで、贈り物としても人気が高いそうです。

「かおり」はこれは緑色の大きな梨で、さっぱり、ジューシー。この梨はなんといっても、名前の由来になっている香りが魅力。が熟してくると実が黄色くなって、とてもいい香りがしてくるんです。箱詰めにするとフタを開けた瞬間にふわ~っと、びっくりするぐらいいい匂いが拡がるそうです。これも贈り物にするとすごく喜ばれますよ。

そして「梨屋 与佐ヱ門」がいちばん力を入れているのが、10月下旬から出始める「王秋」。この梨はすごく日持ちがいいので、上手に保存しておくと、なんと年末年始まで食べられるんです。梨といったらお中元に贈られますが、この王秋は「お歳暮用の梨」になるんです。味はものすごく甘くなるんですが、とてもすっきりしているので、忘年会や新年会でお酒を飲んで帰ったあと、お風呂あがりに食べると最高! おせちに飽きたときとか、お鍋のあとにも、驚くほどのポテンシャルを発揮するそうです。ぜひ食べてみたいですね!

“梨”が年末年始まで楽しめる?!「梨屋 与佐ヱ門」

ところで、田中さんがスタジオに持ってきた「豊水」、あまりのビッグサイズに驚いたのですが、最近はこのぐらい大きいサイズがたくさん出るようになっているのだそうです。昔ならせいぜい300gが標準サイズ。田中さんが就農した20年前は、なんとか500gの大玉をつくろうと頑張っていたそうですが、いまでは400~500gの豊水はスーパーでも当たり前のように並んでいます。スタジオに持ってきていただいた梨は800gですし、1kgを超えるような豊水も珍しくなくなっているとか。

“梨”が年末年始まで楽しめる?!「梨屋 与佐ヱ門」

「全国的に統計を取ったわけではないんですが、ぼくの農園では年々、梨が大型化しています。1kgを超える豊水なんて、昔はあり得ませんでした。ぼくは、いまの温暖化はもしかしたら豊水にとってはいちばん合ってるから大きく育ってるんじゃないかと思っています」

これはあくまで田中さんの仮説ですが、興味深いお話ですね。梨は大型化しても味がぼけたりしないので、おいしい果肉がたっぷり味わえるということです。

そういえば昔は家族で梨を切り分けるとあっという間に食べ終わってしまってなんだか物足りなく感じたものでしたが、田中さんの農園で採れた豊水は、ボリューム満点! これなら子供たちもきっと大満足でしょう。

田中総吉さんのご感想
“梨”が年末年始まで楽しめる?!「梨屋 与佐ヱ門」

こんな貴重な経験をさせていただけるとは思わなかったので、すごく充実した30分でした。もっと梨について詳しくお話ししたかったったんですが、うまくできなかったのが気がかりですけど(笑)。

なによりも、子供の頃に毎週テレビで見ていた久米さんと、実はひそかにファンだった堀井さんのお二人にお会いできたのが嬉しかったです。いい思い出になりました。これでこれから梨の収穫の後半戦の励みになります。ありがとうございました。

 

◆9月1日放送分より 番組名:「久米宏 ラジオなんですけど」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t==20180901130000

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