TBSラジオ『アフター6ジャンクション』は毎週月-金の18:00~21:00の生放送。
「週刊映画時評ムービーウォッチメン」は毎週金曜18:30から放送中。
ラッパーにしてラジオDJ、そして映画評論もするライムスター宇多丸が、ランダムに最新映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論するのが、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」の人気コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」(金曜18時30分から)。ここではその放送書き起こしをノーカットで掲載いたします。今回は『インクレディブル・ファミリー』(2018年8月1日公開)です。
宇多丸:ここからは週刊映画時評ムービーウォッチメン。このコーナーでは前の週にランダムに決まった課題映画を私、宇多丸が自腹で映画館にて鑑賞し、その感想を約20分間に渡って語り下ろすという映画評論コーナーです。今夜はこの作品。『インクレディブル・ファミリー』!(曲が流れる)ディズニー/ピクサーの長編アニメーション映画20作目。スーパーヒーロー一家の活躍を描いた『Mr.インクレディブル』の14年ぶりの続編。街に甚大な被害を出し、ヒーロー業を禁止されたMr.インクレディブル・ファミリーの前に新たな敵、そして育児など、様々な問題が立ちふさがる。監督は前作のブラッド・バードが続投。アメリカではアニメ映画史上最大のヒットを記録中ということございます。プラス、記録で言うと、上映時間が1時間58分なんですけども、フルCGアニメーションとしては最長らしいですね。
ということで『インクレディブル・ファミリー』をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。ただメールの量は、な、な、なんと少なめ。あら、まあ。まあ公開から時間がたって、ちょっと熱気が下がっているのもあるのかな? 賛否の比率は、2/3が褒め。あと普通および否定的意見が残り1/3。
主な褒める意見は、「アイデア溢れるアクションシーンがとにかく最高。女性の社会進出や『ヒーローとは?』など現代的なテーマも上手く扱えている」「ブラッド・バード監督のイヤミさが少ない」といった声が多かった。前作ファンからも概ね好評の模様。かたや否定的意見としては、「今っぽいテーマを扱っているように見えて、上辺だけ」「アクションばかりで話がない」「ブラッド・バード監督の大衆蔑視は変わらず」といった声が多かった、ということでございます。
■「アクションシーンのワクワクだけでも十分に元は取れている」(byリスナー)
といったところで、代表的なところをご紹介しましょう。
一方、ダメだったという方。「PF is BS」さん。「『インクレディブル・ファミリー』、公開後すぐに前作ファンの妻と見ました。
テーマの要素を抜きにして単純にアクション映画として楽しめたかと言うと、これもまた微妙で。特に気になったのは全体的に各自の能力を活かしたシーンがイラスティガール(お母さん)に偏り気味の点。特にダッシュとヴァイオレットはヒーローとしては話の軸から外れてしまっていて、家族全員で力を合わせる感じが前回よりも薄いのにはがっかりです。他にも『社会がヒーローの活動を許すか否か』という、ヒーローとしてのアイデンティティーにかかわるところの扱いが雑というか、適当すぎる感じがするなど、気に入らない点がちょいちょいあって僕は全く受け付けない作品でした」ということでございます。
■ブラッド・バード監督、起死回生の一作『Mr.インクレディブル』
ちなみにいま、後ろでBGMがずっと流れてますけども。エンドロールでかつて、ヒーローたちが全盛期……おそらくは1950年代なのかな? 全盛期に活動していた時の、そのテーマ曲っていうか、テーマソングがあるっていう設定で。それぞれにムードがあるんだけど、あのフロゾンっていうアフリカン・アメリカンのキャラクターがいて、そのテーマがまさに……これは1970年代のブラックエクスプロイテーションのテーマ曲風っていうか、バリー・ホワイト風っていうか、そんな風になっている。
といったあたりで、私も『インクレディブル・ファミリー』、TOHOシネマズ日比谷、そしてバルト9で……ちょっと今回、吹き替えを見る時間がなくて。スーパー・ササダンゴ・マシンさんの活躍を、ちょっとごめんなさい、チェックできていないんです。申し訳ない! 2回、見てまいりました。ということで2004年、ピクサー初の……当時、技術的にはかなり高いハードルだった、「人間がメインのキャラクター」の(3DCG長編の)、初の作品だったんですね。それにして、1999年、ブラッド・バードさん初監督作の『アイアン・ジャイアント』が……結果としてはいまも愛され続ける名作にはなりましたけど、公開当時は、興行的に惨敗してしまったという。
で、そこをですね、かつてアニメ界の神童と言われたブラッド・バードさんを、カリフォルニア芸術大学、通称カルアーツ(CalArts)からの旧友ジョン・ラセターが、当初『アイアン・ジャイアント』と同じワーナーで2Dアニメとして作っていた、この企画ごとフックアップして。で、見事大ヒットに導き、アカデミー賞長編アニメ部門受賞などの高い評価を受けて、ブラッド・バードのキャリアを完全に確立した、という。それが『Mr.インクレディブル』。ピクサーにとっても、ブラッド・バードにとっても、そしてまあ当然我々映画ファンにとっても、非常に超重要作、っていうことですね。
さらに個人的には、その一作目の『Mr.インクレディブル』……少年、息子さんのダッシュ役の日本語版吹き替えを、私とK DUB SHINEがスペースシャワーTVでずっとやっていた『第三会議室』という番組の年一レギュラーだった……10歳から22歳までずーっと年一レギュラーだった海鋒拓也くんが、ダッシュの声をやっていたという。こういうことでもですね、思い出深いですね。
■短編『Bao』はしんみり泣ける佳作
あ、そうだ。本編の話に行く前にですね、前座の短編の話を先にするの、忘れていた。毎回、ピクサーは前座の短編が付くんですけど、今回は『Bao』っていう中国の家庭が舞台の作品が付いていて。毎回ではないけど、基本メインの長編と、テーマなり情緒なりがそこはかとなくリンクしている作品を当ててくる。そのピクサーのバランス感覚にいつもすごい感心をしてしまうんだけど、今回も、「赤ちゃんを育てる話」という点で、完全にその本編とリンクする作品になっているわけですね。中華まんっていうのを、赤子の、あの柔らかさ……柔らかさ=危うさっていうか、なんかぶつかるとすぐへこんじゃうような表現として使うっていう、非常に奇抜なアイデアの作品で。
で、1ヶ所本気で「ああっ!」って声を上げてしまうびっくりな展開もはさみつつ……最終的にはね、僕はやっぱり、「ああ、今夜ひさしぶりにお母さんに電話でもしようかな」と(笑)。大人ほどしんみり泣かされる一作でございました。あのお母さんの、目の閉じ気味の表情の作り方、すごい可愛らしくて。監督のドミー・シーさんという方は、ピクサー初の女性監督、そしてアジア系監督ということなんですけどね。
■作品全体のデザインがオシャレで楽しいシリーズ。
話を戻しまして、2004年、一作目の『Mr.インクレディブル』。設定は、はっきり言ってアラン・ムーアの『ウォッチメン』のパクリとも言われているぐらい……非常にアラン・ムーアの『ウォッチメン』っぽい設定の、まあメタ・ヒーロー物ですよね。
で、そのヒーロー物の設定に、ミドルエイジクライシスというのがメインテーマになっている。そういうひねった面白みもさることながら、なんと言ってもやっぱり『Mr.インクレディブル』は、ここだと思うんですよね。モロに60年代スパイアクション調の、いまとなってはレトロフューチャー的でもある、美術とか音楽をひっくるめた「作品全体のデザイン」が、いちいち超おしゃれで気が利いていて楽しい!っていう。ここが本当に大きい作品だったという風に思います。で、ちなみにそれに関して、僕は今回、リアルサウンドの、阿部桜子さんによる本作プロデューサーのジョン・ウォーカーさんへのインタビューではじめて知ったんですけども。
音楽、マイケル・ジアッキーノさん……いまや完全に巨匠の部類と言っていいでしょうけど、マイケル・ジアッキーノさんは、『Mr.インクレディブル』が映画音楽デビューで、まさしくその『007』のジョン・バリー風を見事にコピーしたような音楽をやっていますけども。前述のインタビューによれば、一作目を制作してる時点で、実は最初はジョン・バリーさん――2011年に亡くなられちゃいましたけども――ジョン・バリーさんに普通に依頼していたんですね。これはインターネット・ムービー・データベースにも書いてあるんですけど。
なんだけど、このプロデューサーのジョン・ウォーカーさん曰く、ジョン・バリーが一向に仕事をしてくれないので(笑)、やむなく……でもお金があんまりなくなっていて、残りの予算で、当時新人でギャラも安かったマイケル・ジアッキーノに頼んだ、というね。そういうことらしいです。リアルサウンドさんの阿部桜子さんのインタビューで僕、はじめて知りましたけどね。
■14年ぶりの続編なのに、始まりは前作のエンディング直後から
まあ、とにかくそういう感じで、60年代ボンド映画風、レトロフューチャーな作品デザインと、あとは、ちょっとヒネったがゆえに、ややトゲトゲしさが残ることもある独特のテーマとか語り口、という点で、ブラッド・バードというアニメーションの作り手の持ち味が全て入った一作、という風に言えるんじゃないかと思いますね。さすがに14年前の作品なので、CGクオリティーはやっぱり、いま見直すとかなり「昔!」感が強いですけどね。いまだと普通にテレビでやっているCGアニメでも、もうちょっとやってるかな、ぐらいの感じっだったりしますけども。
で、その14年ぶりの続編。ちなみにブラッド・バードさん、監督・脚本完全兼任は、14年前のその『Mr.インクレディブル』以来ですね。で、14年ぶりの続編、普通だったらそれだけ間が空いた二作目だったら、その間のタイムラグを、それなりにお話、物語内にも反映させたような作りをするのが、まあ普通だと思うんですけれども。たとえば(劇中でも)実際に14年たっているとかね。14年までたたないまでも、誰かが大人になってます、とかあるんだけど。この『インクレディブル・ファミリー』、まず大胆なのは、その14年前の一作目のエンディング、ほぼその直後から始まるっていうことですね。これだけ間が空いていて直後から始まるのは、結構珍しい。
作り手の方々もこれ、あちこちのインタビューで言っていますが、たしかにこれは、アニメーションでなければできないことですね。実写じゃ、14年間たっちゃっていますから。で、これはたぶんですけど……裏を取っていなくて僕の感じた印象の部分なんですけど、たぶん序盤は、キャラクターたちの絵柄とかも、比較的一作目に寄せたツルッとした感じにしておいて、だんだん質感がリアルな、今のCGクオリティーの方にさりげなくフェードしていくっていうか、そういう作りにしてるじゃないかって、これは僕の、ちょっとあくまでも感じ方の問題ですけども。
■ブラッド・バード監督、やはりアクションシーンは超一流!
ただまあちょっと、あのヴァイオレットのボーイフレンドのトニー。あれ、一作目と見比べると、はっきりトニーがいい子寄りにシフトしていますよね。あそこ、ズルしていますよね(笑)。一作目は、もうちょっといけ好かないやつな感じでしたよね。まあ、それはいいんだけど。で、オープニング。そこからですね、一作目の最後のところに出てきたヴィラン(悪役)であるアンダーマイナーの、ジェットモグラ型というんですかね、巨大ドリルマシンの暴走を食い止める、という一大見せ場がいきなり始まるわけです。この一大見せ場だけでも、もう一作目のすべての見せ場を全部上回るようなすごいスケールのが始まっちゃうんですけども。
今回こういう、なにか巨大なマシンの進行を食い止める、っていう見せ場が、3つ重なってるわけですよ。3回同じことをやっているとも言えるんだけども。ただ、それぞれスピード感や解決法が違う、っていうのはもちろんのこと、このオープニングとクライマックスは、「家族のチームプレイ」っていうのの対照的な結果、っていう意味で、一応対にもなっていて。まあそういうところは抜かりないな、っていう感じですね。で、とにかく今回思い知らされるのは、これはメールで書いている方も多かった通りですね──一目瞭然、やっぱりブラッド・バード、とにかくこの人は、アクションの組み立てが上手いよな!っていう。アクションシーンのアイデアの豊富さ、見せ方の的確さ。やっぱりこれ、アクションシーンっていうことに関しては、本当に超一流だなと。
■フレッシュなアイデアのつるべ打ち
特にですね、僕はブラッド・バードの上手さはここだと思いますね。特殊な舞台立てを十二分に生かした……特にその、立体的な構造とか。たとえば『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』だったら、最後のあの駐車場のところを使ったのとかは、すごくブラッド・バードっぽいアクションの組み立てだと思うんですけども。特殊な舞台立て、たとえば立体的な建物の構造とか……そしてそれが可変的だったりする。そういうのを十二分に生かした……その舞台立てをちゃんと使わないアクション映画とかも多い中ですね。どれとは言いませんが、最近もありましたけどね。それを十二分に生かした、シーンの構築の異常な周到さ、ということだと思う。
なので、僕は個人的にはですね、アクションシーンっていうのは、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』以降ですね、これから大抵のアクションシーンに関して自分は不感症になっちゃうんじゃないかな、っていう気がしていた、心配していたぐらいなんですけども。いや、さすがにそこはブラッド・バードと言うべきか、ああいう生身の本当に危なっかしいアクションとは違う、人工的に設計されたシーンならではの面白さ、スリリングさっていうのを、ばっちり提示してくれていて。やっぱりさすが『ゴースト・プロトコル』の……というか、実写をやらせてもその構築された(アクションシーンの)面白さっていうのを提示した、ブラッド・バードならではだな、と思いました。
たとえばですね、高速列車をバイクで追跡するシーンっていうのの、本当にすさまじいスピード感と前進感と、あとはその途中で起こる事態の転換のアイデアですね。「ああ、そう来るか、そう来るか!」の連続っていう。あと、狭い廊下を駆け抜けてくワンショットの、また緊迫感とか。そういうのがポンポンポンッとすごいいいリズムで入ってくるから。見せ方の緩急もすごく上手いですし。緩急っていう意味では、途中でポンッと、バーッとすごいスピード感で追っかけているかと思えば、ポンッと、『セブン』とか、あるいは黒沢清さんの『CURE』とかにも通じるような、サイコスリラー的な、「静」のスリラー演出、恐怖演出。からの……「ああ、そう来たか!」とうれしくなるようなトラップ、罠が仕掛けられていて、そこからの格闘シーン。これのアイデアのフレッシュさ、とかですね。
■今日的テーマに意外ときめ細かい演出
あと、クライマックスでは様々なヒーローたちの特殊能力を使った見せ場がある。特に、これは『X-MEN: フューチャー&パスト』とか、あとは『ドクター・ストレンジ』、ひいては『インフィニティ・ウォー』とかでもやっていたような……テレビゲームで『Portal』っていうのがあるんですけど、『Portal』的な、上下左右の方向感覚がクラクラするような、わかんなくなっちゃうような次元超越アクション。これも見せ場としてすごい面白かったですし。とにかくアクションシーン……シーンごとのアクションのアイデア、見せ方の引き出し、あとはその、構築のリズム、組み立ての周到さが本当に上手くて。やっぱりブラッド・バードは、本当にそこは超一流だな、という風に思いました。
一方でですね、そういう派手な見せ場以外にも、たとえば前作がね、さっき言ったようにミドルエイジクライシスっていうのをお話的なメインテーマに置いていたのに対して、今回は妻の、ひいては女性の社会進出を、理性的には喜び応援しつつも、そこでの新たな自らの役割……たとえば家事、子育てに一時的ではあれ専念する、というのになかなか馴染めなくて、悪戦苦闘する男性、という。「自分の新しい役割というのに馴染めなくて苦闘する男性」っていう、ある種非常に今日的なテーマっていうのを……図らずも『未来のミライ』とシンクロするようなところもあるような、今日的テーマをやっている。で、意外とキメの細かい演技、演出でちゃんと見せきる、っていうね。
僕は、細かいセリフ回しのところですけど、「そこは俺の出番だろ?」っていうのを伝える時の、「You know? You know?」の2回繰り返しのところとかさ(笑)、すごい笑っちゃいましたけども。あと、その合間合間に、たとえば赤ちゃんvsアライグマの、これはもう本当に古典的アニメーションを思わせるドタバタギャグシーンね。これぞアニメーションの王道!っていうようなドタバタギャグシーンとか。あとは個人的に、「これはブラッド・バードならではだな!」っていう感じがしてすごく大好きなのは、あの大邸宅に家族が移り住んで、いろんな仕掛けがあるっていうのを、ダッシュがリモコンでやって。最初はすごく豪奢な仕掛けでワーッて喜んでいるんだけど、だんだんそれがめちゃくちゃに……非常にスペクタクルでありながら、スラップスティックなところにだんだんエスカレートしていくあのギャグの見せ方。やっぱり空間と仕掛けの使い方みたいなのが、めちゃめちゃブラッド・バードは上手い!という。あれも名シーンだと思いますけども。
■この監督特有のトゲトゲしさ、嫌な感じは残っている
まあそんな感じで、しっかりと要所で笑いや見せ場、サービスも抜かりなく配して、という感じで。あとはまあ、前作の時点でのCGの技術的なハードルが、ほぼ全ていまはクリアされた分、たとえばコスチュームの素材感、肌の質感。あと爆発や煙表現……最初の方で、あのヴァイオレットさん、長女が……煙の中に人型がボッと抜けた思ったら、その先にヴァイオレットの姿がバッと現れて、走り抜けていく、あのショットとか。もうしびれますよね。そういうディテールの美しさ、絵的な美しさだけでも、本当に段違いで。そういう素晴らしい美術とかデザインとか、あと一瞬の気持ちいい演出とかを堪能しているだけで、僕は惚れ惚れするなと。やっぱりブラッド・バードは超一流だな、と思ってね。それだけでも料金分取れている、というのはたしかだと思います。
ただですね、まああえて言えばたしかに、ブラッド・バード特有のトゲトゲしさ、ちょっと嫌な感じっていうのも健在ではあって。中盤、今回のメインのヴィラン(悪役)である、スクリーンスレイヴァーっていうキャラクターの声で……しかもその声も、非常に印象的に強調された演出で語られる、大衆へのメッセージ。「ヒーローに依存している……もっと言えば、ヴァーチャルに耽溺して現実から逃避してるだけだろ、お前らは!」っていう、大衆への説教(笑)が、非常に印象的にね、劇中でもセリフの中でいちばん印象的に流されているわけですよ。で、ちょっと『トゥモローランド』の説教感も思い起こさせられもするような感じで……「ああ、ブラッド・バードっぽいなー」というセリフのあたりなんだけど。
ただ、今回はそれはあくまでもヴィラン側の言い分、っていうところに止まってるので、っていうのもあるし……そのヴィランの扱いも、一作目の、非情にただ突き放して終わりっていう冷たさよりは、比較的着地は優しくなってはいるんだけど。だから比較的気にならない、という言い方もできるけど……せっかくのその「大衆はヒーローに甘えてるだけだ。ヒーローは大衆を腐らせる存在だ」っていうヴィラン側の問題提起に対して、僕はやっぱり、「“ヒーローという物語”と大衆」というこの問題提起に、クライマックスでちゃんと回答してみせてほしかったんですよね。
それをすれば、そのブラッド・バードの(言われがちな批判である)「あんた、大衆を蔑視しているだろ」とか云々っていうのも、全部払拭できたと思うんだけど。実際にはこれ、ヴィラン側の問題提起は全く回収しないですね。回収しないどころか、今作だと、前作もそうなんですけど、「大衆」っていうのは基本書き割りなんですよね。本当に「拍手して周りから寄ってくる」とか、「プラカードを持って騒いでいる」とか、そういう書き割りでしかないわけです。なのでやっぱり、さっき言ったようにいちばん劇中で印象的に言われる、説教めいたセリフだけが印象に残って。なんかトゲトゲしさが残る、っていうところがちょっと、やっぱり残っちゃっているかなという風に思いますね。
■言いたいこともあるにはあるが、とにかくアクションだけでも一見の価値あり!
あとはまあ、家族のあり方というそのメインテーマも、なんかクライマックスで家族みんなで一緒に戦っているうちに、ややウヤムヤになっていくっていう……まあこれは前作もそのケはちょっとあったと思うんですけども、そういうところもあると思います。ただですね、たとえば今回、エヴリンという非常に印象的な女性キャラクターが出てきて。これはもともとは男性キャラクターで、性別を変えたんだそうですね。このもとの男性キャラの造形は、あの新しいヒーローチームの雷を落とす男、いるじゃないですか。あいつの顔、(ヒーローとしては)異常ですよね。画面で見ていても「なに、この顔?」っていう(笑)。あの顔のキャラクターだったんですってね。なんだけど、女性キャラにすることで、ちゃんとヘレンとの交流っていうのがあって……ということで、ちゃんとストーリー的、キャラクター的な深みも出るようになっている。冷たいだけの作りからは多少進化したとこもあるし、という感じだと思います。
まあ、語り口そのものに関してはいろいろと言いたいところもありますが、というね。ただまあ、僕は『Mr.インクレディブル』は、(先ほど言った通り)そういう楽しいディテールを愛でるという方向に……僕はそこが魅力だと思っていたので、そういう意味では僕は一作目よりは全然今回の方が好きですね。そんな感じでブラッド・バード、とにかくアクションが上手い。だから『ゴースト・プロトコル』みたいにノンメッセージの時だとやっぱり、それが嫌味なく入ってくる、というのがあるから、いっそのこと僕、ダニーボイルが降りたんだから、ジェームズ・ボンドをやっちゃえば?っていう感じもするんだけど。でもジェームズ・ボンド映画の監督って、イギリス人じゃなきゃダメなんだっけ?(※直後のガチャパートでも補足しましたが、例えば『慰めの報酬』のマーク・フォースター監督はドイツ人だったりするので、そういうルールも別にないようです)。
ねえ。わかんないけどね。とにかくそんなことも思うぐらい、僕はアクションがとにかく圧倒的に上手いという件、それとやっぱり美術、映像の美しさという点で、非常に値段分はあるというか、やっぱりブラッド・バードはただごとじゃないな、やっぱり天才ではあるな、と思う一作でございました。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!
(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『検察側の罪人』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。