「コシノジュンコ MASACA」はTBSラジオで、毎週日曜17:00-17:30放送中です。
2018年9月16日(日)放送のゲストは清塚信也さん。
1982年生まれ。桐朋女子高等学校音楽家を首席で卒業後、モスクワ音楽院に留学。2000年のショパン国際コンクールinアジアで1位を獲得すると、国内外のコンクールで数々の賞を受賞。また、劇伴音楽を数多く手がけ、TBS系ドラマ「コウノドリ」では劇中の音楽を監修。役者としても出演するなど、多方面で活躍していらっしゃいます。
*************************
出水:ドラマ「のだめカンタービレ」では、玉木宏さん演じた主人公・千秋真一の吹きえ演奏を担当していたんですね? これは手の部分?
清塚:手の部分というか、演奏全体ですね。マンガが原作なのでコミカルなところ、たとえば間違えちゃうところとか、どういう風に間違えるかを考えるのが大変でした。ドラマ的にわかりやすい間違い方もあるんですけど、音大生という設定なので、へんな間違いをしてたら音大なんか入れない(^^)実写だから、どのぐらい演出的にリアルを求めて、どれぐらいコミックを入れているかというのが難しかった。
JK:難しいですね~!
清塚:僕は上手く演奏することしかやってなかったので(^^ゞ
出水:うわ、カッコいい!
清塚:あとは、あんまり視聴者には分からないけど、クラシックの人からみたらあまりキレイじゃないとか・・・そういう専門的な下手さというのも織り込んでいったり。難しいんですよ、下手に弾くって。
JK:ワザと? でもイヤですね(^^;)
出水:役者さんに対して演技指導もしたそうですが、たいていの役者さんは小さいころにやったとしても、本格的にということはないと思います。どういう風に教えていくんですか?
清塚:ピアノを教えようと思っちゃいけない。
JK:子供に教えるときは?
清塚:子供に教えるときはきちんと。むしろ、ドレミファソ~を弾かせないで、ドっていうのはどういうルーツがあって・・・とかそういうところから。
JK:えーっ何それ? 聞きたい!
清塚:これはイタリア、聖書のラテン語の文章の、Doナントカ、Reiナントカ、っていう頭文字をとってドレミファソラシドが作られた。聖なる意味があるんです。
JK:へ~! そうですか。
清塚:腑に落ちたことというのは習得が早くて、授業みたいにはならずに、笑いを入れれば完璧かなと思います。
出水:私も子供のころそうやって教えてもらってたら、ピアノを辞めてなかったのにぃ!
JK:やっぱり楽しくやるのが大事だし、楽しくするっていうには話術が大事ですよね。熱心に弾くだけだとイヤになっちゃいますよ。
清塚:そう! 反復練習だけやってても飽きちゃう。
出水:清塚さんにとって、思い出に残っている先生はいますか?
清塚:やっぱり、中村紘子先生。
JK:ショパンコンクールで会いました。その時私、ちょうどポーランドにいて、大使公邸で食事して。楽譜と洋服を入れたトランクが出てこないっていうので、大騒ぎだった。ステージの衣装もあるしね。だから、私が作った大使夫人の洋服を「これにしたら?」って差し上げたの。
清塚:僕は中学生から習ってたんですけど、かなり厳しかったのも事実。ピアノ以外でも、礼節の部分でも結構厳しかったし・・・「そういうときはちゃんと立って挨拶しないと通用しない」とか、そういうことを叩き込まれた。「よろしくお願いします」っていう挨拶を立って言わなかっただけで、1時間ぐらい説教されて、「じゃ、モーツァルトから」って言われても絶対弾けないですよね! 全然モーツァルトの気分にならない。そういうので鍛えられて、今となっては感謝してます。
出水:フィギュアスケーターの羽生結弦さんと、ファンタジー・オン・アイスで共演されていますね。清塚さんの生演奏で、羽生さんのスケート・・・観客にとってはトンデモないご褒美だったと思いますが、どういった経緯で実現したのですか?
清塚:生演奏とスケーターのコラボレーションというのは、ありそうでなかなかないんですよ。

「黒鍵のグリッサント」というのがあって、輝かしい音が出るんですけど、けっこう手が痛いんです。白鍵よりも痛い。ガーッとやると、指をケガしちゃう。羽生さんの時はこれぐらいやらないとと思って(笑)、グリッサント三連続でラストを決めたんです。そしたら、羽生さんがこれを撮って練習したいと言って。すごくストイックな人なんでね。そうやって一緒に稽古をして、最終的にはいいものが出来ましたね。
出水:それがスケーティングとがっちりマッチした瞬間はものすごく気持ちよさがらいそうですね!
JK:でも、音がないとスケートって映えないですよね。音楽のイメージで踊るわけだから。
清塚:今回はユーミンさんの「春よ来い」をピアノアレンジでやったんですけど、羽生選手が男性でもない女性でもない、両性みたいな感じで。
JK:あの方、本当に細くてお顔も小さくて、本当に神秘的よね。宇宙人みたい。
清塚:いやいや、先生も(笑)絶対負けてないです。

JK:ご自分で、人生でマサカ!と感じた経験は?
清塚:いっぱいありますけどね・・・いま現在感じているマサカは、まさか僕の母親がこんなに優しくなるとは!
JK:昔はあんなに厳しかったお母様が?
清塚:そうなんです。僕、6歳と3歳の娘がいるんですけど、娘が塾に行くんだって母に電話したら、「子供はのびのびと遊んで育てなさい」って(笑)僕、病院に行かせようかと思いましたよ!
出水・JK:ははは!
清塚:どうしちゃったのよ! って訊いたら、「僕と姉の教育で反省した」って。僕も自分で娘をもって、よくこんな純粋無垢な子供にあんな仕打ちができたな、って思うんですけど(笑)でも、ある意味では愛だなと思います。ようやくね。
JK:それでご自身でピアノを教えているんですか?
清塚:いや、僕は教えてないです。厳しい世界なので・・・手を抜いて教えるというのも難しいですし。やりたないなら他の先生に教えてもらって。
出水:今後こういうお仕事してみたいというのはありますか?
清塚:自分ができることはそんなにないので、音楽を通して人とつながり合えることだったら何でもしていきたい。
JK:ショパンコンクールのシニアとかあるじゃないですか? 将来的にまた挑戦するというのはないんですか?
清塚:80%ないですね! コンクールに関しては、実は懐疑的なんです。コンクールに特異な才能がありますんでね。
JK:あれって楽しめませんものね。
清塚:コンクールは楽しんじゃダメですよ。ショパンコンクールだったら、ショパンへのリスペクトも入ってくるし。ショパンらしく弾くのも大事だし・・・誰が一番うまいのかをみんなで決めるのって、あんまり生産性があるとは思えないんです。
JK:クラシックってそういう巨匠のものを弾くわけでしょ? そこに疑問はなかったの? どうしてもクラシックって決まってますよね。
清塚:再現するという美徳はあると思うんですけど。一字一句換えちゃいけないし、ショパンの言う通りに弾かなきゃいけない。うまくいけばいくほどショパンの株があがるようで、「チッ」って思うこともあるんです。
JK:そうなの。クラシックに対して疑問だわ。
清塚:やっぱりルーツというか、何百年も前にこういうことをやっていたというのが美徳で楽しいけど、やっぱりショパンもベートーベンも自作のオリジナルを弾いていたので、オリジナルを演奏することには僕も今後やっていきたい。
JK:ショパンはベートーベンの曲あんまり弾いてないでしょ? 自分は自分ですよね。
清塚:やっぱり音楽家というなら、僕はオリジナルを聞きたいですね。自分の気持ちを自分の言葉で語る。作曲は力を入れていきたいですね。