TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』は月~金の11:00~13:00生放送。
音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム
「ボサノバ誕生60周年記念企画第2弾! 最新洋楽から聴くボサノバの遺伝子たち」【高橋芳朗】
今回のテーマはこちらです! 「ボサノバ誕生60周年記念企画第2弾! 最新洋楽から聴くボサノバの遺伝子たち」。
【ジェーン・スー】
前回の第1弾ときにびっくりしたんですよ。ボサノバが生まれてからまだ60年しかたっていないんだって。
【高橋芳朗】
そうですね。同じブラジル音楽でもたとえばサンバなんかはすごく古い歴史があるんですけど、ボサノバは比較的新しいジャンルかもしれないですね。ボサノバの最初のレコードとされているジョアン・ジルベルトの「Chega de Saudade」のリリースから今年でちょうど60年になります。それを記念してのボサノバ特集、8月31日放送の第1弾では「夏の終わりに聴きたいロックなボサノバ特集」をやりました。
【ジェーン・スー】
ビーチ・ボーイズなどをかけましたね。
【高橋芳朗】
そうそう。で、今回はここ数ヶ月でリリースされた洋楽新譜からボサノバの影響が聴き取れるものを厳選しました。ロック編、R&B編、ヒップホップ編、そしてあのおなじみの曲がボサノバに変身するカバー編、計4曲紹介いたします。
【ジェーン・スー】
よろしくお願いします。
【高橋芳朗】
まずはロック編として、レモン・ツイッグスの「The Bully」。
【ジェーン・スー】
若い!
【高橋芳朗】
うん。2016年にアルバムデビューした直後からエルトン・ジョンだとかヒップホップバンドのザ・ルーツだとかジャンルを越えてさまざまなアーティストから絶賛された早熟の天才兄弟です。この8月にリリースされたばかりのセカンドアルバムにはトッド・ラングレンが参加しているんですけど、まさにそのトッド・ラングレンやXTC、それからエレクトリック・ライト・オーケストラみたいなちょっとひねりの効いたポップスを身上としているコンビですね。
これから紹介する「The Bully」は彼らがアストラッド・ジルベルトを聴いているときにアイデアを思いついたそうなんですけど、ただの可愛いボサノバでは終わらない、ちょっとしたツイストが効いています。クイーンを彷彿とさせるところもあるかもしれません。
M1 The Bully / The Lemon Twigs【ジェーン・スー】
いろいろと詰め込んでるねー。
【高橋芳朗】
おもしろいでしょ? このレモン・ツイッグス、来月11月には来日公演が決まっていますので興味のある方はぜひ。
【ジェーン・スー】
ああ、そうなんだ!
【高橋芳朗】
続いてはR&B編として、今月頭に来日していたジェイミー・アイザックの「Wings」。この曲はボサノバの気怠さやクールさが打ち出されている曲ですね。ジェイミー・アイザックはロンドン出身の24歳。
で、この6月にリリースされた最新アルバムのタイトルは『(04:30) Idler』。直訳すると「午前4時半の怠け者」みたいな感じになると思うんですけど、まさにそのタイトル通り深夜のリスニングにぴったりな、夜の孤独にそっと寄り添ってくれるような音楽です。ジェイミー本人曰く、この「Wings」はボサノバの名盤中の名盤、スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトの共演アルバムにインスパイアされてつくったということです。
M2 Wings / Jamie Isaac【ジェーン・スー】
これはストレートなボサノバとはまたちょっと違う感じだね。
【高橋芳朗】
うん、ボサノバのリズムを取り入れた曲ですね。では3曲目、ヒップホップ編としてバス(Bas)の「Tribe」。この曲ではボサノバの気持ちよさが堪能できるのではないかと。バスはフランス生まれニューヨーク育ちのラッパーで現在31歳。硬派な社会派ラッパーとしてはケンドリック・ラマーと並ぶ存在といえるJ・コールのレーベルから2014年にデビューしました。この8月には最新作となる3枚目のアルバムを出したばかりです。
これからかける「Tribe」はエドゥ・ロボの「Zum-Zum」という古いボサノバの曲をサンプリングしています。1970年の作品。いまうしろで流れていますが、この曲のイントロのギターのフレーズを延々とループしているんですよ。
【ジェーン・スー】

あー、すごくヒップホップっぽい。クルー(Cru)の「Just Another Case」みたいだね。
【高橋芳朗】
そうだね、でもそのたとえちょっとわかりにくい(笑)。
【ジェーン・スー】
フフフフフ、ごめんごめん(笑)。
【高橋芳朗】
同じボサノバをサンプリングしたヒップホップの有名曲としてはファーサイトの「Runnin'」なんかに通じるところもあるかな? ヒップホップやラップというと構えてしまう方もいるかもしれませんが、まずはこのギターのループの心地よさに意識を向けて聴いてもらえばきっと楽しめると思います。
【高橋芳朗】
それでは最後、最後はボサノバへの劇的な変貌ぶりが楽しいカバー編ですね。こちらはレバノン出身でロンドン在住のシンガー、日本でも非常に人気が高いミーカによる椎名林檎さんの1999年作「シドと白昼夢」のカバーを紹介したいと思います。堀井さんはこの曲ご存知です? デビューアルバムの『無罪モラトリアム』に収録されていた曲です。
【堀井美香】

えっ、私? 私はちょっと存じ上げませんが……。
【高橋芳朗】
「なんで私にそんな質問をするんだ!」みたいな顔をしないでください(笑)。
【ジェーン・スー】
椎名林檎は堀井さんにとって新しすぎるんだよ。
【堀井美香】
白昼夢を見ることはよくありますけど。
【ジェーン・スー】
フフフフフ、いままさに白昼夢だ。
【高橋芳朗】
これは5月に出た椎名林檎さんのトリビュートアルバム『アダムとイヴの林檎』に収録されていた曲で、めちゃくちゃおしゃれなボサノバ調にアレンジされているうえフランス語でカバーしているんですよ。だからぼんやり聴いていると「シドと白昼夢」だとは気づかないかもしれません。
【ジェーン・スー】
これはすごいね!
【高橋芳朗】
うん、素晴らしい仕上がりですね。そんなわけでボサノバ60周年企画の第2弾として「最新洋楽から聴くボサノバの遺伝子たち」をお届けしましたが、実はまだ本家のボサノバをやっていないというね。
【ジェーン・スー】
そうなんだよね。私としては「まずはこれを押さえておけ!」みたいなベーシックなものを聴きたいかな?
【堀井美香】
うん、小野リサでお願いします。
【高橋芳朗】
なるほど、承りました!
◆10月26日放送分より 番組名:「ジェーン・スー 生活は踊る」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20181026110000