TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
12月1日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、「食品ロス」の専門家、ジャーナリストの井出留美(いで・るみ)さんをお迎えしました。

食品ロスとは、本来は食べられる食品が様々な理由で毎日大量に廃棄されている問題です。いかにひどい状況になっているか、日本ではまだ十分には知られていません。井出さんは食品ロスの問題を各種メディアで伝えながら、有志と集まってロスを減らす活動にも取り組んでいます。

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井出さんは1967年、東京都生まれ。幼い頃に母親の料理の本を読んで早くから「食」に興味を持ち、国立奈良女子大学で栄養学を学びました。27歳のときに青年海外協力隊に参加し、食品加工隊員としてフィリピンで活動。帰国後は日本ケロッグの広報室長として働きながら、女子栄養大学で博士号を取得しました。

大きな転機が訪れたのは2011年の誕生日、3月11日。東日本大震災が発生し、井出さんは食品メーカーの広報として被災地への支援物資の手配に奔走しました。さらに、井出さんは日本ケロッグを退職し、被災地支援のため「office 3.11」を設立。そしてフードバンクで広報の仕事をするようになりました。そこで初めて食品ロスの現状を目の当たりにしたのです。

日本では1年間に2800万トンの食品廃棄物が出ていて、そのうち600万トン以上が食品ロス=まだ食べられる食品なんです。具体的には、646万トン(2015年度の推計)。これはなんと、東京都民1300万人が1年間に食べる食品の量とほぼ同じ! 世界中で飢餓に苦しむ人たちに向けて援助されている食料(年間320万トン)の2倍です。

食品ロスの話をすると「私たちも少しは食べ物を食べられるうちに捨てているかもしれないけど、大量に捨てているのは食品メーカーや小売店でしょ」と思われるかもしれません。井出さんが講演会で「日本の食品ロスは8割が事業系(メーカーや小売店など)だと思う、○か×か?」と聞いてみると、大半の人が「マル」と答えるそうです。でも実際はそうではありません。食品ロスの約半分は一般家庭から出ているのです。646万トンのうち一般家庭が289万トン(45%)、事業者が357万トン(55%)。チリも積もれば…とはこのことですね。どうしてこんなに大量の食品が、まだ食べられるうちに捨てられてしまうのでしょうか。

「久米宏 ラジオなんですけど」井出留美が食品ロスを語る

原因の一つは「賞味期限」。その食品がおいしく食べられる期間の目安が賞味期限ですが、1日でも過ぎてしまったら捨ててしまう人が多いのです。

日持ちがしない食品が安全に食べられる期限である「消費期限」と同じように考えてしまっては、食品ロスは増えるばかりです。井出さんによると、日本の食品メーカーは海外に比べて、賞味期限を短めに設定しているそうです。メーカーとしては出荷したあとの食品が店頭に置かれるときの状況や消費者が買ってからの保管状況まで考えて、余裕をみて短めに設定するのです。ですから常識的に扱っているなら、賞味技研を多少過ぎても、十分食べられます。

ほかにも食品ロスの原因になっているのが、食品業界の「3分の1ルール」。スーパーやコンビニエンスストアなど小売店では、メーカーが短めに設定した賞味期限よりさらに手前の時点で廃棄しているのです。賞味期限を3つに区切って、最初の3分の1を「納品期限」、次の3分の1を「販売期限」として、そこまでに売れなければ捨ててしまうのです。例えば賞味期限が3ヵ月の食品なら、メーカーは最初の1ヵ月までに小売店に納品します。1ヵ月を過ぎると小売店に受け取ってもらえず、廃棄することになります。そして小売店は次の1ヵ月までに販売しなければなりません。そこで売れ残ったものは、賞味期限があと1ヵ月あるにもかかわらず捨てられてしまうのです。

また、「欠品NG」という風潮も食品業界に蔓延していることも食品ロスにつながっています。

賞味期限の手前3分の1で廃棄されれば、店の棚からは食品がどんどんなくなっていきますが、スーパーやコンビニは棚に空きができることは極力避けようとします。品切れが出ると消費者からクレームが来るからです。だから欠品を出したメーカーにペナルティを課す小売店もあります。欠品は許されないというのが業界の認識なのです。その結果、メーカーは必要以上に食品を作ってしまい、それが売れ残れば廃棄です。

こうした事情をみていくと「やっぱり悪いのは食品を作ったり売ったりする側じゃないか」と思うかもしれません。でもメーカーや小売店にそうさせているのは、実は私たち消費者なんです。

「久米宏 ラジオなんですけど」井出留美が食品ロスを語る

「メーカーや小売店が欠品を防ぐコストって半端じゃないんですよ。そのコストは結局、消費者が払っているんですよね」(井出さん)

「そこなんです。メーカーや小売店から出る食品ロスのコストは、価格に上乗せされているんです。そうじゃなきゃやっていけませんからね。だから捨てられる食品のコストは、最終的には買っている人が払っている。

そのことに気づいてないんです」(久米さん)

「だから消費者は、普段さほど使わない食料品ならスーパーやコンビニの棚になくてもいい、欠品しててもいいという寛容さを持ったほうがいいですね。スーパーの中には欠品OKというところもあります。どっちがお客さんのためなのかということを考えて買い物をするといいです。お買い物って、私はこのメーカーにお金を払う、私はここのスーパーにお金を払うということですから、選挙の投票みたいなものなんです」(井出さん)

「今の話は非常に重要です。買い物をするというのは投票だということ。毎日、買い物をしているときに、みんなそのメーカーや店の姿勢に投票してるんです」(久米さん)

日本の食品ロスは646万トンということになっていますが、実はほかにもロスがあるんです。それは田畑の食品ロス。形が悪いとか大きさが規格に合わないといった理由で市場に出荷されることなく田畑で廃棄される農産物が膨大にあるんです。それから、生産調整という言葉を聞くと思いますが、これも実は食品ロスです。旬な時期を迎えたり豊作で市場に大量にその農作物が出回るようになると価格が下がってしまうので、やはり出荷することなく廃棄するのです。生産調整という言葉は、作りすぎないように調整しているように聞こえますが、実際は作りすぎたから廃棄しているのが生産調整なんです。こうした田畑でのロスを日本では食品ロスとしてカウントしていないのです。

また、災害に備えて企業でも行政でも家庭でも食品を備蓄をしていますが、これも大量に廃棄されています。会社などで賞味期限が迫った災害備蓄品が配られることがあると思いますが、それがすべて完食されていないであろうことは想像に難くありませんよね。これも646万トンの食品ロスの中にはカウントされていません。ですから日本の食品ロスは、実際には1000万トンを超えているかもしれません。

「久米宏 ラジオなんですけど」井出留美が食品ロスを語る

「ぼくは食品ロスの問題って、食べ物をひと口、ひと口、ちゃんと味わって一生懸命食べてるかどうかだと思ったんです。いい加減にものを食べてるんじゃないかって。この食べ物は一体どういうものでできていて、誰が作ったんだということ考えて食べてるか。ぼくの年齢だと子供の頃は食べ物が本当になかったんです。飢え死にするかっていう経験を何回もしていて、〝食べ物は命よりも大切〟みたいなところがある(笑)。だから今でも残せないんです。一生懸命食べないと、結局それが食べ物をおろそかにしてしまうことにつながるんじゃないかって。それが井出さんの本(『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』)を読んだぼくの結論だったんです」(久米さん)

「その通りです。

10月にイタリアに取材に行ったんですが、イタリアの人は食べることを本当に楽しんでいるんです。お昼が遅くなっちゃって午後3時頃になったんです。でも次の約束もあるから、日本だったらパッと5分ぐらいで食べて行くと思うんです。でもイタリアの人はレストランで1時間ぐらいかけて食べるんですよ。オードブルを頼んで、男性の方もデザートにティラミスを頼んで、さらに最後にお決まりのエスプレッソまで飲んで。それは食べるということに対する姿勢なんですね。スローフードという考え方が発祥した国ですし、ゆっくり味わって、楽しんで食べましょうということが国全体にありました。この姿勢こそが大事なのかなって思います」(井出さん)

井出留美さんのご感想
「久米宏 ラジオなんですけど」井出留美が食品ロスを語る

一日中でもしゃべっていてもいいぐらい、楽しかったです。久米さんの本を全部読んできたゲストは12年やっていて1人と言われて、光栄だと思います。

「久米宏 ラジオなんですけど」井出留美が食品ロスを語る
「久米宏 ラジオなんですけど」井出留美が食品ロスを語る

久米さんは食品のことをかなり調べてくださって、私の本や記事も読んでくださって、ありがたいと思いました。

◆12月1日放送分より 番組名:「久米宏 ラジオなんですけど」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20181201130000

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