「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」。毎週月曜日は東京新聞との紙面連動企画。
今日は8月11日に発売された絵本を紹介した「TOKYO発」の記事に注目しました。『ふたりのももたろう』というこの絵本、東京都千代田区のコンサルティング会社「ドリームインキュベータ」という異業種から出版されました。
(全国の書店やインターネット書店で販売中。税込み1980円。)実はこれ、1つの絵本なのですが、その中に2つの物語が入っていて、1つは、みなさんご存知の
桃太郎のお話、もう1つは、別の桃太郎のお話。それで『ふたりのももたろう』というタイトル。東京新聞では、物事の二面性を知り、自分とは異なる立場から考えるきっかけを与えてくれる本として話題だ、と紹介していました。
もうひとりのももたろう!?
では、別の桃太郎のお話とはどんなものなのか?企画者で作者の、木戸優起さんに伺いました。「『桃が二個流れていた』というような設定にしてますね。片方のももたろうは、おばあさんにたまたま拾われなかったので、『
鬼ヶ島に流れ着いて鬼に育てられたももたろう』という形にしてます。やはりちょっとしたきっかけで、結構、人生って変わるなと思っていて、そういう考え方が他の人の立場に立って考えるときに助けられるのかなと思っていて、今回の絵本っていうのは、立場によって『こっちのももたろうだったらこう考える、あっちのももたろうだったらこう考える』っていう風に行き来をするっていうことを体験として提供しようと思っているんですけど、その上では、両方ともいい人です、っていうような描き方をしてます。」(木戸優起さん)『桃太郎』については、鬼の描かれ方が一方的で、差別的だ、といったものや、鬼を米英に見立て、犬キジ猿の家来を軍の部下に見立てて、軍国教育に使われた歴史もあり、批判もあります。木戸さんも「なんで鬼が退治されなければならなかったのか?」「犬・キジ・猿は家来のような縦の関係ではなく仲間のような横のつながりでいいのでは」など思っていたそう。また、子供に大切なことを語り継ぐのが昔話ならば、時代によって伝えるべきことも変わってもいいのでは?と考え、今回は『鬼退治のももたろう』の方にも、アレンジを加えてこの絵本を作りました。
ところで、物事の二面性を描くとなると、「鬼側の視点から描く」という発想もありますが、「桃太郎VS鬼」という対立になると、どちらが良い悪いという話で考えてしまいがち。そこで2人とも桃太郎にして、それぞれの環境ですくすく育った二人を主人公に。二人の人生が変わったのは、桃が川で拾われたかどうか。こういう小さなきっかけで違いが生まれる、とすることで、「自分はもしかしたら相手だったかも・・・・」と相手の立場に立ちやすくなるのでは?と木戸さんはおっしゃっていました。ちなみに、鬼ヶ島で育ったももたろうは、みんなにあるツノが自分にはない!と泣くんです。すると鬼に「違っていてもいいじゃないか」と諭されるそうです。(鬼、いい奴です!)
考え方の違うふたりのももたろうが出会って・・・
では、まったく違うふたりのももたろう、反響はどうなのか?木戸さんのお話です。「最後に考え方の違うふたりのももたろうが出会ってしまう。鬼に対して、鬼退治のももたろうは「悪い奴だ」と考えているので退治しに来る。で、鬼の子供として育ったももたろうとしては「鬼はすごくいい人達」なので、「鬼というものに対して二人の桃太郎が全然違う考え方を持ってますよ」っていう所で、結論を書かずに終わっているんですけれども、反応は想像以上に頂いてまして、読んでくださったお子さんとかからもお声を頂いてるんですけど、あとは先生からも「相手の立場に立って考える」ということを教えたいと思っているけど、なかなか難しくて悩んでました。この絵本を使うと伝えやすいので、教材としてもすごく使いやすいです、みたいなお声も頂いてます。おかげさまで、結構、書店さんも50店舗くらいですかね、Amazonさんでも、毎日コンスタントに買って頂けているので、初めてのものにしては、すごく反響をいただいておりますね。」(木戸優起さん)絵本の作りも変わっていて、1枚の紙を蛇腹に折って、表に鬼退治のももたろうのお話があって、ひっくり返すと、裏にもう一人のももたろうのお話が描かれています。この作りも子供たちに人気!興味津々だそうです。
(蛇腹構造の絵本!たしかに、ふたつの物語のとびらがあります!)
(表紙をめくると『おにたいじのももたろう』が始まります!)
(おしまいまで読んでマジックテープをベリベリはがすとにのこももたろう』のとびらが!右側が表紙。)
(表紙をくるり、とまわしてくると、『おにのこももたろう』のはじまり!)学校の先生からの喜びの声もありましたが、某県の教育委員会の方々と、学校の教材として使うことはできるかどうか、議論もしているとか。取材した東京新聞社会部の神谷円香記者は、鬼に育てられた桃太郎の話を読んだ子が、「どうしたら鬼を守れるだろう」「鬼の島にみんなに住んでもらおう」などと考え始めたというエピソードを紹介していました。
『絶対の一つの解』を示さないという姿勢
では、その神谷記者は、どう感じたのか?日々の取材に通じるものを感じたそうです。「一方だけの意見じゃ物事って見られないんだよねっていうのは、ずっと考えてきたので、自分が思っていることって正しいと思っているところはあるから、そっちばっかりの主張でも、じゃあ、それってどうしても一面的な話で、部分的にこっちの意見はこうだし、でもこっちがそうだよなって思う所もあるし、結構考えるほどにどっちが絶対に正しいっていうことって言えないよなっていうのは自分の思っていたので、そういうところを押しつけがましくなく、最後、疑問形で終わるんですけど、そういうところも考えさせるっていうのは、『絶対の一つの解』みたいなのを示さない姿勢っていうのは、すごくいいなって思いましたね。」(東京新聞・神谷円香記者)取材の中で、違う立場の人の意見はどうなのか、常に意識をしている、という神谷さん。現在、パラリンピックも担当していて、オリンピック・パラリンピックが延期になってからの1年、政府は「開催ありき」の意見ばかりでしたが、実にさまざまな立場の人の、さまざまな意見があり、一方だけの意見じゃ物事は見られないと、ずっと考えさせられてきた。だからこそ、疑問形で終わるこの絵本の『絶対の一つの解』を示さない姿勢に、とても共感したそうです。新聞も、どうしても主義主張はつけないではいられないし、あって当然だけど、記事にも、投げかけや、読んだ人が考える余地を残しておきたいな、と話していました。そういう意味では、大人も子供も『二面性』『多面性』に気づくきっかけになる絵本なのかもしれませんね。