TBSラジオで月~金曜午後10時~11時55分に放送中、新しい日常を生きる私たちに必要な知識を、楽しく学び、深く考える番組「アシタノカレッジ」。 8月19日放送回では、月~木曜パーソナリティを務めるキニマンス塚本ニキ(@tsukaniki85)が、
新型コロナ対策で世界中から注目を集めた台湾デジタル担当大臣、オードリー・タンさんに独占インタビュー!これからの時代を生きるためのヒントをたっぷり聞いてきました。
この記事では、約2時間の放送内容をダイジェストでお届けします!
オードリーさんにとって、民主主義ってなに?
今回の放送は英語でのインタビューを、ニキが同時通訳をする形式で進行していきました。まずは、「オードリーさんにとってリーダーシップとは?」という質問から。オードリー:私にとってリーダーシップとは迅速で安全なものです。みんなが時間を無駄にせずリスク回避できるよう仕組むのが私の役割です。「みんな」というのは公務員や国民だけではなく、(外国籍などの)市民、まだ投票できない未成年者、さらにまだ生まれていない未来の世代も含まれます。全ての人の時間のロスを防ぎ、リスクを減らさなければいけません。ニキ:オードリーさんがリーダーとして活動するときに、もっとも大切にしていることはどんなことでしょう?オードリー:最も重要なポイントは全ての立場の声を聞くことです。私にとって「みんな」というのはかなり広い定義だと先ほどお話しました通り、片方の意見だけ聞いてもう片方は無視、なんてできません。衝突や争いは必ず起きますが、「こっちが正しい、あっちが間違っている」というような対応はしません。対話と傾聴ができる空間を用意し、新しい解釈やイノベーションを見つけて全員が前より良い状態でいられるように心がけるのが私のやり方です。ニキ:とても民主的な考えですけれど、実際にそれを実践するのは難しいんじゃないかと思います。オードリー:私たちが21世紀で得た気づきの一つは、ラジオやテレビのような媒体は放送するのは簡単だけれど視聴することは必ずしもそうではないということです。この関係性を逆転できるのがインターネットです。
つまり、ラジオの生放送番組を聴いているリスナーは電話などで番組に参加できるかもしれませんが、それは一人ずつしかできないことです。その反面、生放送を聴きながら公式のオンライン掲示板でリスナー同士が放送内容に関連する意見や感想を出し合って、それに投票できるシステムがあれば、放送側はリスナーの関心をリアルタイムで把握することができます。これは電話やラジオやテレビだけではできなかったことです。リスナーの言葉が放送に反映されるだけでなく、それまでメディア側に拾われなかった声が拾われることで新しい社会課題の認識が生まれるかもしれません。これがインターネットが民主主義にもたらした貢献の本質です。ニキ:なるほど。つまり過半数の意見が多数決が民主的な決断を判断するべきということでしょうか?オードリー:選挙というのは、とても小さなビット速度で行われています。いま、私とあなたがいま会話をしているときは、最小でも10キロバイトで受信・送信されているはずです。しかし選挙というのは2~4年に1度しかありません。それはとても低いデータ速度です。しかしそれよりも1000倍も速く多くの情報を送受信できるとなると、そこからさまざまな人たちの感情や共感をシェアできることがあります。つまり、より最新のデジタル技術を使えば、より速い速度でデータ送受信ができるということなのです。
たしかに数年に1回の選挙では、私たちの意思表示はあまり反映されることがなさそう……。つい「民主主義=選挙」というふうにイメージしてしまいがちですが、「みんなで議論して、みんなで決める」というのが民主主義の原則のはず。選挙という手段だけにかぎらず、デジタルの力を使って、もっと民主主義を発展させていくことも可能なのかもしれませんね。
オードリーさんは「強力に引っ張るリーダー」ではない?
オードリーさんには、リスナーから寄せられた質問にも答えていただきました。まずはアツシさんからの、「台湾のデジタル担当大臣として、国民に対してもっとも大切にしていることと、介入してはいけないと考えていることは何ですか?」という質問です。オードリーさんは、自身の役割をラグランジュポイント(=地球と太陽のあいだで重力の届かない空間)にたとえます。そう、「政府と市民のコミュニケーションがうまくいくように衛星中継している」という自己認識を持っているのだそうです。日本に生きる私たちは、オードリーさんが台湾で強力なリーダーシップを取っているように感じてしまっていたかもしれません。しかし彼女は、「それは違います」と否定します。話題になったコロナのマスクマップも、オードリーさんが発案したのではなく、台湾のエンジニアたちが考え出したアイデアを、さらに広い範囲に届けられるように政府や多くの人にシェアする、そういった役割を担ったのだそうです。ただ、それもテクノロジーの活用があってのこと。そこで、最近話題の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」についても聞いてみることに。ニキ:最近、デジタルトランスフォーメーションという言葉をよく聞くようになりましたが、実際これってどういう意味なのか、ピンと来ない人も少なくないと思うんですね。
DXという流れがあるとしたら、いま私たちはどのあたりにいるんでしょうか?オードリー:たとえば「トランスカルチュラリズム」という概念は外国での異文化交流などを通じた文化の交流を意味し、「トランスジェンダー」は異なるジェンダーロールの経験の融合を意味しますが、私にとってDXは既存のデジタル形成の通過です。たとえばロボット産業とデジタルーアート業界は本来接点が少ないものでしたが、現在のDXで見れば実は大いに関連性があるという事が分かってきます。DXのより良い活用から期待できる事について理解を広めるために、アーティストやデザイナーの力が必要になるはずです。そして、人間が人工知能に適応するのではなく、支援知能(Assisted Intelligence)が人間を支えるようなシステムを作るためにはロボット工学に携わる人々が必要になります。すべては絡み合うようにつながっているんです。先ほど説明したような、デモクラシーの原則にのっとったDXという新しい考え方はまだ始まったばかりだと私は考えます。デジタルトランスフォーメーションというのは、デジタルについていけない人を置いてけぼりにするのではなく、より人々の活躍の場を広げ、より多くの人が主体的に社会に参加できるようになる、ということなんですね。
「結婚」の多様化と民主主義、テクノロジー
台湾では国民投票を経て、2019年から同性婚が認められるようになりました。アジア初となったこの画期的な社会的変化の背景も気になります。自身もトランスジェンダーであるオードリーさんいわく、2007年に台湾の婚姻制度に大きな変革をもたらした民法改正がひとつの足がかりとなったのだそう。そうした背景があったからこそ、同性婚もひとつのあり方として認められていくようになった、ということなのかもしれません。しかし日本では、まだ「結婚の多様性」を認めようという動きは、社会全体にまでは広がってはいません。ニキ:日本でも、結婚、パートナーシップ、ジェンダーなどについて議論が進められています。
新しい社会的価値観をめぐって分断のようなものがあるなかで、なんとかして生きやすい社会を作りたいという人たちが頑張っているんですが、なかなか解決策が見えてこないように感じます。さまざまな意見が対立するだけではなく、どうすれば前進できるのか。それに必要な要素はどんなものだとオードリーさんはお考えでしょうか?オードリー:台湾で我々が探しているのは「コンフィギュレーション」、つまりシステムに応じた設定のことです。カギとなるのは、困難な状況でもしなやかに生き延びる回復力、すなわち「レジリエンス(resilience)」です。耐震性が強化された建物であれば、
地震でも崩れることはないでしょう。デモクラシーの帯域幅が広ければ、自分とは異なる他人の意見に耳を傾けるレジリエンスが身につくはずです。イエスかノーの二択しか選べない状況では、人々は不要に「こっち側」「あっち側」に分けられてしまいます。台湾の国民投票のように、複数の案が提示されていれば、それぞれが二者択一であってもビット数は増えます。このデザインがもっと広く適用されれば、解決案が見つかる空間、つまり大多数の人に認められるコンフィギュレーション空間であれば、それはいつしか
天気のように受け入れられる社会的要素になり、それによってニュアンスある議論も増えるでしょう。オードリーさんは「コンフィギュレーション」に加えて、話し合いが「叩き合い」にならずに市民が議論できる空間をデジタル上で設計することも必要だ、と言います。曰く、「今は、ナイトクラブ=つまり娯楽のための空間で社会的な議論をするタウンホールミーティングを開催しようとしていて、大音量で音楽が鳴っている場では大声で怒鳴り合うようにしかなりません」ということなのだそう。たしかに、SNSという楽しみのための場で、市民集会をやるのはなかなか難しそうです。
そこはテクノロジーの力を借りて議論をするための場を別に作る、ということも必要なのかもしれませんね。
デジタルに「支配」されないためには?
さて、今回の放送内でオードリーさんには、リスナーからの質問にも答えてもらいました。いくつかピックアップしてご紹介します。ニキ:こちらは匿名の方からの質問です。「どんなときに名案や考えが浮かびますか?」オードリー:8時間睡眠をとったときですね。私の仕事の大半は睡眠中に行われています。8時間睡眠は必須です。たとえば7時間しか寝られなかったときは、お昼休憩で1時間昼寝をするなどしてバランスを取っています。起きているときは、すべての人の声を聞き、すべての側の意見を取り入れているんですが、実際にそれをまとめる作業は睡眠中に行われています。そのときに私の頭の中で何が起きているかは私にもわかりません。ニキ:そうなんですね! ちなみに私も8時間睡眠をとるのが大好きです(笑)。めちゃくちゃ忙しいのではないかと思ったら、睡眠時間をしっかりとるのが何よりも大事とのこと(笑)。
他にはこんな質問も。ニキ:「デジタルに支配されず、人がうまく社会に活かすには、どのような点がポイントになりますか?」……私自身がこのリスナーの方のご質問を自分なりに解釈すると、「デジタルに依存せずにデジタルの良さを活かすには?」ということなのかなと思うんですけれど。オードリー:私はインテンション(意志)が大事だと思います。スマホを使うときは必ずタッチペンで操作するのですが、このおかげで何かをクリックしたり、立ち上げたり、入力したりするなど、全ての動作を意図的に行えるようになりました。指で直接操作していると、いつの間にかスマホが腕や指の延長線上のように感じられてくるんですよね。無意識にスワイプしながら情報を得ているうちに、私がスマホを操作していたはずがスマホが私を操作するようになってしまいます。あらゆる情報が蔓延している中、「この情報をどう扱うべきか」「ファクトチェックは必要か」と考えないまま「とりあえずシェア」すると、この中毒性の高いサイクルに貢献してしまうということです。ウイルスが蔓延する中でマスクが必要なように、スマホをタッチペンで操作すると情報をより客観的に見れると実感しているので、中毒性と独創性の間にディスタンスを設けることが大切だと思います。ニキ:これは私自身、耳が痛いお話です。本当に気づいたら何時間でもスマホをやいじっているんですよね(笑)。ここはやっぱり、自分の意図を忘れないことが大事ですね。この他にも放送内では、「台湾ではデジタルデバイスを教育にどう活用してるの?」「考え方のクセは?」「ロールモデルにしている人はいる?」「子ども時代はどういうふうに過ごした?」「これから目指している目標、いま取り組んでいる計画は?」などなど、たくさんの話題についてお話しいただきました。さらに放送の後半では、台湾在住のノンフィクションライターで『オードリー・タンの思考 IQよりも大切なこと』(ブックマン社)などの著書がある近藤弥生子(こんどう・やえこ @yaephone)さんともつないで、オードリーさんの思考・行動の背景について伺いました。