TBSラジオで放送中の「ACTION」。木曜パーソナリティは、羽田圭介さん。
6月11日(木)のゲストは作家の山崎ナオコーラさん。羽田圭介さんとは同じ文藝賞で作家デビューしたつながりがあり、羽田さんは当時大学生で金髪だったそうです。今日は山崎さんの作品『リボンの男』(2019)をもとに、子育てやお金の価値観、性差別の問題などを「創作と社会の関わり」をテーマに議論しました。
『リボンの男』のあらすじ…
小野常雄(通称:妹子)は「子供が小さいうちだけでも」と進んで専業主夫になった。息子タロウは3歳で、妹子は朝早く起きて家族の弁当を作り、タロウの幼稚園の送り迎えをする。そんな日常を送るうちに妹子は、賃金を得ていない自分について、「これで良いのか?」と不安になる。「賃金を得ていない自分は、時給マイナスの男ではないか?」そんな思いを抱きながらも子供との時間の中で、世界を細分化する小さな生活の豊かさに触れ、それを肯定していく。
羽田:これまでのナオコーラさんの作品の中でもっとも平易な言葉で書かれてますよね。それでいながら主張が強い小説でもあると思います。ナオコーラさんは昔から「誰でも分かる言葉で小説が書きたい」とおっしゃっていたと思うのですが、今作でその磨きがかかった理由はなんでしょうか?
山崎:私は社会派作家になりたいと思って、経済小説を書きたいと思ったのですけど、それだと国とか大きい話になりがちじゃないですか。それをたとえば「コーヒー1杯150円を出す、出さない」みたいな生活の小さい話でも社会や経済の小説になり得るんじゃないかなと思ったんです。だから多くの作家が大きい社会の仕事をするのなら、逆方向の小さな社会を書く作家も必要なんじゃないかなと思い、書きました。
羽田:この専業主夫が主人公の物語の着想はどこからですか?
山崎:”ヒモ”という言葉がありますよね。侮蔑語だと思うんですが、男性をバカにしたくて使う言葉ですよね。私はこの言葉を聞くといつも腹が立つんです。「ヒモじゃない言葉を作りたい」と長年思っていまして、「”リボン”はどうかな?」と思って。なんとなく前向きになりそうですから。それをずっと思っていたので、専業主夫の物語を書きました。
羽田:僕は小説以外の経済活動みたいな仕事をしています。このラジオもそうです。精力的に働いてしまう人間だからこそ、結局経済活動から離れた実践を独身の僕は全くしていないんですね。だから”マイナス時給”みたいな考え方は尊いと思いつつ、現実の自分からはかなり距離を感じています。一方でナオコーラさん自身も、「小説の中の夫婦の価値観が理想だ」と描いていても、ナオコーラさんはかなり精力的に小説を執筆されているので、現実的には作中の人物たちと距離はあるのではないかと思うのですが、理想と現実の差はどうですか?
山崎:そうですね。小説を書くときは理想を求めているかもしれませんね。
羽田:どういうことですか?
山崎:お金を得るだけの活動ばかりするのをやめようと思っていて。誰かに子供の面倒をみてもらうときに、「仕事に行くから」と言うのはすごく通りやすいんですけど、それをやめて「ゲラを見るから」「小説を書くから」みたいな言葉にして、仕事という言葉を極力使わないようにしようと思ってるんです。もう仕事と趣味の境目ってない気がしていて。たとえば周りの活躍している作家たちと自分の仕事に差があるから、「自分の仕事は大したことはない。子供を保育園に預けてまでやる仕事じゃない」と思ったこともあるんですが、「いやいや違う、たとえ本が売れなくてお金が大して動かなくても、私のやるべき仕事はこれなんだ」と悔し紛れに思ったんですが、ということは「お金で仕事の大事さを計らないなら、趣味とも線引きはできないのではないか?」と思ったんです。小さいお金で良いのならもう趣味でも良いですよね。だから今後は仕事じゃなくて、「小説なんだ」って思うようにしています。それでリモートワークを始めていると、段々と仕事の境目がなくなってきていると思うんです。「電車で移動することが仕事」と思っていたり、「飲み会で関係性を築くことが仕事」と思ったりしていたことが変わっていくと思うんです。私は確かに理想を求めて小説を書いているんですが、自分の反省はすごくしているので、その小説の方向には自分は向かっているつもりでいます。
このほか、『リボンの男』に出てくる性差別の話もお伺いいたしました。
◆6月11日放送分より 番組名:「ACTION」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200611153000