TBSラジオで平日15時30分から放送中の「ACTION」。木曜パーソナリティは、羽田圭介さん。
9月3日(木)のゲストは、上海のインターナショナルスクールで文学教師をされている小林真大さん。小林さんが出された著書『文学のトリセツ-「桃太郎」で文学がわかる!』は、童話・桃太郎を通して文学批評を解説しています。今日はそういった視点で桃太郎を読み直すとどうなるのかを羽田圭介さんがお伺いしました。
羽田:文学の批評って書評や感想とはどう違うんですか?
小林:批評って私たちが当たり前だと思う考え方に疑問を投げかける役割があると思います。私たちは言葉をコミュニケーションの道具だと思っていますが、実は言葉って私たちの価値観と強く結びついているんです。たとえば、「怒りのあまり吠えまくる」という言葉があります。これは「怒り」という感情を伝えている言葉ですが、よく考えると「吠えまくる」って動物の比喩なんですよね。だからこの人は「怒り」という感情を動物的に捉えているんです。それってあたかも「動物が感情的な存在で、人間は理性的だ」みたいなことを考えていることが分かります。私たちも結構、「感情的な人間は悪」と思っちゃっていますよね。言葉って何かしらの価値観と結びついているんですが、私たちはそれに対して無意識なんです。でもこうして言葉を分析したら価値観が分かるので、「その見方が果たして正しいのか」、「そもそも感情的なことは悪いのか」、みたいな私たちの固定観念が分かる部分はありますよね。
羽田:なぜ桃太郎を題材にしたんですか?
小林:若い人にも分かりやすく批評理論を紹介したい思いがあったからですね。
羽田:桃太郎というと、「イヌ・サル・キジを連れて鬼退治に行く、成功して良かった!財宝ガッポガッポ!」みたいなお話だと思うんですが(笑)、これがいろんな解釈ができるんですか?
小林:そうですね。たとえば「格差社会を表しているんじゃないか?」という説があります。イヌ・サル・キジを連れて鬼退治に行きますが、その報酬がきびだんご1個ですよね。
羽田:たしかに、それしかもらってないですね。
小林:鬼退治だから死ぬリスクがあるんですよ。なのにきびだんご1個で働かせているんですよ。それを私たちはなぜか当たり前として読んでいるんですね。
羽田:それで桃太郎は鬼ヶ島の財宝を独り占めするんですよね。そう言われると不平等ですね。

小林:「桃太郎は現実社会を反映しているんじゃないか?」という考え方ですね。たとえば、『その後の桃太郎』という作品があるんですが、そこでは桃太郎が財宝を独り占めしたあとに、イヌ・サル・キジがストライキを起こすんです。
羽田:ほかにも解釈があるんですか?
小林:フェミニズムの解釈もあります。一見、桃太郎ってフェミニズムのイメージはないですよね。でも、「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に」とありますよね。「なんで、おばあさんは洗濯なの?」という部分をフェミニズムは突くんです。つまり、「おばあさんは仕事に行ってはいけないのか?」ということですね。そうなると、「私たちの社会が持っている女性への偏見が、おばあさんを洗濯させているんじゃないか?」となりますよね。イメージとして、「女性だから家事をやる」ってあるじゃないですか。そういった差別に苦しんでいる1人の女性としておばあさんを見ることができるというのがフェミニズムの視点です。
羽田:たしかに、だいたいの昔話はおばあさんが水仕事をしているイメージがありますね。
小林:あと、桃太郎が男性であることも問題視されていますね。
羽田:今の時代には合わない表現として捉えることはできますよね。
小林:「男の子は多少やんちゃで乱暴でもいいからたくましく育ってほしい」というイメージもありますが、「それって私たちの社会が勝手に決めつけているのではないか」という疑問を突きつけるのがフェミニズムの視点ですね。
引き続き、桃太郎を多角的な視点で捉えたお話を伺いました。
◆9月3日放送分より 番組名:「ACTION」
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