TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』毎週月曜日~金曜日 朝6時30分から放送中!
8月30日(火)放送後記
7時30分過ぎからは素朴な疑問、気になる現場にせまるコーナー「現場にアタック」
新型コロナウイルスの新規感染者数、きのう8月29日はやや落ち着いたものの、多くの自治体で病床使用率がいまだ5割以上などまだまだ予断を許しません。今回は特に、コロナに感染した妊婦向けの病床の現状に注目しました。
病院間の連絡体制を整えてもギリギリの対応
1年前には千葉県柏市で、新型コロナ陽性となった妊婦の受け入れ先が見つからず、自宅で早産、赤ちゃんが亡くなるという問題が起きました。その千葉県では現在どんな受け入れ態勢になっているのか。千葉大学病院・周産期母性科の尾本暁子医師に聞きました。
千葉大学病院・周産期母性科の尾本暁子医師:
まず最初は近隣の周産期センターに相談してもらうんですけれども、そこが駄目だった場合、県内の周産期センターに一斉に「発報」といって、緊急の患者さんがいるけど受けられますかっていうのを問い合わせるシステムを作ったんですね。そうすると空いてる所の中で一番近いところに搬送するっていうことがすごく時間を短縮してできるようになったので、第6波のときはそれで乗り切れたんですけれども、第7波が急に増えてきたところで東葛地区なんかは周産期センターだけでは対応できなくて、結構、開業医さんとかでも「もう周産期センターも(患者を)取れません」って言われて、もうやらざるを得なかったとか、そういうふうには聞いてます。
このように、コロナに感染した妊婦を緊急で受け入れるために一斉に千葉県内の病院に連絡がいくシステムのほか、千葉大学病院も含め病床の拡大など受け入れ体制を整備してきたということですが、それでも間に合わずに、一部地域ではこれまで新型コロナ感染妊婦を受け入れてこなかった開業医などに頼らざるを得ない状況になっているそうです。開業医は地方だと対応する医師が1~2人という所もあり、仮にその医師がコロナに感染してしまうと診療が回らない懸念があるといいます。
根拠なき帝王切開、陣痛誘発など「過剰な医療介入」
こうした受け入れ態勢逼迫の問題だけでなく、妊婦を受け入れた後の対応に関する問題を指摘する声もあります。1つ目は「過剰な医療介入」。リプロ・リサーチ実行委員会のメンバーで静岡大学教授の白井千晶さんのお話です。
静岡大学教授の白井千晶さん:
例えばコロナ陽性だったら自動的に帝王切開ですとか、ある人のアンケートでわかった実際の例なんですが、予定日の2~3週間前にPCR検査をして陰性だったとする。陰性であったら、通常であればローリスクで通常通りの出産ができるはずなんですけれども、そうではなくて「陰性である今のうちに早く産んでしまいましょう」ということで陣痛の誘発がされたり、体とか胎児の準備が整っていないときに、ある意味無理やり出産を起こさせて、そうすると出産は長引きますよね。医療介入が起こることで母子の健康状態が悪化して結果として出産が長引く、そして医療の負担も増えていくということが起こっているので過剰な出産への医療介入をやめてくださいということになります。
新型コロナ陰性の妊婦に対して、陽性にならないうちにと陣痛を誘発する問題。
新型コロナ陽性妊婦と赤ちゃんを引き離し、愛着形成を阻害
また出産後についても、新型コロナ陽性の女性から生まれた赤ちゃんが、根拠なくその女性から引き離されるという問題もあるといいます。リプロ・リサーチ実行委員会のメンバーでロンドン在住の助産師、おざわじゅんこさんのお話です。
ロンドン在住の助産師・おざわじゅんこさん:
女性と赤ちゃんにとって生まれてすぐの時間をともに過ごすことは、愛着形成のために本当に重要な時間です。その時間を引き離すことにより、母親の、赤ちゃんを世話する、赤ちゃんの必要としている物のニーズに応えるっていう能力に大きく影響します。そして新生児が1人のケアラーから離されることによって精神の発達にも大きく影響が出ますので、イギリスやWHOもユニセフも、イギリスの職業団体も全て陽性女性から生まれた赤ちゃんは陽性女性と一緒にいる、そしてそれは同床、同室っていうのはガイドラインで決まってます。
イギリスでは今のところ、新型コロナに感染していた女性から生まれた赤ちゃんがコロナにかかって重篤になったという調査結果は出ていないということです。先ほど指摘した医療介入も含め、根拠がないのにコロナ感染のリスク軽減効果があると思い込んで対応をとる病院が多く、リプロ・リサーチ実行委員会は厚生労働省などに対し、実際にどんな問題が起きているのか調査をすること、海外を見習って根拠あるコロナ陽性妊婦対応のガイドラインを作ってほしいなど、今年4月に署名と共に要請していますが今の所対応はとられていないということです。医療逼迫に対応する上で病床を増やすだけでなく、厚生労働省が主導して医療の中身にもしっかり目を向けてほしいと感じます。