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3月31日放送後記
「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。
宇多丸:……はい、ということで。本当はさっき、オープニングで、このゾーンを使ってリスナーさんのメールを長めに紹介して、なんて言ってましたけど、すいません。余計なこと話してたら、全然時間がなくなっちゃったんで(笑)。そんなことをやってる時間はなくなってしまいました。先にあれですね、私がいつも言っている、映画館に行ったときの状況なんて、そんな話を先にしておきますかね。
TOHOシネマズ日比谷とバルト9のドルビーシネマ、日比谷のほうは普通の上映に行ってきましたけど……まず端的に言って、ドルビーシネマだからこうバキッとなにかが見やすくなっているとか、グレードアップして見えるとか、そういうことはあんまり感じませんでしたね。全体にあの、日本のこういう映画で、いくら大々的に宣伝されているような映画だったとしても、別にIMAXカメラで撮ってるとかそういうんじゃないし、ドルビーシネマ仕様になってるとかじゃない限りは、そんな正直、プラス料金を払って何かが変わるかっていうと、そんなことはない……みたいなのが、残念ながらある気がしますね。なんならIMAX(上映)だったら、いわゆる「額縁上映」になっちゃっているというパターンも、私も前に報告しましたけど。(その中でも本作は)正直、画面の画質的に、部分によってはそんないい画質の画じゃないっていうか。いろんな画質が入り混じるつくりではあるんですけど。
はい、そしてどちらも平日昼、春休みにしてはちょっと、空き気味でしたね。シン・シリーズをずっと続けて観てきてますけども、やっぱり最初の『シン・ゴジラ』の異様な熱気感とか、『シン・ウルトラマン』もそれなりに入っていた気がしますが、やっぱり今回興行的にも、若干そのふたつと比べると(成績が悪い)……というのは聞きますけど、実際劇場の雰囲気もそんな感じでしたかね。
てことで、『シン・仮面ライダー』……とは言えですね、非常に注目度も高いということで、皆さんからもメールを沢山頂いておりますので、賛否も両方、すごく面白い御意見も書いて頂いて。やっぱこれはね、皆さんの(意見の)角度が面白い、という作品でもあると思いますんでね。そちらもたっぷり目に紹介していきたいと思います。(金曜パートナーでこの日は体調不良で欠席していた山本匠晃アナウンサーこと)タカキはどんなふうに観たのかな? ということで、このあと私の映画評、(劇中の怪人「クモオーグ」の口癖を真似て)「それが私の仕事です」ということで(笑)、『シン・仮面ライダー』映画評、ムービーウォッチメン。このあとやります!
宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、3月17日から劇場公開されているこの作品、『シン・仮面ライダー』。
石ノ森章太郎原作、1971年放送の、日本を代表する特撮ヒーロー、仮面ライダー第1作を、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』などの庵野秀明が監督・脚本を手がけ、新たに映像化。超人的な力を持つバッタオーグに改造された本郷猛は、仮面ライダーを名乗り、自分を改造した博士の娘・緑川ルリ子とともに、謎の秘密結社、通称SHOCKERの野望に立ち向かう。主な出演は、池松壮亮さん、浜辺美波さん、柄本佑さん、森山未來さんなどです。
ということで、この『シン・仮面ライダー』をもう観たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「非常に多い」。賛否の比率は、褒める意見がおよそ「4割」。全面的に褒める意見は少なく、「良いところもあるけど……」というものが目立ちました。
主な褒める意見は、「きちんと現代的にアップデートされた仮面ライダーになっている」「石ノ森漫画版へのオマージュに痺れた」などがございました。一方、否定的意見は、「画やCGがチープすぎる」「ひとつひとつのエピソードが薄く、駆け足で進むため、感情移入をそがれた」「語ろうとしてるテーマの掘り下げ不足」など、ございました。
「僕にとっては宝物のような作品になりました」
では、代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「オリデン」さん。「シン・仮面ライダー評と聞いて、いてもたってもいられずメールさせていただきました。1986年生まれで、全く世代ではない僕が、最初に仮面ライダーに触れたのが石ノ森先生の原作版(便宜上そう呼ばせていただきます)。それ以来、石ノ森章太郎先生の漫画のファンです」。これ、すごいね。
「そのため今回のシン・仮面ライダー、僕にとっては宝物のような作品になりました。この映画には仮面ライダーのみならず、石ノ森作品へのリスペクトが詰まっていると思うのです。庵野監督の作品は細かいカット割りを多用することが特徴ですが、今回はこのカット割りは、そのまま漫画のコマ割りとシンクロしているシーンが散見され、よく言われるアニメ的な表現ではなく、漫画的な表現になっていると感じます。
特に顕著なのがハチオーグ戦。空中からアジトに突入するシーケンスは、原作の蝙蝠男に空から落とされたライダーが着地するまでのコマ割りとほぼ同じ構図になっています。また、暗闇で立ち塞がる相変異バッタオーグは、原作で雨けぶる中、本郷の前に現れるショッカーライダーの見開きそのままです。このような表現のみならず、スターシステムよろしく石ノ森作品のヒーロー達が示唆的に登場するのも良かった。
人工知能から誕生したキカイダー(ジロー)を思わせるJ。原作では人間と同じになるために奔走したジローを思わせるこのキャラクターが、アップデートを経て、あくまで機械らしく人間に寄り添い続ける選択をしたロボット刑事のKになる、というのは、見えないところに広がるドラマを感じさせます」。たしかに最初は(キカイダーのように)半分、アシンメトリーだったのがね、ロボット刑事K的な感じになる。
「また、イナズマンにV3、いくつかの石ノ森キャラクターの要素を併せ持ち、最後には未来を託していくイチローは、一部の石ノ森作品を様々な意味で体現しているように思いました」。
一方、ダメだったという方。久々にちょっと丸ごと紹介しましょう。「コーラシェイカー」さん。「高速で切り替わるクローズアップショットでのアクションは新鮮で見応えがありましたが、引きの絵での重力を無視したアクションは、ユニークではあるが、オタクのフィギュア遊びを映像化したかのような、格調の低いものになっていたと思います。庵野監督はあえてこの方向性でアクションを撮っているのでしょう。精力的に実験的なチャレンジをし、どうかと思うところも含めて、面白く飽きなかったです。
ただ、エヴァの語りなおしのようなストーリーは、コンパクトでわかりやすいですが、イマイチでした。歯止めのない誇大妄想的な理想を抱えた、支配と搾取しか知らない精神的に孤独な怪人たちと、葛藤を抱えながら、目の前の人との関わりの中で自分の生き方を模索するヒーローたち。という大体の話はわかるのですが、哲学風の言葉遊びはこちらに深みを感じさせてくれませんし、人間に過度に期待して勝手に絶望しているような未熟さは看過できませんでした。
そもそも幸福を語るにしても、ある程度普遍的な幸福と個人の幸福とは、ごちゃまぜに語っても混乱するだけです。個人レベルでは絶望も幸福も人それぞれです」。途中、竹野内豊さんがね、「絶望もそれぞれ! 乗り越え方もそれぞれ!」みたいなね(笑)。「ああ、はあ……」みたいなことをね、言いますけどね。
「一方、社会的な幸福というのはある程度は一般化できるものです。幸せに生きやすい環境や絶望に陥りやすい環境がどういうものかという、社会のあり方はある程度了解がとれるものです。怪人は社会のあり方を語り、ヒーローは個人の生き方を語る。これは根本からズレてはいませんか。ここら辺の分別がつかず、ただ整理がついていないだけなのに、さも深いことを言ったかのように悦に浸る、まともに社会の話ができない日本言論の病理を素直にストーリーに反映してしまっていて残念でした。
本作を見る限り、この映画を作った人達は、この映画で扱っているテーマに興味がないんじゃないかと思いました」というようなね、テーマに関する手厳しい意見もございました。映像に関してもね。はい。ということで皆さん、メールありがとうございます。『シン・仮面ライダー』、私もTOHOシネマズ日比谷、そしてバルト9ドルビーシネマで2回、観てまいりました。
ゴジラやウルトラマンと比べて、「シン」が難しい仮面ライダー
この映画時評コーナーでは、2016年8月13日にやった『シン・ゴジラ』、そして2022年6月3日に取り上げた『シン・ウルトラマン』に続く……まあその間にね、『シン』がつくシリーズとしては一応、2021年の『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』がありますけれども。昭和実写特撮のビッグタイトルの、庵野秀明さんら現行トップオタククリエイターたちによる作り直し、語り直し……つまり「俺たちの考えた〇〇」「俺たちの見たかった〇〇」シリーズ、という意味では、『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』に続いての、今度は仮面ライダー! という。庵野さんにとってはこれ、仮面ライダーは、本丸中の本丸と言ってもいい題材だと思うんですが。
ただですね、仮面ライダーって、現代的観点から見たリアリズム考証とか、今の技術やデザインを使った見せ方、みたいなところにですね、ゴジラやウルトラマンと比べると、新鮮味が出せる余地が、ちょっと少なめではある……という難しさはあると、私は思ってます。というのはですね、時代にふさわしくアップデートした、ハードめなリブート、みたいなことはですね、これまでも仮面ライダーって、結構やってきてるんですね。
それこそですね、『シン・〇〇』っていうネーミングの元祖と言っていいでしょう、1992年のオリジナルビデオ、漢字で「真」と書いて『真・仮面ライダー 序章』、とかですね……これは特殊メイクを駆使した、ほとんどボディホラーですね。ボディホラー的な方向に振り切ってみせた『真・仮面ライダー 序章』とか、2005年の『仮面ライダー THE FIRST』とかですね。石ノ森章太郎の原作漫画を含む原点に回帰していく、という方向だけでも、今言った二つとかも含めて、前例があるし。
広い意味では、『クウガ』以降、平成ライダーはずっとそういう「ライダーの再定義」みたいなことをやってもいると。もっと言えば、今回のにも入っている、先ほどのメールにもあった「石ノ森ユニバース」リブートみたいなことも、ちょいちょいあるんですよね。前にライダーの劇場版で、イナズマンが出てきたり、キョーダインが出てきたりとか、そういうのがありましたからね。
だから、たとえば初代ゴジラのあり方を、東日本大震災~東電福島第1原発事故の時代にふさわしくアダプテーション(翻案)……で、実際にはCGを多用しながらも、古き良き特撮の手触りを今に蘇らせてみせた『シン・ゴジラ』の、「ああ、なるほど! 今、ゴジラをやるならばこれか!」感とか。初代ウルトラマンの「存在としてのヘンさ、異様さ」を突き詰めてみせた『シン・ウルトラマン』の、やっぱり「ああ、なるほど! ウルトラマンって、たしかにヘンだよね!」みたいな。
そういうですね、「ああ! たしかにこういうのが見たかったかも!」的なセンスオブワンダーが、仮面ライダーの場合ですね、たとえばちょっとやそっとデザインや設定をリアル化とか現代化したところで、今更そこまでのセンスオブワンダーを醸せない、今更そこまでフレッシュとは言えない、という難しさはあるんじゃないか、と僕は思っていました。
あえて70年代的にやるならアリかも! と思ったが……
一方で、庵野秀明さん自身が演出を手がけられた、最初の特報ですね。あれを観た時にですね、「ああ、なるほど! 思いっきり“そっち”に振り切るってことなら、アリかも?」とも、少し思ったんですね。というのは、要はですね、あのコートであるとかを含めた衣装とか、あとカメラワークとかがですね、思いっきり70年代初め風だったんですね。この特報が。つまり、その初代ライダーの時代感ごと、そのまんまやる、みたいなことか!と(※宇多丸補足:その意味で、昨年のテレビシリーズ『仮面ライダーBLACK SUN』が、またまったく違う角度から同じく70年代初頭という時代に焦点を当てた作品だったのも、一応興味深いあたりではあります)。
で、仮面ライダーって、やっぱりですね、ゴジラとかウルトラマンと比べると、チープで泥臭いところがいい、っていうのはまず、間違いなくあるわけですよ。特にあと、その初めの方のライダーは、70年代初頭ならではのアングラ感、みたいなね……なんかそのドロドロした表現というか、薄暗くてドロドロした、泥臭い表現、みたいなものがすごく強い。原作漫画を含めて、非常に時代の空気みたいなのが込められている。例えば原作にあるその社会批評性みたいなものは、非常に70年代的観点といえる。
その意味では、たしかにですね、ゴジラとは何か? ウルトラマンとは何か? その存在の本質まで問い直した果てで、「オリジナル感のアップデート」が行われるのが「シン」シリーズだとするならば……デザインとか映像などをですね、やたらと今風に洗練させてしまうと、少なくとも初代ライダーの「あの感じ」は出ない。
なので、あえて70年代的に、アナクロに、あえてチープにという、それ込みで『シン・仮面ライダー』、ということならアリかも……という風に、むしろ期待は上がったんだよね、その特報を観て。「ああ、なるほど! こっちに振り切るんだ! さすがやっぱり庵野さん、(仮面ライダーが)一番好きなだけあって、そうだよね、まんまやるよね!」みたいに思っていたわけです。で、実際に出来上がった『シン・仮面ライダー』はじゃあ、どうだったかといいますと、ですね……。
あちこちに出てくる「エヴァじゃん!」
基本はもちろん、元のテレビシリーズと、特に原作漫画ですね……本当に今回、(石ノ森章太郎による原作漫画由来の要素は)結構な割合だと思います。その中の様々な要素をですね、庵野さん流に解釈・アレンジしている、というのがもちろんベースなわけですけども。ただ、結果的にやっぱりものすごく……さっきのコーラシェイカーさんのメールにもあった通り、ものすごく『エヴァンゲリオン』っぽい!としか言いようがない部分も、めちゃくちゃ多い作品なんですよね。結果的に。
まずあの、ラスボス的なキャラが目論む「こうすれば人類、みんな平等だし、幸せじゃね?計画」っていうのがあるわけですね。で、そのビジョンとしてもですね……あとその、動機ですね。要するに、身内の不幸が動機になってるわけですけど……完全に、「人類補完計画」そのものなわけですよ! そこでもう、「エヴァじゃん!」が来るわけですね。ゆえに、その他者性を全部ないことにしちゃう、というその計画が、最終的に主人公たちによって乗り越えられていく、というそのプロセスとか理屈も、特に『シン・エヴァンゲリオン』っぽいっていうか……そういう『シン・エヴァンゲリオン』っぽい改心の仕方をするわけですよ。「エヴァじゃん!」っていう感じなんですね。
あまつさえですね、自分で制御しきれない暴力的な力を、しかもそのなんというか、一種父的な存在から強制的に与えられた……タスクと力を強制的に与えられたヘタレな男の子が、半分人工物でもある美少女に叱咤されながらも、導かれ、守られ、最終的には愛されていく。で、使命を果たす決意をする、という……「エヴァじゃん!」っていう感じなんですよね(笑)。
あと、たとえば主人公たちがちょっと休息を取る、っていうシーンのところで、なんかボサノヴァ風の、「おしゃれな」音楽が流れ出すっていう……「エヴァじゃん!」っていう(笑)。あちこち「エヴァじゃん!」っていうのが来るわけですね。はい。その意味では特にですね、やっぱりあの、浜辺美波さん。さっき言ったように、スタイリング……あの革のロングコートとか、佇まいはやっぱり70年代初頭風。まあ、『女囚さそり』風というかな……だったりして、まあ70年代風で、それもすごくいいんですけど。似合ってるんだけど。浜辺さん自身が、ちょっと古風な感じの美少女だから。
ただキャラとしての実質は、ぶっちゃけ「綾波レイ+アスカ+ミサトさん」ですね。完全にね……という、ザ・庵野秀明ワールド女性キャラ!なわけですけど。それをある意味、実写化したような体現ぶり。想像以上にハマっていて、浜辺美波さん、すげえいいな!っていうね。綾波実写化に見えるわ!みたいな感じで、良かったと思います。あとあの前半で見せる、ちょっとタクティカル風なガンシューティングも、非常に決まっていた、っていう感じですね。ちょっとゲームの『CONTROL』っぽい感じもありましたけど。
ただまあ、泣く時にさ、その男性キャラクターに「胸、貸して」とかさ……あとその、着替えのところのうんたらかんたら、とかさ。やっぱりなんか、旧オタク的な女性キャラクターだな、っていう感じは、相変わらずだなーって感じはしますけどね。
あとは、一応最後に仮面ライダーシリーズおなじみの名前を名乗りはするけども、とはいえどう見ても過去の「シン」シリーズとのクロスオーバー感を感じずにはいられない、竹野内豊さんと斎藤工さんのキャスティングも含めて……しかも、どっちも政府の人間、っていうね。『シン』シリーズっぽいんですよ……『シン』シリーズの、特に官僚とか役人に対する、謎の信頼感(笑)。それが『シン』シリーズっていうのにはありますが……それも含めて、まあ当たり前っちゃ当たり前なんだけど、やっぱりこれ、あくまでもこれは、「庵野秀明ワールドとしての仮面ライダー」なんですね。仮面ライダーである前に、やっぱり庵野秀明EYEを通してる、というところ。最初に、『シン』が先に来る何か、なんですよね。というのは、やっぱりつくづく思ったりします。
「思ったより……つらい」
ただ今回の『シン・仮面ライダー』ではすね、さっきから言っている「エヴァじゃん!」なラスボス計画とその乗り越えが、非常にウェットかつ説明的なセリフで……悪い意味で垢抜けない、やっぱりウェットかつ説明的な描写、演出なども垂れ流し状態で、ダラダラダラダラ描かれるばかりで。これがその、劇中の本郷猛のセリフを借りるなら、「思ったより……つらい」っていうね(笑)。すさまじく、かったるいんですね。「思ったより……つらい」っていう感じ。
「思ったよりつらい」ポイントといえばですね、他にもいろいろありまして。これは観た人みんな言ってることですけど、主にCGを使ったり、デジタル的な処理をしているアクションがですね……先ほど言った意図的なアナクロさ、チープさにも当然、なっていないんです。デジタル処理だから。(意図的なアナクロやチープには)なってないから、正直、本気のチープっていうか……コミカルにさえ見えてしまうところが多いし、不自然だし。まあ、言わせてもらえば、ショボいわけです。
『シン・ウルトラマン』ではまだ、その不自然さというのが、ウルトラマンという存在の超現実感……もう「地球の物理法則無視です!」みたいな感じの、あの奇妙さと合っていて、それは全然よかったんですけど。やっぱり仮面ライダーでそれをやられると、なんかその奇異さが目立つ、というかですね。ドンブラ(宇多丸も大ファンの『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』における多分に意図的でもあるチープなCG処理)感というよりは……紀里谷和明さんの、『GOEMON』とかのアクション表現とかに近い、言っちゃえば滑稽さっていうか、そんな感じになっちゃってると思いました。
でですね、僕は今回の『シン・仮面ライダー』に関しては、その特報の時に感じた、「ああ、この方向で行くなら全然アリだ」と思った、やっぱりその、アナクロでチープっていうところを徹底する……(というよりは)つまり、徹底してアナログなアクション構築、そこにこだわる、そこに知恵を出す、そこで勝負する作品にする、ということに賭けた方が、どう考えても良かったんじゃないかなと思うんですよね。
その、CG的な処理のみならずですね、細かくカットを割っていく……もちろんそれは庵野さんのタッチではあるんだけど、その細かくカットを割って、アクション描写を言っちゃえば「ごまかす」見せ方って、それ自体がちょっともう、古いんですよね。なんか、もう『ジョン・ウィック』の時代ですから。もうちょっとここをだから頑張って……アナログだけど最新、みたいなことはできたはずだと思うんだけど、そっちには行かなかったんですね。これ、非常に残念でした。
あと、もちろん意図的に、極度に抽象化、様式化されていたり、あえて乱暴に省略されたりする、とかも多い作りなんですね。たとえば、ラスボスのあの人がいるところにですね、最初はトンネルをてくてく歩いていく……そうすると、もう着いているんですよね。オープン!(笑) すごいオープン、めちゃめちゃオープン、みたいな。そういう省略感であるとか。あと、「逃げるぞ! 撤退するぞ!」ってビューンと飛び上がったら、もうなんかどこか外にいて、もうバイクに乗ってます、みたいな。そういう意図された省略とか抽象化、様式化っていうのはまあ、あるんだけど。
なので一概にそれの全てがダメとは言わないんだけど。それにしても……アクション的になにが起こったのかよくわからない画や繋ぎが、今回、多すぎです。まず冒頭。いきなり見せ場から入るのは、『シン』シリーズ共通で、これはまあいいことだと思います。かったるい説明から入らないのはいいと思うけども。今回はその、最初のトラックがドーン! ドカーン!ってなるところからして、一体これは何で、主人公2人がどうなったのか、最初の最初にもう、よくわかんないことが起こるので。もう早い段階で、気持ちがちょっと置いていかれてる、っていうか。うーん、なんかよくわかんねえな、みたいなことになる。
まあ、そこからね、あの、崖の上に急に立っている仮面の男!っていう、テレビの第1回そのままのカメラワークであり、展開っていうところ……あと、その後は(やはりテレビの第1回通り)きっちりダムで戦う、っていうところも含めてですね、まあ悔しいかな、やっぱり「キターッ! これこれこれ!」感は、やっぱりありますよ。
ちなみにね、今回のライダースーツとサイクロン号も含めた、その仮面ライダー周りのデザインとか設定は、絶妙なバランスだと思います。これはすごい、結構見事!って言っていいバランスだと思いますけど。さすがに。あとそこからね、ほとんどスプラッター的殺戮……まあ血が見えるだけですけど、ドバドバと血が出るだけですけど。スプラッター的殺戮にいきなり行くところは、『真・仮面ライダー』の冒頭の部分っぽいな、という感じですけども。
怪人デザインのフィット感の悪さ、「絶望」の掘り下げのなさ、事実上「いるだけ」のK……
ただ、その豪華なメンツが演じるオーグたち、怪人たちですね。こっちはね、まずちょっとデザインがなんか、半端に今風で。なんか(レトロテイストが色濃いライダー側のバランスに対して)フィットがよくない上に、そのくせ蝙蝠男は、「あの感じ」(演技のトーンやCGのクオリティ含めはっきりコミカル)じゃん?(笑) 「なんなん?」みたいな。いろいろフィットが悪いし、端的に言うとカッコ悪いなぁ、みたいな感じですね。
あと、音楽とかSEも、初代ライダーそのまま。要するにサンプリングしてるところ……庵野秀明さんのタランティーノ性が出てるところ、っていうね。僕はそっちに振り切った方が今回は良かったと思うんだけど、そういうところと、今回用の、ちょっとなんかデジタル的なアレンジを含む、元のテーマ曲をアレンジしたバージョンの劇伴っていうのが、ちょっとやっぱり世界観として、ちぐはぐ。だから、とにかくどっちかに振り切らないと、みたいな感じなんですよね。
また、各オーグたち、怪人たち。それぞれに深い絶望を抱えているから怪人化、という設定が、口では語られますけど……全くそれぞれが掘り下げられないので。ラスボスのね、さっき言ったように、「問答」中心なんですよ、クライマックスが。「俺は絶望してるから……その絶望をした人間としてこういう理想郷を考えたんですよ」って言うんだけど、それ(オーグたちがそれぞれどれほど深い絶望を抱えているか)に関して、あんまり掘り下げがないから。なんか説得力がやっぱり、ないんですよ、その最後の問答とかに。
そもそも、このオーグという怪人なんですけど……「人間チームだけで倒せるんかーい!」っていうところもあったりとかして(笑)。特にあの、長澤まさみさん演じるね、サソリオーグの扱いは本当にひどすぎる、といったところだと思いますね。
あとその、石ノ森ユニバースのクロスオーバーも……先ほどの方の読みとかも面白いと思うけど、たとえばそのロボット刑事KにあたるKとかが、事実上「いるだけ」っていうのは、どうなの? あいつが味方するなり、敵になるなり、なんかはしないとさ、最後……お前、なんなの? 役立たず? 本当にその、C-3POみたいな仕事しかできないの、お前?(笑)みたいな感じでさ。なんか、あんまり別に(その設定や存在感が)生きてるとも思えないし。
■記号的な人間描写は仮面ライダーだと弱点に
そもそも『シン』シリーズ全体を通してですね、これは実は全部に共通する特徴なんですけど、各キャラクターたち、各登場人物たちの性格描写というものがですね、実はつまるところ、「口癖」とか、あとはたとえばその、『シン・ウルトラマン』における長澤まさみさんがおしりパーン!ってやるとか……口癖とか、なんかしぐさの癖とか、そういうところにのみ、託してるんですね。「このキャラクターはこういう口癖を言う」が、(「シン」シリーズにおける)「キャラクター描写」なんですよ。なのでまあ、もちろん記号的な人物感っていうか……言っちゃえばアニメ的な人物描写、ってことでしょうね。
それが、特に仮面ライダーだと……『シン・ゴジラ』は、別に人間ドラマをそんな描かなくていい。『シン・ウルトラマン』もまあ、変な宇宙人が出てきてワーッてなる、でっかい話だからいい。でも仮面ライダーは、どうしたって等身大の、生身の人間ドラマに焦点がくるから。そうすると、やっぱりこの記号的なだけの人物がああだこうだ言う……しかもちょっと理屈っぽいことを言う、みたいなのが、なんとも薄いというか、浅いというか、弱点として見えてしまいがち、というのもあるかもしれませんね。
仮面ライダーやサイクロン号のデザインはいい
なんか貶してばっかですね。ちょっとよくないな。ええと、さっきも言ったように、とはいえ仮面ライダー自身とか、サイクロン号のデザインとか新設定などは、概ねすごく絶妙なバランス、見事だと思います。ただまあ、(無人の)サイクロン号が後ろをついてくるのとかね、ああいう機能のバイクが今もうあるらしい、っていうのはあるけども、とはいえちょっとギャグっぽい、とかもあるけど。
ただあの、コートを着てるのとか……要は、元々仮面ライダーっていうのは、元ネタとしてはバットマン的な、和製バットマンなんだから。バットマン的ですごくいいと思いますし。あと、(マスクから生えている)アンテナ……細かいところですけども、アンテナのデザインが、アンテナが動くたびに揺れたりしないように、ちゃんとデザインされていて。それとか、考えたな、っていう感じがしますね。なので、その意味では仮面ライダーの周りのものが(一定以上のクオリティで)できていて、ちゃんとすごくいいから……それはだから、最低ラインはクリアしてる、っていう言い方はできると思うんですけどね。
ただですね、この話、全体を通して、「SHOCKER当事者」しかほとんど出てこないので。要は、社会の中での孤独、孤高感みたいなのは、そんなに別にないんですね。なので、一番最後のセリフは……原作にもあるセリフが、あえてそれがラストに来てるんですね。要は(仮面ライダー)2号が、1号の思いとか、いろんな魂を背負っていく、という。これって、要するにちゃんとそれぞれライダーというものの孤独が描かれていれば、「いや、俺たちはもう孤独じゃない!」っていう旅立ちとして、感動的にアガると思うんだけど……そもそも孤独の描写があんまりないから、あんまり際立たない、みたいなことになっちゃって。ちょっと、すいませんね。最終的になんか、ネガティブな感想が多くなっちゃってね。
リアルタイムで観て、友だちとやいのやいの言うのがミソ。ぜひ劇場で!
ということで、とはいえ、いろいろ言ってきましたけども。仮面ライダーの、さっき言ったいろいろなリブート的な試み。今までいろいろありましたよ。その『真・仮面ライダー 序章』とか、『THE FIRST』とか……その基準で並べるなら、もちろんその中では一番いいかもしれないし。あと、庵野さんに全てを背負わせすぎなんですよね、言っちゃえばね。庵野さんが何でもできると思うなよ?みたいなところもあると思いますんで。
僕はですね、やっぱりその「オタクの二次創作最高級版」が、なにか突き抜けたものになる……というものをみんな期待して、『シン』シリーズには来ると思うんです。そして、『シン・ゴジラ』ではそれができていたと思うし。『シン・ウルトラマン』の一部もそれができていた。でも、今回は……ちょっとその、なんていうか、「オタクの二次創作の……」ぐらいにとどまっちゃってる感がある。
なので僕はですね、やっぱりここはそろそろ……庵野さんの世代も、もちろんね、ずっと長年やってきてくれて、素晴らしいものを作ってきてるんだから。そろそろ次世代の「博覧強記型トップオタククリエイター」みたいなのが、また一個進めた表現……みたいなのに、この次は期待したいところですね。という風に、思ったりしましたね。はい。
といったあたりでございます。まあ、とにかくリアルタイムで観て、やいのやいの言う、というね。オタク友達とキャッキャキャッキャやる、というのがこれ、ミソでございましょうから。ぜひぜひリアルタイムの劇場で、ウォッチしてください!