TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』毎週月曜日~金曜日 朝6時30分から放送中!
11月16日(木)放送後記
きょうは、旬の味覚のお話です。
ブリや真鯛など、魚が美味しい季節になってきましたが、食べるときに出るゴミの部分を有効活用しようという取り組みが広がっています。
魚の皮を100%使った「フィッシュレザー」
まずは、富山県の会社。株式会社シンクシーの野口 朋寿さんに伺いました。
株式会社シンクシー・野口 朋寿さん
「魚の革」を作っていまして、お魚屋などから廃棄される「皮」を回収してきて、それをもとに魚のレーザーを作っています。
主にですね、真鯛、鮭といったような、普段よく食べる魚を加工していまして、名刺入れやお財布といったような、いわゆる動物の革で作るような製品に加工しています。
「魚のにおい」ですとか「ぬめり」みたいなものは、加工の段階で全くなくなって、本当に動物と同じような厚みもあって、丈夫さもあるかなと思います。
冬だと、こちらはブリがたくさん獲れるので、ブリの皮が多くなったりですとか、魚の旬によって作る革も、少しずつ変わってくる。
「魚の皮」をなめして、レザーを作ったということで、「tototo(トトト)」というブランド名で展開しています。
「スズキ」の財布。見た目はうろこ柄で、蛇やワニ革に似ています。においは全く生臭くありませんでした。6万5千円(税込)

内装には高級感のあるヌメ革を使用しています

「ブリ」の名刺入れ。3万3千円(税込)

「ブリ」のスマホケース。1万2千円(税込)
いま販売しているのは、ブリ、スズキ、真鯛、鮭の、4種類の魚を使った製品。
さらに現在、実験的に作っているのが、フグ、イワシ、深海魚を使ったレザーです。

深海魚の「リュウグウノツカイ」を使ったレザー。(非売品)
町の鮮魚店がお刺身に切り分けるときに、三枚おろしにしますが、その時に出た「皮」を譲りうけて、塩漬け→漂白→なめし(植物成分のタンニンを皮に浸透させて丈夫にする)→最後に色を染めて、縫製していきます。
ただ、手間もかかる分お値段も高めですが、人気すぎて生産が追い付かない状況だそうです。
りんごの「搾りかす」を混ぜた合皮「りんごレザー」
このように本来ゴミになっていたものを有効活用しようという取り組みは、魚の他に「りんご」でも、進められていました。
長野県の会社、株式会社sorena(ソレナ)の、伊藤 優里さんに伺いました。
株式会社sorena・伊藤 優里さん
りんごを原料とした自然由来の「人工皮革」になります。
りんごジュースだったりシードル(りんご酒)を作る上で残る、身とか、芯とか、種とか、皮ですね、そういった部分の粉末を混ぜて、仕上げていく。
バックだったりお財布だったり、あとは家具だったり、そういうものにも今、チャレンジしている。
出来立てはアップルパイみたいな感じの匂いが広がります。
だんだん日ごとに匂いは飛んでいってしまうので、皆さんのお手元に届く時には、もう匂いはないかなとは思います。
こちらでは、りんごから作った「りんごレザー」を、今年から本格発売しています。
「合成皮革」で、先ほどの魚のように、りんごの皮そのものを貼り合わせて作っているのではなく、りんごの搾りかすをパウダー状にして、合皮を作る際に、混ぜ込んでいるそうです。

「りんごレザー」を使ったトートバッグ。5万9800円(税込)。見た目は、普通のバッグや靴ですが、使用されている樹脂の3割ほどに、りんごの搾りかすが混ぜ込まれています。においは、無臭でした。

りんごレザーのレディースシューズ。1万4300円(税込)
計算上は、およそ300キログラムの搾りかすから、100個のかばんが作れるということで、一般的な合成皮革と比べて、環境負荷の高い「石油由来」の原料を大きく減らすことができるそうです。
でも、どうして「りんご」なのか?伊藤さんは、昔、フルーツジャムを作る工場で働いていたそうですが、製造過程で出る、搾りかすの多さを目の当たりにし、問題意識を持ったそうです。
一方、世界では、パイナップルやバナナなど、様々な「植物由来」のレザーが広がっているそうですが、「せっかく長野にいるなら、りんごでしょう!」ということで、研究を始めました。(長野県のりんごの生産量は、青森に続いて第2位)
長野のりんご農家の、安定的な収入源に
そして発売を始めて1年。中でも、りんごレザーを人一倍、応援してくれる人たちがいるそうです。
株式会社sorena・伊藤 優里さん
一番反響があるのは、地元の農家さんたちですね。
長野県の飯綱町(いいづなまち)っていう信州の北部にある町なんですけど、この町って全国でりんごの生産量1%で、人口1万人の小さな町なんですけど、年々高齢化や過疎化が進んでまして。
作っていく工程の中で、本当に「馬鹿らしいな」って思うことも何度もあるみたいで。
本当だったら贈答用で売れるっていうのが一番農家さんにとっては大きな収入に繋がるんですけれども、ちょっと色が変わってしまった、形が違ってしまう。それだけで、売値が半値になっちゃったりとか。
極めつけが2019年に、台風19号で大きな被害がありまして、水浸しになって売り物にならなくなった。
それがこの「りんごレザー」を見て、「うちの地元のりんごも何とかできないか」と。継続していくっていうところに対してのモチベーション、ですよね…。
果物として売れなくても商品になるため、現在は町役場とも一体となって開発を進めていて、地元の農家さんたちのモチベーションに繋がっているようです。
同じ労力を使って育てても、災害やちょっとしたキズで、単価が一気に変わってしまいます。地域活性や、農家の安定的な収入源にも、繋がっていく可能性がありあそうです。