2020年8月、交通新聞社から『関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか』という本が発売されました。著者は伊原薫氏。
「ずいぶんとまた挑発的なタイトルだな……」と関西私鉄の顔を思い浮かべながらパラパラ読んでみたのですが、これが面白い。伊原氏の軽快な分かりやすい筆致で、阪急の創業者・小林一三氏のエピソード、阪急電車のサービスやこだわり、阪急の歩みを通じて「阪急」のイメージや経営哲学が立ち上るような仕掛けになっています。
一ライターとして読んでて「ずるいな……」って思っちゃうのは、伊原さんという料理人の技もさることながら、素材となる阪急そのもの、ひいては小林一三伝説がことごとく面白いこと。氏は「都市間を鉄道で結ぶ」という発想からいち早く脱却し「鉄道会社が大規模な住宅開発を行う」というパラダイムシフトを起こした実業家として知られていますが、ターミナル百貨店や会社案内といった「世界初」「日本初」(※)の発想を次々と形にしていったアイデアマンでもあります。
※……ターミナル百貨店の「世界初」については諸説ありますが、もちろん1920年の白木屋開業や1926年の三笠屋百貨店開業などについても本文中で丁寧に触れられています。
関西人の心に染みる「ソーライス」のエピソードや「お客様ファーストの精神」など、その人柄や先見性がうかがえる話も多数収録されており、逸話を集めるだけでもはちゃめちゃに面白そうなんですね。
でもそれじゃ「伝記」になってしまう。この本はあくまでも阪急電車とそこから芽吹いたブランドを語るものですから、阪急電車の代名詞でもある「マルーン色」や個性的な電車の「顔つき」についてもしっかり紙面を割く。鉄道ファンには既知の情報も多いかと思いますが、本文ではその裏側にあるサービス精神についても記述されていますので、通読することでより深い、本質的な理解が得られるわけです。
阪急というブランドがどのように成長していったか、なぜここまで大きく成長できたのか。一読すれば全てが分かるとまでは申しませんが、理解の端緒は得られますし、少なくとも「阪急ファン」にはなってしまう。
文:一橋正浩



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