2024年春に予定される北陸新幹線の福井・敦賀延伸開業に向け、交通まちづくりが進むのが福井県の県庁所在地、人口26万人の福井市です。
福鉄は軌道(路面電車)、えち鉄は一般鉄道で、両社によると「異なる事業者による鉄道と路面電車の相直は全国初めて」とか。私が福鉄とえち鉄に初乗車したのは2016年11月、「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in福井」の取材で福井市を訪れた際です。当時の取材ノートから、相直にいたる経緯をたどりつつ、5年を経過しての近況、さらに関係する話題を集めました。
2年半のブランクを挟んで復活したえち鉄

福鉄とえち鉄の相直は、乗り換えを不要にして福井市内の移動を便利にする目的です。もう一つ、地方鉄道の例に漏れず厳しい環境に置かれる両社の経営を刷新するのも、大きな狙いでした。
最初はえち鉄のプロフィール。前身は京福電気鉄道(福井支社)で、社名そのままに京都、福井にそれぞれ路線がありました(京都市内の嵐山本線と北の線は現在も運行中で、古都観光客に親しまれています)。
※2021年9月5日16時11分追記……記事掲載当初、「京都と福井をつなぐ構想」についての言及がございました。そうした構想は存在しなかったことを2021年8月時点で京福広報部に確認済みでしたが、編集の段階で修正が漏れておりました。当該記述は修正済みです。心よりお詫び申し上げます。(鉄道チャンネル編集部)
京福時代の2000年12月と2001年6月、2度の衝突事故を発生させてしまいました。
ところが、代行バスは遅れが慢性化。沿線に「鉄道を復活させてほしい」の声が起き、県が主体になって第三セクターのえち鉄を設立、2003年に運行を再開しました。えち鉄は福井―永平寺口間の勝山永平寺線(27.8キロ)と福井口―三国港間の三国芦原線(25.2キロ)の2路線を運行します。

いったん廃止された鉄道が、2年5カ月間もの空白期間を挟んで復活するのは非常に珍しい。えち鉄は、パーク&ライド駐車場の整備や企画きっぷで、順調に利用を増やしてきました。
福井市中心部は路面電車、郊外は専用軌道の福鉄

えち鉄同様、福鉄も地域の支援で再生を遂げた鉄道です。路線は福武線(越前武生―田原町20.9キロ、福井城址大名町―福井駅前0.6キロ)で、郊外は専用軌道の鉄道、福井市中心部は道路上を路面電車として直通運転します。鉄軌道直通は広島電鉄などと同じで、LRT(次世代型路面電車)の要件を満たします。
2000年度以降、経営悪化で存廃が議論されましたが、地元は存続を決断。施設を自治体が保有し、鉄道事業者は運行に専念する経営の上下分離で、経営を立て直しました。
田原町駅にえち鉄と福鉄の連絡線を整備
えち鉄と福鉄は元々、田原町駅で接続していましたが、線路はつながっていませんでした。そこで福井市が主導して、両社をつなぐ連絡線を整備して実現したのが、2016年春の相直です。相直区間は福鉄越前武生~えち鉄鷲塚針原間の26.9キロ。実施にあたっては、田原町、八ツ島、鷲塚針原などえち鉄6駅に低床ホームを整備しました。
えち鉄ホームは鉄道用で高く、路面電車の福鉄が乗り入れるには低床ホームが必要でした。さらに信号・電気設備を改修、車両は福鉄がLRV(ライトレールビークル=LRTの車両)2編成を導入しました(その後、えち鉄もLRVを導入)。
相直で利用客は2.9倍に増加
全国大会in福井当時のデータになりますが、相直区間の利用客数は2016年4~9月の半年間で延べ6万2900人(乗車券、回数券、定期券の発売枚数から推計)で、2015年同期比2.9倍に増加しました。
福井が、全国トップクラスの〝マイカー王国〟という現実は変わらないものの、福鉄とえち鉄は福井市内の公共交通機関としての存在感を増しています。
福井駅前に乗り入れた福鉄
相直と並ぶ、福井市中心部の鉄道プロジェクトが福鉄の延伸です。記事冒頭の図をご覧いただきたいと思いますが、福鉄は福井城址大名町から分岐してJR福井駅前に乗り入れる〝ひげ線〟のような線形です。ひげ線の通称は駅前線。2016年3月に完成したプロジェクトでは、ひげ線を駅前広場まで143メートル延伸しました。
距離的にはわずかですが、福井駅西口広場には福鉄のほか、JR、バス、タクシーなどの交通機能が1カ所に集積され、乗り換え利便性が大幅に向上しました。
連立、駅広整備、新駅開業……

ここで取材ノートをいったん閉じ、話を現代に移します。今後の福井を大きく変えるのが、2024年春に予定される北陸新幹線の福井・敦賀延伸開業です。新幹線まちづくりについては、2021年7月にオンライン開催された「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in滋賀」で、福井市都市戦略部の小嶋直人次長が報告しました。
福井駅周辺では2007年度以降、12件のプロジェクトが連続進行しています。鉄軌道に関係するのは、①福井駅付近連続立体交差事業、②福井駅西口広場と福鉄駅前線一体整備、③LRV導入、④電停の改良・再配置、⑤路面電車軌道の改良、⑥えち鉄の新駅「まつもと町屋駅」開業――と6件もあります。
鉄道が分断していた市街地を一体化したのが連立事業で、2005年3月に先行供用開始したJR北陸線に、2018年にはえち鉄が続きました。鉄道高架下の交差道路は2社合計で25路線もあります。
新しい福井のシンボルが、JR福井駅西側の福井城址に隣接する福井市中央公園。2万平方メートル超のスペースがあり、市民や福井観光客のスポットとして親しまれます。現在はコロナで休止中ですが、音楽フェスティバルも開かれます。

えち鉄、福鉄、新しい三セク鉄道で事業連携
福井市の鉄道で進むのが、地方鉄道の事業連携です。連携するのは、えち鉄と福鉄――だけでありません。北陸新幹線延伸で、並行在来線のJR北陸線は地元(福井県)が主体の第三セクター鉄道に移管されることになっており、福井の地方鉄道は三セクを加えた3社になります。
小嶋次長の報告によると。福井市は当面、えち鉄と福鉄で事業連携。資材の共同調達や設備工事の一括発注に加え、振替・代行輸送の相互協力協定を締結しました。実際に2021年冬季の豪雪では、振替輸送が実施されました。
鉄道需要を掘り起こす、えち鉄の新駅

最後はもう一度、取材ノートに戻って、全国大会in福井で発表された新駅の開業効果。えち鉄は、2007年に「日華化学前」と「八ツ島」、2015年9月に三国芦原線の福井口―西別院間に「まつもと町屋」を開業しました。
まつもと町屋駅の利用動向を調査したのは、福井工業大学と福井大学の合同チーム。周辺住民約700人を対象にしたアンケート調査では、新駅利用者の7割強が「今まで福井口駅または西別院駅を利用していた」と回答したものの、「新しく鉄道を利用し始めた」も3割弱あり、新駅が鉄道需要の掘り起こしに一定の効果を挙げることが判明しました。
新駅のある福井市松本地区は、市内中心部から2.5キロほど北方。福井口―西別院間は1.6キロあり、周辺住民が新駅開設を要請。自治体の助成も活用しながら、単線の線路にホーム1面という簡素な構造の駅を開設しました。
新駅開業前に鉄道を使用していたのは192人で、乗降駅は福井口100人、西別院92人。新駅開業で福井口利用者のうち82人、西別院は68人が、まつもと町屋駅に切り替えました。さらに、「従来は余り鉄道を使っていなかった」と回答した、新規需要も59人ありました。
新駅に対する見方で、最も回答が多かったのは「地区の新しいシンボル」で、以下「地区の新しい発信源」、「外出時の便利さ」、「新駅駅前の明るさ」の順。新駅で一般的に考えられる通勤通学の便利さより、地域のシンボル性を評価する声が多かったのは、地域の人たちが鉄道を単なる移動手段という以上に見ている証拠のように思えます。
文:上里夏生