鉄路と道路を走行できるDMV(デュアル・モード・ヴィークル)

四国の路線図をよく見ると、全体を環状に巡る鉄道路線が高知県の室戸岬のあたりで途切れていることに気付きます。土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の終点「奈半利駅」と高知県の最東端駅である阿佐海岸鉄道「甲浦駅」は、2023年現在、鉄路で結ばれていません。

この区間にも鉄道を敷設する計画がありました。今から101年前の1922(大正11)年、改正鉄道敷設法で「高知県後免ヨリ安芸、徳島県日和佐ヲ経テ古庄附近ニ至ル鉄道」として予定線の指定を受け、日和佐~牟岐など一部区間が開業しました。

残る区間も戦後に入り工事が進められたのですが、国鉄再建法の施行により凍結。第三セクターの土佐くろしお鉄道や阿佐海岸鉄道に委ねられるも、奈半利駅~甲浦駅間の鉄路が結ばれるには至りませんでした。阿波と土佐を結ぶ「阿佐線」(工事線としての名称)は、土佐くろしお鉄道や阿佐海岸鉄道の路線名にその名をとどめています。

デュアル・モード・ヴィークルが結ぶ

そんな「阿佐線」が、1日限りではありますが、DMV(デュアル・モード・ヴィークル)でシームレスにつながります。

DMVはマイクロバスをベースに改造された乗り物です。

道路走行用のゴムタイヤと線路走行用の鉄車輪を装備することで、バスと鉄道の両方のモードに対応します。モードチェンジにかかる時間は15秒ほど。

2021年12月から阿佐海岸鉄道が営業運行を行っており、同社の鉄道路線やその周辺の道路を走行しています。土日祝日には甲浦駅から「海の駅東洋町」を経て、「むろと廃校水族館」「室戸世界ジオパークセンター」「室戸岬」、そして「道の駅とろむ」へも乗り入れています。

高知県は7月21日、このDMVで1日1往復限りの限定特別運行を実施すると発表しました。運行日時は2023年8月30日(水)。

行程は下り 阿波海南文化村→奈半利駅、上り 奈半利駅→阿波海南文化村で、座席は片道17席用意されます。詳細なダイヤは7月下旬に公開され、申込受付が始まります。

高知県に詳しい話を聞いてみた

DMVで幻の「阿佐線」を走破する、という企画は鉄道ファンにとっては大変興味深いものに思えます。そこで高知県の交通運輸政策課に企画意図などをうかがいました。

――DMVが8月30日限定で阿佐線未成線区間を走破し、土佐くろしお鉄道奈半利駅まで初めて運行するということですが、この企画は高知県(自治体側)・阿佐海岸鉄道(交通事業者側)どちらが主体となって企画されたものでしょうか?

「高知県側から企画を提案させていただき、阿佐海岸鉄道様ならびに沿線関係者様の御協力のもと実施するものです」

――発表された企画の内容はとても興味深いものに思えます。どのような意図でこのような特別運行企画を発案されたのでしょうか?

「徳島県と高知県の双方で交流を生み、DMVの認知度向上・利用促進を図ることを目的として提案させていただきました。当課は公共交通の所管課でありますので、地域の公共交通に興味を持っていただくきっかけとなるような企画の打ち出し方をさせていただいております」

――申込は高知県庁HP上で案内されるとありますが、高知県で受け付けるのでしょうか?それとも高知県が阿佐海岸鉄道の予約ページなどのURLを張り、誘導するようなかたちでしょうか。

「阿佐海岸鉄道様及び本県HPを通じて、特別運行専用の予約申込みフォームにアクセスいただく形となります」

――今後同様の企画を計画される、または定期運行のルートとして検討されるということはあり得ますでしょうか?

「現時点では全く未定です。今はまず8月30日の特別運行を成功させることに注力しております」

――ありがとうございました。

レールの上を列車が走る……というかたちではありませんが、未完成の鉄路が一本につながったかのように「乗り換えなし」でシームレスに結ばれるのは、大正時代から存在した構想が形を変えて令和に実現するようなものかもしれません。詳細なダイヤ等の公開が楽しみです。

【画像】特別運行のチラシ

「阿佐線」の夢が令和に実現!?DMVが8月初めて奈半利駅へ 高知県に企画意図を聞く
画像:阿佐海岸鉄道

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